2021年シーズンも残すところ6戦。テキサス州のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行なわれる第17戦アメリカGPを皮切りに、南北アメリカ大陸での3戦、そして中東でのラスト3戦へとなだれ込む。 レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン…

 2021年シーズンも残すところ6戦。テキサス州のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで行なわれる第17戦アメリカGPを皮切りに、南北アメリカ大陸での3戦、そして中東でのラスト3戦へとなだれ込む。

 レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンは、選手権リーダーとしてこの地に乗り込んできた。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターにも、緊張感が漂う。



角田裕毅は初めてサーキット・オブ・ジ・アメリカズを走る

「トルコGPでマックス選手がドライバーズ選手権のトップに返り咲きました。非常に僅差で激しい戦いになっていますから、今後さらにその戦いは厳しくなるでしょう。

 我々エンジニアリング面を担当する者としても、チームと協力して1戦1戦最善を尽くすことになります。とにかく、パワーユニットの性能を最大限に引き出すということ、いつ何時、何が起きても臨機応変に対応できるよう備えること、そしてミスが許されない状況での戦いになっています」

 前戦トルコGPではメルセデスAMGに大差をつけられ、優勝争いを演じることができなかった。

 もちろん、サーキット特性も異なればアスファルトも違うため、同じような苦戦が繰り返されることはないだろう。それに加えて、トルコGP後にはフィルミングデーの名目でテスト走行を行なってセットアップデータ収集し、シミュレーター作業と合わせてトルコGPで直面した問題の追究をしたうえで、このアメリカGPに乗り込んでいる。

 フェルスタッペンは言う。

「チームの結果としてはよかったよ。でも、パフォーマンスは最高とは言えなかった。僕らは常に上を目指しているので、ここでまたどこまで行けるかトライしてみる。

 サーキットレイアウトも路面も違うから、比較は難しい。だけど、トルコGP後のシミュレーター作業ではすべて問題なさそうだった。あとは明日、実際に走ってみてからだね」

 セクター1は250km/hを超える高速コーナーが800メートルに渡って続き、シルバーストンや鈴鹿のような興奮をドライバーにもたらす。セクター2には長いストレートがあり、そしてセクター3にはテクニカルな低速セクションと様々なリズムを作り出す。

「走っていてとても楽しいサーキットであることは間違いない。予選でのセクター1はすごくクールだよ。決勝ではセクター2の最後とセクター3の最初はいろんなラインを取ることができるので、いろんなアクションが起きるだろう。

 だから、オーバーテイクのチャンスもあるし、面白いサーキットなんだ。過去にも僕たちはこのサーキットではコンペティティブだったし、今年はどのサーキットでも表彰台を争えるのはもちろん、優勝する可能性もある。それが昨年までとの違いだ」

 シーズン後半戦に入ってから、メルセデスAMGが速さを増してきていることは確かだ。

 サーキット・オブ・ジ・アメリカズは低速から高速まで様々なセクションがあり、長いバックストレートもあることからマシンとドライバーの総合力が問われる。伝統的にメルセデスAMGとルイス・ハミルトンが強さを誇ってきた場所だ。2014年の現行パワーユニットになってからは、すべてのレースでメルセデスAMGがポールポジションを獲得し、グリッド2列目以降からの優勝はない。

 しかし、フェルスタッペンはそれに気を取られることなく、自分達のマシン性能を最大限に引き出すことだけに集中するしかないと語る。

「(メルセデスAMGの速さは)心配はしていないよ、僕らの力でどうにかできることではないからね。僕らは自分たちのことだけに集中しなければならない。まだまだもっとうまくやれることがあるから。

 トルコGPでは、また多くを学ぶことができた。自分たちはパッケージのパフォーマンスをさらに引き出せるよう、努力するしかない」

 サーキット・オブ・ジ・アメリカズはもともとが湿地帯に建設されているため、地盤が沈下して路面の凹凸が目立っていた。前回開催の2019年には複数の箇所に大きなバンプがあり、それを解消するためにサーキットの約40%に渡って再舗装が施されたものの、3週間前に行なわれたMotoGPでもまだバンプ問題が指摘されていた。

 しかし、二輪に比べれば四輪はバンプへの許容範囲が広く、そのバンプへの対応はネガティブ要素であると同時に、チャンスにもなり得る。

 通常のサーキットとは違い、空力最優先のガチガチに固めた脚回りにはできない。そこをいかにうまくこなし、最良の妥協点を見出すか。アルファタウリのようなチームにとって、それは予想外の勢力図を生み出すチャンスになると、ピエール・ガスリーは語る。

「僕は(バンプ問題を)ネガティブに捉えるつもりはない。マシンセットアップの面でまた違ったチャレンジだよ。スムーズなサーキットはどんなセットアップをすればいいかわかるけど、こういうバンピーなサーキットではいつもとは違い、妥協を含んだセットアップが必要になる。それがいつもと違う面白さをもたらしてくれると思っている」

 角田裕毅にとっては、初めてのサーキット・オブ・ジ・アメリカズだ。シミュレーターでじっくりとサーキット習熟を行なったうえで、やって来たという。

「トルコGPのあと、レッドブルのシミュレーターで2日ほど走行をしてきました。自宅のシミュレーターでもエンジニアと一緒に、かなりの周回数を走り込みました。

『iRacing』を使っていて、それ自体はとてもいいんですが、シートポジションが悪いのかステアリングを切るとドライバーの腕が大きくてエイペックスが見えなくて......。いつもソーセージ縁石をヒットしてクルマを壊してしまい、すごくストレスが溜まりました(苦笑)。

 でも、準備はうまく行きました。実際に走るのが楽しみです。トラックウォークをした感じでは、セクター1は鈴鹿に似ているなと感じました」

 前戦トルコGPではハミルトンを抑え込み、それによって得たものもあった。だが、スピンを喫してしまい、それ以降はペースが上げられずにポイントを逃し、不本意なレースとなってしまった。

 ハミルトンを抑えてフェルスタッペンの選手権リードに貢献したとはいえ、角田自身はチームに対して謝罪の言葉を重ね、マシンを止めたあとに拳でステアリングを殴りつけた。チームのためにポイントを持ち帰るという、最も目指していた仕事が果たせなかった自分への怒りがあふれていた。

「僕はまだ自分のドライビングやレース週末全体のビルドアップに集中すべきなので、チームがプレッシャーをかけるようなことはしませんが、僕としてはプレッシャーも感じています。もちろんチームのランキング5位争いを助けたいと思っています。僕らにはいいクルマがあるし、チームもいいわけですから、ランキング5位が獲得できると自信を持っています」

 トルコGPではモノコックを交換し、フリー走行から順調にペースを上げて予選Q3に進んだ。後半戦から採り入れたステップバイステップのアプローチ方法で、ようやくこれでいいのだという答えが見え始めている。

「トルコGPは金曜の走り始めからいいペースで走ることができましたし、僕にとってポジティブな週末になりました。抜かれてからはあっという間に離れて行ってしまったので、ハミルトンのドライビングを観察することはできませんでしたけど、彼のオーバーテイクの仕方、様々なラインを取ってオーバーテイクを仕掛けるという点は勉強になりました。

 スピンのあとはタイヤの温度が低すぎてペースを上げられませんでしたが、レース週末全体のペースには自信が持てました。今週末はもっといいペースをキープできればと思っています」

 自分のため、そしてチームのためにも、角田はここでひとつの流れをしっかりと掴み取りたい。

 レッドブル・ホンダ、アルファタウリ・ホンダ、そして角田裕毅、それぞれのアメリカGPが始まる。