スタンレーレディス(静岡・東名CC)のトロフィーの行方は、アマチュアの女子高生・佐藤心結(みゆ)に、ペ・ソンウと木村彩子、そして渋野日向子という4名によるプレーオフにもつれた。その2ホール目、渋野ひとりがバーディーを奪い、勝負は決した。優…

 スタンレーレディス(静岡・東名CC)のトロフィーの行方は、アマチュアの女子高生・佐藤心結(みゆ)に、ペ・ソンウと木村彩子、そして渋野日向子という4名によるプレーオフにもつれた。その2ホール目、渋野ひとりがバーディーを奪い、勝負は決した。



優勝が決まった瞬間、みるみるうちに涙がこぼれた渋野日向子

 およそ2年ぶりの優勝に「スマイリング・シンデレラ」の頬にはすぐに涙がつたった。両手で顔を覆って、くしゃくしゃにした。

「正直、こんなに早く勝てると思っていなかった。勝てない2年間は長いようで短い? 短いようで長い? わからないんですけど(笑)、いろいろ思い出した涙でした」

 首位と2打差の5位タイでスタートした最終日は、我慢のゴルフが続いて8番になってようやく最初のバーディーを奪った。

「正直、スタート前は『優勝したい』という気持ちはなかった。もちろん、チャンスがくればという感じでしたが、スタートから安全にいこうと。

(スタート後は)上位との差が開いてしまって、『やばい』と思いながら、攻めきれないゴルフだった。後半に入って、10番でボギーを打ってしまいましたけど、ここまできたら次いつ優勝争いできるかわからないから、悔いの残らないプレーを心がけました」

 首位との差は一時、4打差に開いた。しかし、この日はティーショットが安定してフェアウェーをとらえ、結果としてセカンドのミスが少なかったことがスコアアップにつながった。

 16番のチップインバーディーで通算9アンダーまで伸ばし、18番のロングではバーディーを奪えば首位に並ぶことを把握していた。セカンドを5番ユーティリティーで放って、3打目は残り95ヤードの位置につけた。

「バックスピンがかかるピン位置だと思っていたので、ワンチャン、奥につけたら入るんじゃないかというイメージで......」

 勝負の一打――。渋野は、52度で1mに寄せるスーパーショットを見せて楽々とバーディーを奪った。バックナインは5バーディー、2ボギーの「33」で回り、通算10アンダーまで伸ばした。

 同じ18番で争われたプレーオフも、ウェッジが冴え渡った。1ホール目は88ヤードの3打目を54度で10cmに、2ホール目は108ヤードを46度で1.5mにピタリ。1ホール目で木村が脱落し、2ホール目では佐藤とペ・ソンウがバーディーパットを外して勝負あり。

 賞金女王まであと一歩に迫った2019年以来、何より時間を割いてきたアプローチ練習の成果でたぐり寄せた日米通算6勝目だった。

「スイング改造を行なってきた集大成が、18番のすべてのショットで出たんじゃないかと思います」

 勝利から遠ざかった約2年の間に、「もう勝てないのではないか」と自問自答したことは幾度もあった。

「女子ゴルフは世代交代が滅茶苦茶早い。2年前にレギュラーツアーに出始めたのに、もう自分が置いていかれている感があった。そう思いたくはないけど、思ってしまう自分がいた。去年なんて、戦っていて『勝ちたい』と思えたのは、全米女子オープンで優勝のチャンスがあった時ぐらいだった」

 昨年はつらい一年を過ごした。弱気になっていたと回想する。

「去年は本当に自信がなかった。それでも淡々とこなしてきたような気はするんですけど。いつか勝つということを考えながら、スイング改造をしてきたり、いろんな練習に取り組んできた。最近はちょっとずつ、『いつか』が『もうちょっとしたら』に変わってきた」

 スイング改造に批判的な声は否応なしに耳に届く。見返したい気持ちを心の片隅においやって、自分自身と向き合ってきた。

「(5勝を挙げた)2019年からいろいろ変えた"新しい自分"だけど、2019年の自分がいたから今があるわけで、今やっていることを続けていけば、2年前の自分より強くなれる、やってきたことは間違っていなかったと思えた結果だと思います」

 公言してきたとおり、近い将来の米ツアーへの参戦を思い描いている。

「飛距離の差を感じています。米ツアーに出ている選手は小さい時から難しい芝でやっている。私が悩んでいるのがおかしいぐらい簡単に打ちますから。(これまでの米ツアー経験で)自分のゴルフの安定感のなさを感じられたことが、自分が変わらないといけないと思うきっかけになりました」

 今回の優勝が完全復活を意味するのか――。その答えは、アメリカに渡って初めて明らかになる。