新型コロナウイルス感染拡大の影響で、およそ1年半におよぶ長いシーズンとなった女子ツアーの2020-2021シーズンも残りわずか。注目されるのは、躍進著しい若手プレーヤーたちが熾烈な争いを見せている賞金女王の行方である。 現在(10月14日…

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、およそ1年半におよぶ長いシーズンとなった女子ツアーの2020-2021シーズンも残りわずか。注目されるのは、躍進著しい若手プレーヤーたちが熾烈な争いを見せている賞金女王の行方である。

 現在(10月14日時点。以下同)、賞金ランクのトップに立っているのは、シーズン8勝を挙げている稲見萌寧(22歳。獲得賞金2億1036万1649円)。それに続くのは、小祝さくら(23歳。獲得賞金1億7427万3583円)、西村優菜(21歳。獲得賞金1億6642万9556円)、古江彩佳(21歳。獲得賞金1億4289万7575円)らである。

 はたして、最後に女王の座をつかむのは誰か。ツアー通算41勝、永久シード保持者の森口祐子プロはこう語る。

「残り試合を考えると、賞金ランク1位の稲見さん、2位の小祝さんが最有力。このふたりが調子を崩して低迷した場合には、3位の西村さん、4位の古江さんにもチャンスが出てきそうですが、さてどうしょう」

 いずれにしても、チャンスがありそうなのは上位4人。以下、それぞれの強み、可能性について森口プロに解説してもらった――。



賞金女王に最も近い存在の稲見萌寧

◆稲見萌寧
「稲見さんの強みは安定感です。彼女のティーショットは曲がらなくて、しかもランが少ないので、ドライバーで狙った場所にピンポイントで持っていけます。その結果、いい位置からグリーンを狙えるため、パーオン率が高く(2位)、実力の証明と言われる平均ストロークも1位という成績を残しています。

 稲見さんのこの安定感は、彼女のゴルフに取り組む考え方や姿勢によって引き出されているのかなと思います。彼女のゴルフを見ていると、技術的にいろんなことをごちゃごちゃやらない、いい意味での"究極のワンパターン"です。

 稲見さん自身が『ひとつのことを極めたほうがラクじゃないですか』と言っているように、彼女は(どのプレーにおいても)自らが自信を持ってできるようになるまで徹底的に技術を身につけ、その自信のあるモノで戦う。これが、安定したゴルフの源だと思います。

 クラブもシーズン中はほぼ変えないそうで、『そこのこだわりはすごいです』とクラブ担当者の方も言っていました。そうして、手に馴染んだクラブを使うことで、安定したショットが打てるわけです。

 そんな稲見さんが賞金女王に最も近いと思われますが、ひとつ気になるのは気持ちの問題です。彼女は『目の前に切迫した何かがないとスイッチが入らないんです』と言っていたことがあります。

 そういう意味では、争うライバルがいたほうが彼女は調子もよくなると思うのですが、最大のライバルとなる小祝さんの調子がここにきてあまりよくありません。これが、賞金女王レースにどういう影響をもたらすのか。最後までわからなくなってきました」

◆小祝さくら
「この熾烈な女王争いで注目されるのは、小祝さんの動向です。というのも、ここにきて小祝さんの強みであるショットの調子があまりよくないからです。

 彼女のスイングはインパクトからフォローで、下半身がツイストするように粘ります。この粘りによって、ショットの安定感が抜群によかったのですが、その下半身の粘りが夏場あたりから弱くなり、インパクトでお腹がやや左上を向く感じになってしまっています。

 その影響はスタッツにも表れています。上位4人のスタッツほぼ均衡しているのですが、唯一フェアウェーキープ率において、西村さんが8位、古江さんが9位、稲見さんが11位であるのに対して、小祝さんだけが61位と数値がよくありません。この小祝さんの変調は、スイングの技術的な乱れというより、疲労からくるものだと私は見ています。

 2020年、2021年を合わせて1シーズンとなり、この長丁場のなかで、ここにきて誰もが肉体的な疲労を溜めていると思います。まして小祝さんは、昨年の冒頭に『賞金女王を狙う』と宣言。以来、常に賞金ランクの上位にいて、この女王レースを引っ張ってきていたので、精神的な疲労もかなり溜まっていたことでしょう。

 そうした状況のなか、東京オリンピックの代表争いの渦中で稲見さんに賞金ランクトップの座を明け渡したあたりで、張っていた気持ちがフッと緩み、それが溜まっていた肉体的な疲労へと一気に及んで、ショットの粘りに影響が出たのかもしれません。

 ショットは女子ツアー随一の小祝さん。今後、疲労から回復し、あの粘りのあるショットが戻ってくるのか。それによって、賞金女王レースの行方は大きく左右されると思います」

◆西村優菜
「3週連続優勝をかけて日本女子オープンに臨んだ西村さんでしたが、最終日はパットが入らず、4位に終わりました。しかし、その後の試合でもトップ5入りを果たし、調子のよさは維持されているようです。

 優勝した9月の住友生命Vitalityレディス 東海クラシック(2日間競技に短縮)では、最終日に9アンダーで回る圧巻の勝ち方を披露しました。私はその試合の解説をしていたのですが、1m半くらいのバーディーパットを2つ外していますから、11アンダーを出してもおかしくない、すばらしいゴルフでした。

 あの小さな体でこれだけ爆発的なスコアを出せるのは、セカンドショットがうまいから。ウッドやユーティリティーなどの長いクラブでも、ピンを差すように打ってくるショットは見事です。長いクラブを持つと、飛びを求めてスイングスピードを上げて、強く振りたくなりがちなのですが、彼女はいつも一定のリズムを守って振れています。そこがうまさの秘訣でもあるわけです。

 この一定のリズムを守り続けるということをひとつとってみても、西村さんの忍耐力の強さがうかがえます。上の2人の今後の成績次第では、西村さんにも十分に賞金女王のチャンスはあると思います」

◆古江彩佳
「2020年は3勝を挙げている古江さんですが、今年はここまで優勝がありません。やはりオリンピック代表を逃したことが、精神的に影響しているかもしれません。ただ、平均ストロークは稲見さんに次いで2位。他のスタッツや成績を見ても調子が悪いわけではないので、今後に期待は持てると思います。

 そして、古江さんにとって好材料なのは、残りの試合のなかに昨年優勝した伊藤園レディスと大王製紙エリエールレディスがあること。相性のいいコースで今年も2連勝するようなことがあれば、賞金女王レースの行方はますますわからなくなってきますね」