元日本代表WTB(ウィング)大畑大介インタビュー@後編 テストマッチ最多トライ記録(69トライ)保持者である元ラグビー日本代表・大畑大介氏のインタビュー前編では、5年前に亡くなった平尾誠二氏の思い出を振り返ってもらった。後編では、男女とも惨…

元日本代表WTB(ウィング)大畑大介インタビュー@後編

 テストマッチ最多トライ記録(69トライ)保持者である元ラグビー日本代表・大畑大介氏のインタビュー前編では、5年前に亡くなった平尾誠二氏の思い出を振り返ってもらった。後編では、男女とも惨敗に終わった東京五輪、2023年ワールドカップでベスト4以上を目指す日本代表、さらには来年1月から始まる新リーグについて話を聞いた。

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エース福岡堅樹のポジションは誰が継ぐのか

---- 今夏に行なわれた東京五輪、7人制ラグビー日本代表は残念な結果に終わりました。男子は11位、女子は最下位の12位。セブンズでも活躍された大畑さんの率直な感想を聞かせてください。

「与えられた環境のなか、選手はもちろんのこと、男子の岩渕(健輔)、女子のハレ(・マキリ)といったヘッドコーチも一生懸命やってくれたと思います。ただ、やはり現実は厳しかった。自国開催の大会だったので、積極的にいろんなプレーをして世界を驚かせるようなラグビーを見たかったです。

 男女ともに選手の経験値が低かったですし、選手層の問題もありました。ただ、課題を克服するためにできることをすべてやったかというと、やりきれなかったと思います。残念ながら男女ともに、どこで戦う、何で戦う、というものが見えなかった」

---- 今後、日本の7人制ラグビーはどう進むべきでしょうか?

「2019年W杯で日本代表が大きな結果を残せたのは、強豪国と数多く試合をこなせたことがひとつの要因です。しかし7人制の場合は、コロナ禍で自分たちの立ち位置がどこにあるかわからず、世界に対して何をしたらいいかわからなかった。その差だと思います。 だからこそ、選手にはもっとチャンスを与えなきゃいけない。2024年のパリ五輪に向けて、大きな課題はそこにあります」

---- 男子は15人制との兼ね合いで、なかなか選手を招集できないという問題があります。

「僕が選手だったころ頃はまだ両立できましたが、現状のカレンダーでは15人制と7人制を両方やっていくことは本当に難しい。でも、もっと強化したいのであれば、7人制にもっと権限を与えるべきです。付け焼き刃でやれるほど(7人制は)簡単なものではないでしょう。

 人材も無限ではないので、本気でオリンピックに向けて強化していくのならば、もっと若い段階から強化しないといけない。コロナ禍で世界に行けない、国際大会ができないのであれば、国内で大会を開けばいい。そうすれば選手の成長がどんどんうながされる。本気でやるかどうか、僕は日本ラグビー協会が旗を振ることで、できると思っています」

---- 2019年W杯は、日本中で盛り上がりました。ラグビーの認知度が大きく増したことは間違いないと思います。その影響をどう感じていますか?

「競技人口は増えていますし、ラグビーというスポーツを認識している子どもたちも増えました。昔はラグビーという言葉すら頭になかった人たちもいっぱいいて、僕が選手だった頃は強引にでも『ラグビーもあるぞ!』と扉を開けている感じでした。でも今は、ドアノブもあるし、回したらちゃんと開くような状況になっている。全然、違います」

---- 10月23日には2019年W杯以来の国内テストマッチ、日本対オーストラリアが行なわれます。

「この試合を見たら、ファンの人たちがどれだけ国内での試合を待ってくれたのかがわかるので、今後の指標になります。来年1月から国内で新リーグが始まりますが、W杯で興奮した人が日本代表やラグビーに対してどれだけ期待しているのか、それが10月23日にわかると思います」

---- ラグビー日本代表は2021年6月にブリティッシュ&アイリッシュライオンズ(10−28)、7月にアイルランド代表(31−39)と戦い、世界相手に十分戦える姿を見せました。大畑さんから見て、現在の日本代表はどう見えていますか?

「日本代表のスタンダードのレベルは上がりました。昔の日本代表は一貫性がなかったが、今は強化の道筋がしっかりと見えている。個のがんばり、トップリーグのクオリティが上がったことも証明されました。だからこそ、この10〜11月に行なわれる代表4連戦を非常に楽しみにしています」

---- 現在、47名の選手が九州で合宿をしています。期待している選手は?

「今秋の試合で期待しているのは、次世代を担う選手として招集されているFL(フランカー)福井翔大(22歳/埼玉ワイルドナイツ)とLO(ロック)ディアンズ・ワーナー(19歳/ブレイブルーパス東京)です。ふたりは大学を経由せず、ダイレクトにプロ選手としてチャレンジし、ひとつの新しい道を作った。これからの選手の道標になる選手たちだと思っています」

---- 大畑さんも長年務めた日本代表WTBのポジションですが、今年5月にエースの福岡堅樹選手が引退ました。彼に替わる選手は?

「まず、福岡堅樹というあれだけすばらしいプレーを見せてくれたWTBがいたことが、今後のひとつの指標になっています。どの選手がいいのかは、もう少し試合が進まないとわからない部分もありますが、若いWTBにはチャレンジしてほしいですね。

 個人的には、高橋汰地(25歳/トヨタヴェルブリッツ)にがんばってほしい。僕の神戸製鋼時代の先輩(晃仁氏)の息子です。また、今回は招集されていませんが、高校時代から見ている竹山晃暉(25歳/埼玉ワイルドナイツ)にも期待しています」

---- 2年後の2023年には、フランスでW杯が開催されます。

「期待感はめちゃくちゃありますね。昔と違って惨敗は絶対にない。世界も日本のラグビーに対して期待しているし、元日本代表指揮官のエディー(ジョーンズHC)の率いるイングランド代表と同組ですので、それもストーリーがあります。

 ぜひ、日本代表には純粋に夢が見られるチームになってほしい。だからこそ、この秋の試合がひとつポイントになる。しっかりと結果を残すことができれば、上昇曲線のカーブがより上がっていきます」

---- 国内では、トップリーグに変わって2022年1月から新リーグ「リーグワン」が開幕します。大畑さんはコベルコ神戸スティーラーズのアンバサダーも務めていますが、新リーグに期待することは?

「『リーグワンの成功なくして、日本のラグビーの成功はない』です。リーグワンは日本のラグビーが世界に影響を与えるようなリーグになることを目指しているので、各チームも自分たちのカラーを出しながら同じ方向を向いてほしいですね。僕も情報発信することが仕事なので、ラグビーが好きな人、神戸を応援したいなと思う人の架け橋になっていければいいなと」

---- どんなことを情報発信していきたいですか?

「ラグビーはいろんなポジションがあるから、『ほかの競技なら試合に出られなくても、ラグビーなら試合に出られる』というのがひとつのウリです。しかし、神戸のあるラグビースクールは小学校3年生だけで50人いて、試合に出られないような子もいます。

 なので、神戸というチームと連携しながら子どもたちの大会や試合を増やして、ラグビーのよさをもっと表現していければいいかな。ラグビーを続けていく子どもを増やしていくこと、競技を続けていく環境を増やしていくことが大事。僕しかできないこともある」

 現役時代、ピッチを駆け回ってトライを量産していた大畑氏は今、日本ラグビーのためにグラウンドの外を駆け回っている。その歩みが止まることはない。

【profile】
大畑大介(おおはた・だいすけ)
1975年11月11日生まれ、大阪府大阪市出身。1998年に京都産業大から神戸製鋼に入社。主にWTBやCTBでプレーし、日本代表でも長く主軸として活躍する。圧倒的なスピードを生かしてトライを量産し、日本代表58キャップで69トライを記録。2011年に現役を引退し、現在はコベルコ神戸スティーラーズのアンバサダーを務めるなど、ラグビーの振興普及の活動を続けている。