10月23日、ラグビー日本代表は2019年ワールドカップ(W杯)以来となる国内のテストマッチを迎える。その招集されたメンバーのなかで最も注目を集めたのは、2014年以降ずっとキャプテンを務めてきたFL(フランカー)リーチ マイケル(東芝ブ…

 10月23日、ラグビー日本代表は2019年ワールドカップ(W杯)以来となる国内のテストマッチを迎える。その招集されたメンバーのなかで最も注目を集めたのは、2014年以降ずっとキャプテンを務めてきたFL(フランカー)リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)に替わり、「ラピース」ことFLピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が新たなスキッパーに任命されたことだろう。



日本代表の新キャプテンに選ばれたラピース(左)

 9月中旬、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)から「キャプテンになってほしい」と告げられた時、ラピースは驚きを隠せなかったという。

「まったく予想していませんでした。日本代表でプレーするだけでもこのうえなく光栄で名誉なことなのに、さらにそのキャプテンになることはなおさら......。ただ、いいキャプテンになるだけでなく、何よりも今までのキャプテンと肩を並べるようなキャプテンになりたいと思いました。

 一番重要なのは、チームファーストであることです。家族や友人のためだけではなく、会社やジャパンのジャージーのために戦います。私たちはすべての人に、ピッチ内外で『ブレイブブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)』を誇りに思ってほしいです」

 ジョセフHCはキャプテン交代の経緯を、こう語った。

「マイケルは今でも世界屈指のラグビーの選手のひとりです。スキルや経験はチームに必要なので、これからはリーダーの責任を外し、100%プレーヤーとして集中できるようにしたい。マイケルにはラグビーファーストでいてほしい」

 指揮官は新たな主将について、No.8(ナンバーエイト)姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ/27歳)など新世代の若手筆頭ではなく、リーチよりひとつ年下(32歳)のラピースを選んだ訳をこう語った。

「ラピースはすでにW杯でもゲームキャプテンを務め、そこで出色のリーダーシップを見せました。生まれながらのリーダーシップを持っていますし、姿勢もすばらしく、安定感もあり、英語も話せます。日本語はあまり話しませんが、日本のラグビー、文化をきちんと理解しています」

 ラピースのフォローには、CTB(センター)中村亮土(東京サントリーサンゴリアス)が副キャプテンとして支えるという。

 ラグビーのキャプテンは、2003年W杯&2007年W杯でNo.8箕内拓郎が務めたように、フィジカルバトルの多いエリアでプレーし、レフェリーと英語でコミュニケーションを取れる選手がベターだ。リーチの後釜を選ぶ際、2019年W杯のアイルランド戦とサモア戦でゲームキャプテンを務めるなど国際経験豊富で、英語も堪能なラピースを選んだのは自然な流れだろう。

 南アフリカ出身のラピースはラグビーを始めたのは7歳の時。その後、メキメキと頭角を現し、スーパーラグビーのチーターズやブルズでプレーした。2013年秋には憧れの「スプリングボクス」南アフリカ代表に選出。しかし、試合に出場することは叶わなかった。

 もし、1試合でも南アフリカ代表として出場していれば、のちに桜のジャージーでプレーすることはなかっただろう。2015年7月、キヤノンと対戦するためにブルズの一員として来日した際、そこでのパフォーマンスが高く評価されて、2016年からクボタでプレーすることになる。

 そして2018年、ジョセフHCに「日本代表になれる可能性がある」と誘われ、日本のスーパーラグビーチームのサンウルブズの一員となった。そのサンウルブズのメンバーで集まった自衛隊合宿の時、指揮官はラピースの人間性に惚れたという。

「軍隊的なプレッシャーのなか、彼の個性やメンタルが見えてきました。リーダーシップ気質は持っていないと思っていたが、それを発揮してくれた」

 2019年6月、日本代表になるための条件である3年居住をクリアし、7月のフィジー戦で日本代表初キャップを獲得。同時にいきなりゲームキャプテンも務めた。W杯本番では、開幕戦のロシア戦でトライを挙げるなど勝利に貢献。5試合すべてに先発し、ベスト8進出の立役者のひとりとなった。

 ラピースは敬虔なクリスチャンで、サインの横や試合時のテーピングには旧約聖書『詩篇23篇』に由来する「PS23」という文字を書くほど。メディアやファンにはいつもチャーミングな笑顔で、丁寧かつ優しく接する。

 その一方、遊びでタッチフットを興じていても相手にタックルしてしまうほどの負けず嫌いだ。新キャプテンになるにあたり、「もっとも選手たちの力になるようなキャプテンになりたい」と熱く語る。

「今までの経験をチームに還元していくことが大事です。人によっては何もしないで側にいるだけということもあるでしょうし、サポートが必要な人もいます。状況によって何が必要なのかを考えて、その時、その時に選手の力になり、ベストな解決策を考えていきたい」

 W杯でゲームキャプテンを務めた時と、新キャプテンとなった今の心境の違いを聞いた。すると、ラピースは「大きく違います。リーチはすばらしいキャプテンなので、彼らからできるだけ学びたいと思います。私も止まるわけにはいきません」と話した。

 2020年はコロナ禍の影響でまったく活動できなかった日本代表だが、2021年は6、7月の2試合に続き、今秋は10月23日に大分で行なわれるオーストラリア戦を皮切りに、11月には欧州でアイルランド、ポルトガル、スコットランドと対戦する。2023年フランスW杯まで残り2年、大事な強豪との対戦機会だ。ラピースは秋の4試合をこう考える。

「秋に対戦するチームは、それぞれ違う強みを持っています。その強みを消して行かないといけない。相手は(日本代表の)ボールをスローダウンしようとし、試合のなかで(強みとなる)セットピースを増やしたい。私たちはボールインプレーを多くしたい。すべてのチームに特徴やスタイルがあり、私たちも自分たちの戦い方にプライドを持っています。それがきちんと出せれば、おのずと結果として出る」

 ラピースは静かに闘志を燃やしている。

「私たちは春のツアーから進歩を続けている。みんな燃えるような欲望を持っています。勝ちたい。負けたくない。そして新たなものを掴み取りたい」

 新キャプテンが率いるラグビー日本代表は、今秋、大きな成長の跡を見せることができるか。