ジャパンオープンで新フリーを披露した宇野昌磨 10月2日、さいたまスーパーアリーナで開かれたジャパンオープン。男子の最終滑走者として、初披露となるフリープログラム『ボレロ』を滑り終えた宇野昌磨は、自分自身に伝えるように「うん、うん、うん」と…



ジャパンオープンで新フリーを披露した宇野昌磨

 10月2日、さいたまスーパーアリーナで開かれたジャパンオープン。男子の最終滑走者として、初披露となるフリープログラム『ボレロ』を滑り終えた宇野昌磨は、自分自身に伝えるように「うん、うん、うん」と、何度も小さくうなずいた。そして、その意味をこう説明した。

「できすぎることもなく、できなさすぎることもなく......、自分の今できるジャンプを試合でやることができたんじゃないかな、と。少し緊張して力が入る部分や不安で体が動かなくなる部分。いろんな状況下で、できることはしっかりできたかなと思いました」

 演技前日の公式練習のあと、宇野は、今季のフリーは4回転ジャンプをループとサルコウ、フリップにトーループ2本と、4種類5本の構成にすると明言。「ジャンプをメインに考えていた」という滑りは、出だしからやや重苦しさがあった。最初の4回転ループは4分の1の回転不足となって転倒すると、次の4回転サルコウはパンクして2回転になり、4回転トーループは前につんのめる着氷になって予定していた連続ジャンプにできなかった。

 だが、曲調が変わる後半になると、宇野らしいキレのある滑りになってきた。コレオシークエンスで勢いをつけると4回転フリップをしっかり降り、4回転トーループ+2回転トーループと、トリプルアクセル+オイラー+3回転フリップも確実に決め、そのあとのスピン2つと最後のステップはレベル4とした。技術点は93.07点にとどまったが、合計は181.21点で出場6選手中トップになった。

「一本一本やった時の確率は上がっていても、プログラムを通した時のループとサルコウの2つのジャンプはなかなか安定しないので。それを次の試合へ向けて、どう改善するか練習していくのが僕の課題になります。今回、後半はいいジャンプを跳ぶことができ始めていたので、このあとの試合でも前半で失敗しても後半は崩れない基盤となるプログラムを作っていけたらいいと思う」


ジャパンオープン後のアイスショー

「カーニバル・オン・アイス」で演技する宇野

 4回転5本を入れる構成の難しさを、宇野は「失敗するとドミノのように失敗の連鎖が続いてしまうこと」だという。ノーミスが難しい構成だからこそ、失敗した時の対応が重要だ、と。そこで失敗の連鎖を食い止めるような、安心して跳べるジャンプが必要。フリップやサルコウ、トーループを、自信を持って跳べるジャンプにしていくのがこれからの課題だと考えている。

 ただ今回のジャパンオープンでは、後半の4回転トーループをしっかり跳べたことに手応えを感じた。「僕の場合は、これまで試合で4回転トーループを失敗することが多かったが、このオフの練習やアイスショーでは4回転トーループの連続ジャンプに重点を置いてやってきた。だからこそできたと思うし、試合で生かせたのだと思う」と話す。

 さらに国内で練習するなかで父親にもアドバイスをもらい、体力アップに取り組んだ。「これまでの大会を客観的に見れば、体力は一曲持つギリギリで足りていたと思います。でも新しい構成では今まで以上の体力が必要になってくるので、『もうこれ以上は跳べない』という限界まで毎日練習を積み重ねた。それでどんどん調子は落ちたけど、少なからず体力はついたと思う。後半の4回転フリップや4回転トーループだけでなく、少し軸が斜めになったトリプルアクセルからの連続ジャンプを修正できたのも、体力が十分にあったからこそできたものだと思う」と自信の言葉を口にする。

 4回転4種類で5本の構成に挑むようになったのは、ここ数年跳んでいなかった4回転ループに再び挑戦し始めたからだ。4回転ループは2017年世界選手権で成功させ、平昌五輪シーズンまで構成に入れていたジャンプ。理由ときっかけをこう話す。

「ループはあきらめた期間もあったけど、サルコウが跳べるようになってから調子がいい時は挑戦することもあった。全然跳べる気はしていませんでしたが、昨季の終盤に鍵山優真と一緒に練習をするようになった時、彼がルッツとループを降りているのを見て......。それで僕も4回転3種類だと、時代が流れるにつれて置いていかれるのではないかと思った。優真が僕を尊敬していると言ってくれているからこそ、その期待に応える選手でいたいなと思い、真剣にループを跳びたいという思いを込めて練習を始めました。そうしたら1週間くらいで跳べたので、本当に気持ちは大きいなと思いました」

 できないとの思いのほうが大きかった4回転ループを練習で成功させた時、今跳べるジャンプをすべて駆使して試合にぶつけたいと思ったという。「すべてのジャンプを組み込むのは難しいことだが、それを安定してやっているネイサン・チェン選手(アメリカ)のような選手もいるので、そこに挑戦したい」。そういう気持ちになった。

「自分がそれ(すべてのジャンプを組み込む構成)をできる確率は、今は低いと思うけど、どんなに失敗しようが打ちのめされようがやりたい。1シーズンを通して成長し、このプログラムをできるレベルになって世界と戦いたいと思います。以前、世界のトップに立ちたいと考えてストイックになった時には自分を追い詰めてしまい、そこからスケートを楽しみたいと思うようになった。それでもやっぱり、世界で戦いたい、トップに立ちたいと再び思ったので。今までの失敗の経験も踏まえて、自分をしっかりコントロールしていきたいと思います」

 平昌五輪2位、世界選手権2位2回という実績を持ちながらも、新たな道を模索した19−20シーズンは自身を見失ってどん底まで落ち込み、21年世界選手権も4位にとどまった宇野。北京五輪シーズンを、これまで以上の強い気持ちをもって踏み出した。