「ありがとう」。そのメッセージをボディにまとい、ホンダ勢4台は総力戦に挑んだ。 第16戦トルコGPの決勝は、予報に反して雨。ホンダ勢4台はトップ10圏内からスタートし、10グリッド降格を受けたルイス・ハミルトンと対峙した。純白のレーシングス…

「ありがとう」。そのメッセージをボディにまとい、ホンダ勢4台は総力戦に挑んだ。

 第16戦トルコGPの決勝は、予報に反して雨。ホンダ勢4台はトップ10圏内からスタートし、10グリッド降格を受けたルイス・ハミルトンと対峙した。



純白のレーシングスーツで表彰台に立ったフェルスタッペンとペレス

 レッドブルは金曜からマシンの仕上がりが思わしくなく、ダウンフォースを増してなんとか対処したにもかかわらず、ウエットコンディションではさらに苦戦を強いられた。首位バルテリ・ボッタスは余裕を持ってペースをコントロールし、2位マックス・フェルスタッペンが追いかけようとすれば、ペースを上げて逃げていく。

 フェルスタッペンは壊れやすいインターミディエイトタイヤをいたわって、なるべく長く保たせることに集中し、2位のポジションをキープする走りに切り替えざるを得なかった。

「今週末は全体を通してメルセデスAMGに少し後れを取っていたので、それを考えればとてもいいレースができたと思う。レース序盤はバルテリ(ボッタス)についていこうとトライしたけど、タイヤをいたわる必要があった。だから、ある時点から少しペースを落として、またしばらくして路面が少し乾いてきてからペースを上げたんだ。

 でも、バルテリはタイヤをいたわりながら自分のレースをコントロールしていて、僕が彼に勝負を仕掛けるチャンスはなさそうだった。第1スティントは僕のすぐ後ろにはチャールズ(シャルル・ルクレール/フェラーリ)がいたし、彼もかなり速さがあったしね。だから、こうして表彰台で終えることができてうれしいよ」

 予選で0.328秒差、ベストセクターをつないだ理論値では0.5秒もの差があっただけに、この結果はレッドブル陣営として、ある程度は想定内。問題は、パワーユニットペナルティを取ったハミルトンの追い上げをいかに阻止し、ここでいかに多くチャンピオンシップポイント差を稼いでおくかだった。

 スタート直後の1周目にセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)を抜いて9位まで浮上してきたハミルトンを、8位の角田裕毅が果敢にブロックして抑え込んでみせた。

 どのマシンもインターミディエイトタイヤを痛めないよう、スティントの序盤はグレイニング(ささくれ磨耗)をいたわりながら、それが消えるのを待つ。そのなかで角田は8周目のターン3で抜かれるまでハミルトンを抑え込み、この間に11秒トップから引き離すことに成功した。

 角田自身は、ハミルトンを20周は抑え、つまりフェルスタッペンとの間にピットウインドウ(ピットイン1回分のギャップ)を作り出してやろうと考えていたようだ。自分がそのバトルを楽しむか否かではなく、ホンダとフェルスタッペンのために貢献したかったと振り返った。

「自分が楽しいかどうかは、どうでもいいことです。今年はホンダにとって最後のシーズンなので、僕はマックス(フェルスタッペン)にタイトルを勝ち獲ってもらいたいんです。

 だから僕は、ルイスを可能なかぎり抑え込もうとしました。何周抑え込めたのかはわかりません。タイヤをもっとセーブしようとはしたんですが、彼は速すぎました」

 8周目まで抑え込んでいたと聞いた角田は、「僕は20周にわたって抑えようと思っていたんです。8周では十分ではありません」と不満げな表情で語った。

 角田はインターミディエイトをいたわるための重要なスティント序盤に攻めたことで、タイヤのダメージが進んでしまった。ハミルトンに抜かれたあとは前のランス・ストロール(アストンマーティン)についていけず、カルロス・サインツ(フェラーリ)にも抜かれて前の集団からは引き離されていった。

 そして10番手走行中の22周目、ターン9の縁石に乗ってスピンを喫して13位まで後退。アルファロメオ勢に挟まれる格好になり、ピットストップでキミ・ライコネン(アルファロメオ)に逆転を許す。角田はその後もペースが上がらず、アルファロメオ勢に15秒以上も置いていかれてしまった。

「ハミルトンとのバトルで序盤にタイヤを使いすぎてしまって、ペース的には厳しくなっていました。そのバトルでの泥汚れでミラーがまったく見えなくなってしまって、後ろに1台迫って来ていると思って引き離そうとプッシュしたところ、スピンしてしまったんです。あのスピンですべてが台無しになりました。今日はポイントが獲れたはずのレースだっただけに、すごく残念です」

 角田も自分のレースを犠牲にしてまで、フェルスタッペンを援護するつもりはなかったようだ。だが、結果的に8周目までの攻防でタイヤを傷め、初の体験だったインターミディエイトのタイヤマネージメントをうまく学ぶことができなかった。それが第2スティントでのペース不足につながってしまった。

「今日は本当にポイントが獲りたかったんです。だからすごく残念です。僕たちはコンストラクターズ選手権で5位争いをしていますし、今日は周りのライバルに比べて大きくポイントを稼ぐチャンスでしたから、がっかりしています」

 結果的にホンダ勢は今季まだ一度もない4台入賞を逃し、アルファタウリとしても角田のポイントを失っただけでなく5位争いの相手であるアルピーヌ(エステバン・オコン)に1点を献上してしまった。

 ハミルトンとの攻防はすばらしかったが、アルファタウリ・ホンダのドライバーとして第一に果たすべき仕事が果たせなかったという点に、角田自身は納得していなかった。

 しかし、角田の貢献がハミルトンに11秒のロスを与え、フェルスタッペンには届かない位置まで押し込めたことも事実だ。

 ハミルトンはレース中盤の30周目過ぎにセルジオ・ペレスに追い着き、実質的な3位争いを展開。しかしペレスは、激しいバトルの末に34周目のターン12で一度は抜かれても、メインストレートから35周目のターン1で再び抜き返す意地も見せた。

「彼のルイスに対するディフェンスは、まさに我々が期待していたことだ。今日の彼の走りはまさしく表彰台にふさわしいものだったし、非常にいいペースだった。タイヤも非常にうまくマネージメントしたし、今日の彼のパフォーマンスには非常に満足しているよ」(クリスチャン・ホーナー代表)

 結果的にハミルトンはタイヤ交換のタイミングを誤って5位に後退したが、それがなければ最後までペレスと激しい3位争いを繰り広げていたはずだ。

 優勝には届かなかったものの、レッドブルは日本GPが行なわれるはずだった日曜日のトルコでチャンピオンシップホワイトのマシン2台をパルクフェルメに並べ、純白のレーシングスーツに身を包んだふたりが表彰台に立った。



スペシャルカラーのマシンで戦ったレッドブル・ホンダ

 そこにあったのは、「ありがとう」の言葉。ホンダへの気持ちであり、日本のファン、ホンダを応援してくれたすべてのファンへの思いだ。レース後、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語った。

「今日の午前中に行なわれた(ホンダのオンラインイベントの)ライブ中継で鈴鹿のスタンドが映し出されて、レースが行なわれないにもかかわらず、ホンダやレッドブルのウェアを着てグランドスタンドにいるファンの方たちの姿を見て、正直ビックリしたし、本当にうれしくてウルッときてしまいました」

 レースには勝てなかったが、勝負には勝った。

「望むべくは優勝だったのですが、今週末のパフォーマンス差は如何ともしがたく、突き抜けることはできませんでした。ですが、雨のレースのなかでも2チーム4台がしっかりと走り、スペシャルカラーのマシンが何度も映し出され、純白のレーシングスーツを着たふたりが表彰台に立ち、表彰台下のパルクフェルメにその2台が来た。

 レースには負けましたが、我々としては持っている実力のなかで最高のパフォーマンスを引き出せた1日になったと思います」

 これでフェルスタッペンは、6点差で再び選手権リーダーに返り咲いた。コンストラクターズ選手権のビハインドは36点差となったが、ペレスが常にこの位置で戦えるのならば、逆転の目も見えてくる。

 ホンダのラストシーズンは残り6戦、まだまだ終わってはいない。次は我々ファンが最後まで全力で応援し、「ありがとう」の気持ちを返す番だ。