男子バレーボール日本代表のエースであり、今季は主将を務めた石川祐希。東京五輪での29年ぶりのベスト8進出を果たしたチームを、メンタル面、プレー面でもけん引した。 中垣内祐一代表前監督から電話がかかってきたのは、2021年に入ってすぐのこと…

 男子バレーボール日本代表のエースであり、今季は主将を務めた石川祐希。東京五輪での29年ぶりのベスト8進出を果たしたチームを、メンタル面、プレー面でもけん引した。

 中垣内祐一代表前監督から電話がかかってきたのは、2021年に入ってすぐのこと。

 主将になってもらえないか――。

 リオ五輪に出場を逃したあと、代表の主将になることを意識していたという石川は、そのオファーを迷わず承諾した。



9月のアジア選手権でも、積極的に声を出してチームをけん引した主将の石川 photo by Sakamoto Kiyoshi

 イタリア1部のセリエAでのプレーの影響で代表合宿への合流が遅れ、イタリアで開催されたネーションズリーグ(VNL)からチームに参加。初めて主将として臨んだイラン戦はストレート勝ちし、「僕自身のパフォーマンスはそれほどよくなかったが、チームが勝てたことはよかった」と冷静に振り返った。

 同大会は16カ国中11位で、順位だけを見れば少し不安を残して初の五輪へ。先に金メダルを獲得した柔道の阿部(一二三・詩)兄妹に「刺激を受けた」という石川は、初戦ベネズエラ戦で着実に得点を重ね、29年ぶりの勝利を手繰り寄せた。続いて、VNLで負けていたカナダにもセットカウント3-1で勝利。予選ラウンド突破に光が見えた。

 しかし、リオ五輪銀メダルのイタリア、世界選手権を連覇中のポーランドと、強豪と競り合ったものの連敗し、予選最後のイランとの試合で勝ったほうが予選突破という大一番を迎える。この試合で石川は、チームメイトがコートに入る時にひとりずつハグをし、試合が始まってからはミスした選手にすかさず声をかけた。

 プレー面でも第4セット途中からキレを増し、セットカウント2-2で第5セットに突入すると、いきなりの2連続サービスエースを決めてチームを乗せた。のちに石川も「個人的な五輪のベストプレーは、イラン戦第5セットの連続エース」と話したが、"ここぞ"というところでの得点は、まさに「キャプテンでエース」にふさわしかった。



アジア選手権後、オンライン会見を行なった石川(写真提供:デサントジャパン)

 準々決勝では強豪ブラジルを相手に、一時はリードするセットもあるなど健闘したが、すべてのセットで20点以降に主導権を握られ、ストレートで敗れた。試合後、石川はベンチで溢れる涙をこらえきれずに肩を震わせ、ブラジルの主将であるブルーノ・レゼンデが励ますシーンもあった。

 五輪でベスト8、その後のアジア選手権で準優勝という成績で終えた石川は、9月22日のオンライン会見で主将1年目の代表シーズンを次のように振り返った。

「感じたのは、『チーム自体がキャプテンのようになっていくな』ということです。中心選手がどれだけ情熱を持ち、それを表現できるか。それがチームのカラーになっていくことを感じたので、これまで以上に責任を感じました。選手たちのプレーは、VNL、五輪、アジア選手権を経てすごく向上しましたし、今後に可能性を感じられるシーズンになったと思います。

 ただ、オリンピックで29年ぶりに予選を突破できましたが、アジア選手権は決勝で(イランに)負けてしまった。パリ五輪のことも考えると、アジア王者にならないと切符は手に入らないので、まだ力不足な部分があると思います」

 さらなる飛躍を目指す石川は、現地時間10月10日に開幕するセリエA(石川が所属するパワーバレー・ミラノの初戦は10月17日)でイタリア7シーズン目を戦う。今季のセリエAは、ロシアリーグやブラジルリーグから有力選手が結集し、非常にレベルが高い試合が期待されている。

「(昨シーズンに優勝した)ルーベのブラジルのヒカルド・ルカレッリ選手、東京五輪で優勝してMVPとなったフランスのイアルバン・ヌガペト選手(モデナ)、現在世界のトッププレーヤーのひとりと言われている、ポーランド代表のウィルフレド・レオン選手(ペルージャ)など、一流の選手が揃っています。だからこそ、そこで勝つことの意味がより大きくなると思います」

 今季は西田もセリエAのビーボ・ヴァレンティアでプレーする。ミラノとの試合は現地時間11月3日に予定されているが、「世界のトップリーグで対決すること、日本人選手が2人に増えることは、日本のバレー界がレベルを上げていく上で重要。活躍できればさらに評価が上がっていくと思います」と話した。

 さらに石川は、今季のチームと個人の目標を挙げた。

 昨季のミラノはレギュラーシーズン8位で、プレーオフ準々決勝敗退。そこで今季のチームの目標は「準決勝進出」に定められている。早くからその目標を口にしているというロベルト・ピアッツァ監督について、石川はこう語る。

「データをよく見ながら戦うくスタイルで、戦術の幅が広いですね。情熱もすごく、練習の時から声を張り上げてチームを鼓舞してくれる。『ここまでやるのか』というくらいですが、それがチームをいい雰囲気にしますし、選手も『ついていこう』と思うことができます。いいプレー、ダメなプレーの割り切りもしっかりしていて、何がやりたいのかも明確。僕もプレーしていくことで成長できると思います」

 一方で今季のチームについて語る際には、イタリア7年目で確かな実績を残してきた選手らしく、若い選手を気遣う言葉もあった。

「今季、ミラノのメンバーは大きく変わっています。僕の対角を組むと予想されるアメリカのジャスキー・トーマス選手、ミドルブロッカーにはフランスのシエニエゼ・バーテルミー選手が加入しました。セッターのポッロ・パオロ選手は19歳で若手ですが、アンダーカテゴリーの世界選手権で優勝した実績がある。ただ、セリエAでのプレー経験は少ないですから、しっかりコミュニケーションをとって手助けができたらと思っています」

 続いて、個人のオフェンス面の目標は「データに載っていないスキルを身につける」ことを挙げた。石川は昨季、レギュラーシーズンでの得点、サービスエースの数でチームトップ。当然、対戦チームのマークが厳しくなるだろうなかで進化は欠かせない。

「スパイクは監督からも『ストレート打ちをもっと多く』と言われていて、サーブのコースも、僕は(サーブを打つ側から見て)相手コート後衛の中央から右側に打つことが多いんですが、後衛の左側へのサーブを増やしたり。相手のデータどおりにいかないように、指示を受けて取り組んでいます。僕はイタリアで世界一の選手になることを目指していますが、監督は大きな助けになっていると実感します」

 ディフェンス面に関しては、「一番の課題」とも話すブロック。レセプション(サーブレシーブ)成功率はやはりチームトップだが、「身長がある他の選手にも張り合えるくらい、ブロックで点を取れるようにしたい」と意欲を見せ、「そうなれば、僕はもう1ステップ、2ステップ上のレベルに上がっていけるんじゃないかと思います」と力強く語った。

 そうして個人の能力を高めながら目指すのは、チームの目標達成にもつながる「勝つこと」だ。昨季のセリエA、今季の日本代表での自身のパフォーマンスに関しては「常に高い状態で発揮できている」と手ごたえを口にするも、勝ちにつながらない試合があることが課題だという。

 自分がベストパフォーマンスを出しつつ、それを勝利に結びつけるには何が必要なのか。石川は、主将として東京五輪を戦って感じた「周りを巻き込むことの大切さ」を口にした。

「試合は僕ひとりの力では勝てないので、先ほども言ったようにチームメイトを巻き込んでいくことが必要だと思っています。自分で得点を取ったあとなどに、感情の表現などでチームを鼓舞するといったことができないといけない。

 また、セリエAは高さとパワーが重要なリーグですが、そこに丁寧さが加われば、チームはより強くなれると思います。僕が最後までボールを追いかける、1本のトスを丁寧にするといった姿を見せることによって、ボールを落とさないことを大事にするチームにしていけたらと思います」

 初めて日本代表の主将として戦った五輪の経験を生かし、世界トップの選手へ。7シーズン目となるセリエAで、石川はさらなる飛躍を目指す。