Dリーグ「KOSÉ 8ROCKS」でディレクター兼ダンサーを務めるISSEI 2021年1月に日本発のプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE」が始まり、7月にファーストシーズン(20-21シーズン)が終了した。全9チーム(※)が披露…
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「KOSÉ 8ROCKS」でディレクター兼ダンサーを務めるISSEI
2021年1月に日本発のプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE」が始まり、7月にファーストシーズン(20-21シーズン)が終了した。全9チーム(※)が披露するダンスを採点により順位づけし、それを12ラウンド開催するDリーグ。さらに上位4チームによるチャンピオンシップで優勝を決定するクライマックスもある。
※セカンドシーズン(21-22 シーズン)からは11チーム
日本トップレベルの華麗なプロダンサーたちの中から最優秀ダンサーMVD(Most Valuable Dancer)と、公式アプリのファボ数(いいね!数)が最も多いダンサーに与えられる「MOST FAV DANCER」の二冠を達成したのが、ISSEI(イッセイ)だ。
ブレイクダンサー世界一の称号を引っ提げてKOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)のディレクター兼ダンサーとしてDリーグに参戦し、チームをチャンピオンシップ進出に導いたISSEI。セカンドシーズンに向けて始動し始めた今、MVD受賞を改めて振り返ってもらった。
「これはチームのみんながいて獲れた賞で、自分だけで獲った賞ではないと思っています。今は賞をもらえたことでもっと頑張ろうという気持ちになれていますし、好きなダンスをもっと前向きにやれたら、次のシーズンもよくなるだろうなと思っています」
KOSÉ 8ROCKSは、日本で活躍する有名ブレイクダンスチームからメンバーを集めている。アクロバティックな合わせ技を得意とし、高速で展開されるルーティーンやバラエティーに富んだ個人スキルで見る者を魅了するDリーグ唯一のブレイクダンスチームだ。
ダンスと言ってもさまざまなジャンルがあるが、Dリーグに集うチームのジャンルも多彩だ。KOSÉ 8ROCKSがブレイクダンス、優勝したavex ROYALBRATSがヒップホップ、準優勝のFULLCAST RAISERZがクランプだが、それぞれがジャンルの垣根を超えるダンスを披露することもある。この斬新なリーグ設計の魅力にいてISSEIはこう語る。
「僕も知らなかったジャンルや、知ってはいたけれどあまり見たことがなかったジャンルがあって、とても新鮮でした。プロダンサーたちがオーナーのもとでチームを作り、それぞれが特色のあるダンスを披露するのが、とても面白いなと思いました。日本でダンスがここまで進化しているのかと、そのレベルの高さにも驚きましたね」
ステージ上ではそれぞれのチームが、約2分間のダンスを披露することになっているが、その完成度は非常に高い。1チーム8人の一流ダンサーたちが曲に合わせて一糸乱れぬ動きで踊り、自らが設定したテーマを表現するそのステージは、圧巻の一言。この1つのショーケースを通常ではありえないほど短期間で作り上げてきたことについて、ISSEIはこう振り返る。
「最初はストックを用意して余裕を持ってショーケースをやっていこうと思っていたんですけど、それが全然できなかったですね。
(間が2週間ほどの場合は)ラウンドが終わった次の日か2日後に集合して、前のショーケースを振り返って方向性を決めます。それから次回の曲を聞くんです。そこで全体の構成をイメージして、『今のリズムなら、あの組み技が活きるよね』とか、『このリズムなら誰々のソロがはまりそうだよね』とか言って、リストを作ります。そこから、そのリストがはまるかどうかを3日間くらい試行錯誤します。それで大枠を作ったら細部を詰めて、さらに足し算引き算を何度も繰り返して、本番を迎える感じです。
ただやっぱり2週間では踊り込みの時間が足りない。練習の時間は短くて6時間、シーズンの後半は8時間はやっていました。それでも足りなかった。僕も含め、メンバーも大変だったかなと思います」
しかもDリーグのほとんどのチームがディレクターとダンサーを分けていたが、ISSEIはそれを兼務。プロスポーツで監督とプレーヤーを両立させた例がほとんどないことからも、その難しさは想像できる。
「すごく甘く見ていた部分がありました。ただコロナ禍でダンスが全然できないことがつらすぎたので、ディレクター兼ダンサーという立ち位置をもらってダンスをやることができて本当によかったし、タイトな日程でもつらいなという気持ちはなかったですね。
僕自身、ディレクターらしいことをしていたかと言ったら、そうではありません。方向性は僕がみんなと話して決めていましたが、ショーの内容はみんなで話し合いをしていたので、逆に僕がすごく支えられていました。だからその部分でもつらいなと思うことはなかったですし、ダンスができているので楽しいなと思っていましたね」
ISSEIが率いたKOSÉ 8ROCKSはシーズン当初、優勝候補に挙げられ注目を集めていた。しかし、なかなか1位を獲ることができなかった。当然、ISSEIは悩んだ。本来であれば、高得点を取れるところで取れない。得点を上げるために、より派手な技、審査員にウケのいい技を選ぼうと考えることもあったが、ダンスの原点に立ち返った時に、それが本当に正しいのか――。ISSEIは、ブレイクダンスの魅力を伝えることと、高得点を出すことを両立させる難しさを痛感した。
「ファーストシーズンの後半戦は、『完成度が低いという評価があったので、そこを伸ばしていこう』とか話していたんですが、毎回ほぼ審査員の方が違っていて、そこに意識をフォーカスしてしまうと、僕ららしくないなと思ったんです。
それに『あいつら勝ちに行っているな』と他のチームに思われるのは、やっているほうとしてはつらいです。いい順位が出ると思ったショーケースで、点数が低かったこともあるので、何が正解かわからなくなってしまった。そこを考え始めると、ダンス自体が良くなくなる。みんなが楽しいと思ってもらえるものを表現したいんです」
順位が伸び悩み、チャンピオンシップ出場圏内である4位以内に入るために、KOSÉ 8ROCKSはルール上認められている、期間限定で特別に出演するダンサー「SPダンサー」を外部から招聘し、ラウンド10では初の1位を獲得。最終的に4位でチャンピオンシップに出場できたが、そこでは勝てずに4位でシーズンを終了した。優勝を目標にスタートしていたため、悔しい結果となってしまった。
誰もが初めてだったDリーグのファーストシーズンを終え、ISSEIは多くの課題と成果を得た。それを踏まえてセカンドシーズンに向けて再び頂点を目指して動き出している。
「もっと挑戦してみたいですね。せっかく12回も、表現できるチャンスをもらっているので、僕らがやっているブレイキンの可能性をどんどん増やしていきたいと思っています。
昨シーズンは、僕のことをフォーカスするメディアが多かったんですが、KOSÉ 8ROCKSはすごく素敵なメンバーがそろっているので、その人が持っているキャラクターやスキルをショーケースでもっと出してあげたいなと思っています。
ブレイキンの発祥はもともとギャングだったところもあって(※)、不良っぽいイメージや色でいうと黒っぽいイメージがあるんですが、それを振り切って、エンターテイメント性のある楽しいブレイキンや、さわやかでスポーティーなブレイキンがあってもいいと思っています。
※1970年代のニューヨークでは、ギャングが抗争をまとめるために銃撃戦の代わりにダンスの技で競い合っていた。その時に繰り広げられていたダンスが現在のブレイクダンスの原型と言われている
次のシーズンでは、ブレイキンというジャンルでも、KOSÉ 8ROCKSのメンバーも、やったことがないことに全員が挑戦したい。ブレイキンの可能性をもっと広げたいなと思っています」
セカンドシーズンは11月14日(日)に開幕する。そこでISSEI率いるKOSÉ 8ROCKSがどんなブレイクダンスを披露してくれるのか。楽しみでならない。
【Profile】
ISSEI(イッセイ)
1997年6月1日生まれ。福岡県出身。6歳からダンスを始め、2012年には世界大会のうちの1つである「R16 KOREA」のソロ部門で優勝し、その後3連覇を果たす。2016年には日本人初の「Freestyle Session World Final」優勝、世界最年少での「Red Bull BC One World Final」優勝という偉業を成し遂げた。2020年には公益社団法人日本ダンススポーツ連盟(JDSF)ブレイクダンス本部の強化指定選手に選出。現在はプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE」に出場中の「KOSÉ 8ROCKS」のディレクター兼選手として活躍中。初年度のシーズンではMVDとMOST FAV DANCERの二冠を達成した。