出雲駅伝で優勝した東京国際大。1年生で出場したのは佐藤榛紀、白井勇佑(左から3番目と5番目) 東京国際大学が初出場、初優勝という結果で幕を閉じた出雲駅伝。 そのなかで、多くの1年生が初陣を迎えた。関東の大学に限定すれば10名の選手がデビュー…
出雲駅伝で優勝した東京国際大。1年生で出場したのは佐藤榛紀、白井勇佑(左から3番目と5番目)
東京国際大学が初出場、初優勝という結果で幕を閉じた出雲駅伝。
そのなかで、多くの1年生が初陣を迎えた。関東の大学に限定すれば10名の選手がデビューを果たしている。しかも、その多くが快走した。2年ぶりの出雲で、2名の1年生が区間賞をとるなど新しい風が吹いた。
東京国際大は、ふたりの1年生が出走し、優勝に貢献した。
2区佐藤榛紀は、1区の山谷昌也(3年)から3位、トップの青学大と5秒差で襷をもらうと軽快な走りを見せた。順位をキープし、トップと4秒差で日本人エースの丹所健(3年)につないだ。
「レース前は風の影響を考えながら自分のペースで押していきつつ、集団を利用することを考えていました。山谷さんがいい位置で来てくださったので、すごく走りやすかったです。いい形でエースの丹所さんに襷を渡せたのでうれしかったですし、自分の仕事ができたと思います」
佐藤は四日市工高出身でスピードが持ち味。高3時に5000mで13分50秒31を出し、三重県の高校記録を更新、即戦力として入学した。自身も活躍を期して入学したが、距離を踏むことに慣れていない体が悲鳴を上げた。
「高校時代、あまり長距離をやってこなかったので、貧血になってしまいました。夏合宿の前半はびっくりするぐらい練習を積めたんですが、後半は足に疲れがたまり、貧血の影響もあってうまくいかなかったですね。でも、ここ2、3週間はよい状態になって出雲に臨めたので自分の成長を感じることができました」
出雲駅伝はいいアピールになり、全日本大学駅伝、箱根駅伝にもつながりそうだ。
「今年は、3大駅伝すべて出るのが目標です。箱根は、3区か、5区が希望です。ただ、現実的に考えると3区は厳しいですし、5区は下りよりも上りのほうが得意というだけなので、任されたところで結果を出すだけです。できれば、白井と一緒に走りたいと思っています」
その白井勇佑(1年)も出雲でデビューし、佐藤同様に快走を見せた。
「白井と駅伝デビューができてよかったです。白井は持ちタイムがよかったので負けたくはないですけど、一緒に強くなりたいですね。4年になった時は、ともに中心になってチームを引っ張っていけたらと思います」
佐藤は、終始、笑顔でそう語った。
白井は、エースの丹所がトップを奪ったなか、4区で襷を受け取った。
「丹所さんが1位になって、襷を受けたんですが重かったです。1位を守って走るんだという気持ちで走りましたが、不思議とプレッシャーはなくて、ワクワクして走ることができました。順位を守って、宗像(聖・3年)さんに襷を渡せたので自分の仕事は果たせたかなと思います」
白井は仙台育英高時代、5000mで13分58秒00を出し、期待のルーキーとして入学。駅伝も強く、2年の時の都大路は2区区間賞、3年時は7区2位と外さない力を持つ。ただ、入学後のトラックシーズンは、関東インカレ、日本インカレともに5000mで結果を出せなかった。
「トラックシーズンは、いろいろ課題が見つかりました。自分は、自信を持ちすぎてしまうと調子に乗ってしまうので、謙虚に走るように心がけています。今回もその気持ちを忘れずに、いつもどおりを考えて走ったのですが、後半にペースが落ちてしまったので、今後はそれを修正して20キロ以上もしっかり走れるようにしたいです」
白井も箱根駅伝を走ることを現実的な目標としてとらえている。
「箱根駅伝の希望区間はありません。走れれば、どこでもいいです。3大駅伝でしっかりと結果を残して、今後の自分の陸上人生にプラスになるような1年にしたいです」
出雲駅伝では、これまで眠っていた超大物ルーキーが、その爆発的な力を見せてくれた。東洋大の石田洸介(1年)だ。東京農大二高時代、5000mで当時の高校記録を更新し、13分34秒74まで伸ばした。東洋大に進学を決め、トラックシーズンでの活躍が期待されたが、故障などで調子が上がらなかった。6月、東京五輪出場権を賭けた日本選手権5000mに出場、大学デビュー戦に注目が集まったが途中棄権。ただ、その後は周囲の動きに惑わされず、自分のペースで調子を戻し、出雲駅伝の舞台に立った。
「駅伝を走れましたが正直、いろんな意味で出遅れています。夏合宿も練習ができていませんでしたし、スピードも足りない。長い距離に向けたスタミナもつけないといけない。距離に対する耐性がまだまだですので、今は課題だらけですね」
それでも出雲では、堂々の駅伝デビューを飾った。
6位で襷を受け取ると、徐々にスピードを上げ、気がつけば4人を抜き去って2位にチームを押し上げ、区間賞を獲得した。
「前を追う展開で、自分は失敗したことがないですし、苦手意識もありません。今回もしっかり前を追えましたし、すごく楽しかったですね。ただ、向かい風の影響を受けたので、向かい風にもブレないフィジカルと強いメンタルを身につける必要があると思いました」
出雲駅伝の戦前は苦戦が予想されたが石田の踏ん張りで1区7位から最終順位は3位まで上がった。石田は自分の走りに手応えを感じ、箱根に向けても決意を新たにしている。
「チームは、箱根では総合優勝を目標にしています。それができるように1年生ですが臆せず、他の大学のエースに負けないような走りをしたいと思います」
もともと能力が高く、相澤晃(現旭化成)のようなエースになれる逸材。石田の復活は、ひとりの選手以上の重みを持ち、東洋大に勢いと戦術的幅をもたせるだろう。
アンカー区間では、国学院大の平林清澄(1年)が好走した。2位の東洋大に12秒差の3位で襷を受けたあと、前を追走して東洋を捉えた。
「東洋大学を抜いて、その位置でゴールするのを考えていたんですが、暑くタフなコンディションと自分の実力不足で青学大と一度は抜いた東洋大学に抜かれてしまい、悔しかったです」
やや突っ込み気味で入ったが、それは自信がないとできない。
「前半シーズンと夏合宿は、かなりいい感じだったので、自信はありました。ただ、それが少し過信になっていたかなと思います。これまでうまくやってきたので心に隙ができていたというか......自信と過信は紙一重だなと思いました」
平林は、美方高校出身で、ロードが強い。4月に日体大長距離競技会10000mで28分38秒88を出すと7月ホクレンディスタンスチャレンジ網走大会では28分38秒26とPBを連発。5000mも4月に13分55秒30を出した。夏合宿は、8月の月間走行距離で1000キロを越え、自信を深めた。今回の駅伝で課題が出たことにもポジティブだ。
「メンタルとタフなコンディションの対応力、そして最後の粘りが課題です。これから全日本、箱根と距離が長くなりますが学年は関係ないですし、他大学も同じ1年の若林(宏樹・青学大)、石田(洸介・東洋大)、伊藤(大志・早大)は絶対に走ると思うので、自分も練習して彼らとの差がなくなるようにしたいですね。箱根は往路で勝負できればと思います」
6区5位、チームは4位と上々の結果を出した。考えながら練習をする意識の高さと負けん気の強さで、さらに強くなる可能性を秘めている。間違いなく将来のエース候補だ。
存在感を示した彼ら以外のルーキーも躍動した。
4区区間賞を獲得した早稲田大の石塚陽士は4位から2位にチームを押し上げるすばらしい走りを見せた。レース後は、「初めて駅伝を走って新鮮でした。同期の伊藤(大志)と一緒に練習をしてきたので、これからもふたりでチームに貢献していきたい」と笑顔で語った。
その石塚とともに練習し、5区で大学駅伝デビューを果たした伊藤は区間12位と苦しんだが、佐久長聖時代は、石田(東洋大)に次ぐ高校歴代2位の13分36秒57のタイムを持っていた。早大に入学後、トラックシーズンの成績はもうひとつだが、経験を積んできた。これから早稲田を背負う存在になるのは間違いない。
また、青学大の若林宏樹、駒澤大の篠原倖太朗もまずまずの走りを見せた。
出雲は距離が短く、1年生のお披露目の舞台にもなっている。
今回デビューしたルーキーたちが、11月7日の全日本大学駅伝でどんな走りを見せてくれるのか。また、次はどんな新しい選手が出てくるのか。
彼らの走りがさらに大学駅伝界を盛り上げていくだろう。