駅伝シーズン到来!有力大学の戦力分析(前編) 日本学生陸上競技対抗選手権大会(日本インカレ)が終了し、トラックシーズンが終わった。7月のホクレン大会のあと、各大学は夏合宿に入り、その合宿を継続しているなかでの大会ゆえに、箱根常連校のなかには…

駅伝シーズン到来!
有力大学の戦力分析(前編)

 日本学生陸上競技対抗選手権大会(日本インカレ)が終了し、トラックシーズンが終わった。7月のホクレン大会のあと、各大学は夏合宿に入り、その合宿を継続しているなかでの大会ゆえに、箱根常連校のなかには主力を出場させないところもあった。今月10日の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝、そして来年1月の箱根駅伝に向けて、各大学のチーム作りは順調に進んでいるのだろうか。全カレの結果をもとに、注目すべき大学をレポートする。



エースとして駒澤大学を引っ張る田澤廉

 今年の箱根駅伝優勝校の駒澤大学は、3本柱が強力だ。

 エースの田澤廉(3年)は、東京五輪出場こそ叶わなかったが、5月の日本選手権男子10000mで27分39秒21のタイムで2位に入り、ホクレン千歳大会5000mでは13分29秒91の自己新をマーク。網走大会に出場した鈴木芽吹(2年)のタイム(13分27秒83)を破れず、「部内で負けているようではダメ」と悔しさを見せたが、そこにエースとして矜持が見えた。

 鈴木は、日本選手権10000mで27分41秒68を出し、田澤に27分台で続いた。関東インカレでは2部5000mで唐澤拓海(2年)に次いで4位、7月のホクレン網走大会で5000mでは自己ベストを更新した。スピードと安定感が増し、今や田澤と並ぶ存在感を示している。

 唐澤も同レースで13分32秒58と自己ベストを更新した。関東インカレの2部5000mでは鈴木に勝ち、日本人トップで3位に入った。

 田澤は、7月のホクレン千歳大会が終わったあと、「チームとしては自分と芽吹と唐澤が抜けていますが、問題はその下ですね。上の世代を始め、中堅の選手が『自分が走るんだ』という自覚を持たないと強くなれない。駅伝で勝つためには、その中堅層の走りが重要になってくる」と語っていた。

 今年の駒澤大の最大の強みは、「史上最強」と言われている2年生だろう。

 鈴木、唐澤に加え、7月のホクレン網走大会の5000mで赤津勇進が13分52秒27の自己ベストを出し、9月の日体大記録会の5000mでは安原太陽が13分43秒65の自己ベストを出して夏合宿の成果を見せた。今年、箱根7区4位の花尾恭輔は関東インカレのハーフで2位に入るなど安定感を増している。ただ、今年、大きな飛躍が期待された昨年箱根1区15位の白鳥哲汰と青柿響が期待された走りができておらず、夏合宿は別メニューだった。箱根に向けて、どれだけ状態を戻してこられるか。彼らが仕上がってくれば、名実ともに「最強の2年生」になることは間違いない。

 全体の選手層の厚さでいえば駒澤大はひとつ抜けている。3冠達成に向けて、まず出雲駅伝をとりにいくことになるが、遅れている選手が揃ってくれば全日本大学駅伝、箱根駅伝とも「死角なし」になりそうだ。

 安定感と選手層でいえば、青学大も強い。

 全カレ5000mで優勝した近藤幸太郎(3年)は、エースとしてトラックシーズンから非常に安定した強さを見せている。4月の日本学連記録会の10000mでは、青学大記録となる28分10秒50をマークし、7月のホクレン士別大会5000mでも13分34秒88の青学大記録をマークした。その後の夏合宿も順調に練習を消化し、箱根に向けて、どこまで成長していくのか楽しみしかない。

「夏合宿は練習の質が上がって、ケガ人もいなくて、すごく順調でした」

 そう近藤が語るように、今年の青学大の充実はケガ人がほとんど出なかったことにある。

 その立役者のひとりが伊藤雅一コーチだろう。

 伊藤は青学大で主務を務めていたが、卒業後、中野ジェームズ修一の下でトレーナーのイロハを学んだ。これまでも青学大の箱根駅伝前のコンディショニング調整やメンタル強化で大きな役割を果たしてきたが、今年からコーチになり、日頃からケアやコンディショニングについて指導をすることでケガの発症を抑えた。青学大にとって、これほど大きな戦力はなかったのではないか。

 選手層でいえば、駒澤大の田澤、順大の三浦龍司のような飛び抜けた存在の選手はいないが、近藤がエースに成長、さらに5000m13分台が22名もおり、また自己ベストを更新している選手も22名もいることからも全体の質が上がっていることが見てとれる。

 4年生で主将の飯田貴之は7月の記録会5000mで13分55秒83の自己ベストを更新、同記録会では今年箱根6区3位と快走した高橋勇輝も13分54秒72で自己新を叩き出している。

 3年生では1年時、エースとして活躍した岸本大紀が復調過程にあり、5000mでは自己ベストを更新した。出雲駅伝のエントリーからは漏れたが全日本、箱根では元気な姿を見せてくれるだろう。同じく3年の西久保遼は関東インカレのハーフで優勝し、4月には10000mで28分21秒39の自己ベストを更新し、駅伝未経験だが今シーズンの駅伝の主力組に入った。今年箱根10区4位と好走した中倉啓敦も今年になって5000mを13分55秒29の自己新を出して、出雲のエントリーを勝ちとった。

 1年生から4年生まで全学年、万遍なく走れ、平均値が高いのが青学大の特徴だが、逆にいうと原監督の言う「ゲームチェンジャー」「エース」と呼ばれる強い選手が近藤以外に見当たらない。前回は神林勇太、吉田圭太という柱がおり、3冠を達成した時は一色恭志、田村和希、下田裕太、森田歩希ら他大学であればエース級の選手が揃い、圧倒的な強さを見せた。近藤に続いて勝てる強い選手が果たして出てくるかどうか。

 近藤は、「最初(出雲)が大事」と言う。

「チームとしては駅伝3冠を目指しています。今年は選手層が厚いですし、いつの間にか前にいるのが青学の駅伝なので、みんなでタイトルを勝ちとりにいきたいです。まずは出雲ですね。ライバルは駒大です。早大、順大も強いので、気が抜けない戦国駅伝になると思います」

 駅伝シーズンが近づくにつれ、「今年は強い」と高く評価されているチームのひとつが、早稲田大だ。

 前回の全日本大学駅伝では5位、箱根駅伝では6位と安定した成績を残した。今シーズンは、箱根駅伝のメンバーが9名残っており、そのなかでも軸となる4年生の顔が見えているのが大きい。

 主将の千明龍之佑は5月の法大記録会5000mで13分31秒51の自己ベストを更新し、関東インカレの5000mでは三浦龍司(順大2年)に敗れたが3位に入り、強さを見せた。中谷雄飛は昨年、5000m(13分39秒21)、10000m(27分54秒06)と自己新をマークしたが今年は、それらを更新できていない。関東インカレ10000mでは8位、日本インカレ5000mは途中棄権で成績としてはもうひとつだが、最後となる箱根駅伝に向けてはしっかりと調整してくるはずだ。太田直希も中谷同様、昨年は10000mで27分55秒59を出すなど3種目で自己新を出したが、今年は関東インカレ10000mで13位と本来の走りができなかった。その後、故障があってそのまま夏合宿に入ったが35キロ走にも取り組み、状態は上向きだ。

 上級生で好調だったのだが3年の井川龍人だ。4月の日本学連10000mの記録会で自己ベストを10秒以上縮める27分59秒74を記録した。日本インカレ5000mは16位に終わったが、調子は悪くない。

 存在感を見せたのが、2年生だ。

 関東インカレのハーフでは佐藤航希が6位と健闘し、3000mSCでは諸冨湧が7位、北村光が8位に入賞した。その3000mSCで優勝したのが菖蒲敦司、1500mで2位と中距離でのスピードとタフさを見せた。5000mでもホクレン千歳大会で13分52秒46の自己ベストを更新している。少数精鋭の早稲田にあって、彼らが中軸になりつつある。

 1年生では石塚陽士が関東インカレ1500mで6位とまずまずの走りを見せた。入学当初、大学生活になじむのに苦労したが、ここにきてようやく自分のペースがつかめてきており、競技にも好影響が出ている。スピードがあるだけに出雲駅伝で出番があれば、かなり楽しみだ。5000m高校歴代2位(13分36秒57)を引っ提げて鳴り物入りで入学した伊藤大志は、関東インカレ、日本選手権、ホクレン千歳大会で5000mに出場したが、いずれも後半に失速し、高校時代の自己ベストを更新できなかった。だが、夏合宿ではしっかりと距離を踏み、山上りでの特性も見せている。

伊藤が特殊区間(5区)で走ることができれば、早稲田にとっては往路を優位な展開に持っていける計算が立つ。ただ、勢いは下級生が作ってもレースの流れを作るのは上級生たちだ。3、4年生の状態がこれから戻ってくれば、駒澤大、青学大に十分に対抗できる戦力が整う。

(後編に続く)