『SLAM DUNK』とともに中学時代のバスケ部についても語ってくれた野田クリスタルさん 1990年から96年まで週刊少年ジャンプで連載され、今もなお絶大な人気を誇るマンガ『SLAM DUNK』。学生時代にバスケットボールに打ち込んだ人なら…



『SLAM DUNK』とともに中学時代のバスケ部についても語ってくれた野田クリスタルさん

 1990年から96年まで週刊少年ジャンプで連載され、今もなお絶大な人気を誇るマンガ『SLAM DUNK』。学生時代にバスケットボールに打ち込んだ人なら、誰もが読んだことがあるだろう。

 M−1、R−1を制覇する偉業を成し遂げたお笑い芸人、マヂカルラブリーの野田クリスタルさんもバスケを愛し、『SLAM DUNK』を愛するひとりだ。学生時代を振り返るとともに、『SLAM DUNK』について語ってもらった。

――『SLAM DUNK』を最初に読んだのはいつですか? 

「小2くらいだと思います。3人兄弟の末っ子なんですけど、みんなバスケをやっていて、当然のように僕もミニバスを始めて。なぜかリバウンドだけに異常な執念を燃やしていたんですね。『SLAM DUNK』を読んで、赤木(剛憲)に"リバウンドを制す者は試合を制す!!"と言われリバウンドに目覚めた桜木に、どこか親近感のようなものを感じましたね」

――野田さんが所属する吉本興業バスケ部の田村裕(麒麟)さんが、「リバウンドはめちゃめちゃ強いが、その他のスペックは初期の桜木花道」と野田さんのプレースタイルを教えてくれました。

「シュートエリア、ほぼゴール下のみですからね(笑)。ミニバスでも中学の部活でも、シュート、パス、ドリブル、全部無関心でリバウンドだけにしか興味がなかったんですよね。ドリブルの練習とかほぼしなかったです。昔からオールラウンダーよりもひとつに特化して職人と呼ばれたかったというか」

――桜木の口癖が「天才ですから」なこと、野田さんがお笑い界で"天才"と称されていること、リバウンド以外も共通点がありますね。

「僕の場合は天才ではなく『天才に見られたくて頑張ってきた人間』というか(笑)。天才だと思われたいからコソ練もするわけです。ただ改めて考えると、桜木もハードな練習することを厭(いと)わないしコソ練もしていますね。"天才ですから"と言うために練習している部分すらある。なんかすごくわかります」

――中学時代のバスケ部の成績はどのくらいでしたか?

「めちゃくちゃ弱かったです。ただ練習はめちゃくそ厳しくて。もう練習が嫌で嫌でしょうがなくて、いつも部室でアニメの主題歌だった『君が好きだと叫びたい』を流しながら『SLAM DUNK』を読んでテンションを上げてから練習に臨んでいました。

 特にいつも読んでいたシーンが、流川(楓)と桜木(花道)がどっちが汗が出るか練習着を絞って競うシーンで。あそこで一番熱が入るというか。俺も負けないくらい汗を流したろうって、あのシーンを読むことで部活を頑張れたんですよ」

――『SLAM DUNK』とご自身の経験が重なったようなことはありますか?

「ありますね。数年前、大宮の劇場のトイレで用を足していたら、外から若い2人組の声で"マヂカルラブリー、全然面白くなかったな"って言っているのが聞こえたんです。その瞬間、翔陽戦直前のシーンを思い出して"俺は三井寿じゃねえか!"と思いました。一瞬、三井みたいにドアを蹴り開けて"誰だ!?"って言おうかとさえ思いましたね(笑)」

――本当にそんなことが起こるんですね(笑)。では、『SLAM DUNK』で一番好きなシーンを教えてください。

「1巻に1つは好きなシーンがあって、一番は決めかねるんですけど、いつも泣いちゃうのは山王戦の残り2分、湘北が8点差を追いかける場面です。桜木が"まだいけるよな!!"とゴリに聞いて、一瞬棒立ちになったゴリが"ああ!! まだいけるぞ!!"と答えるシーン。あの一瞬に赤木の3年間を感じます。そんなこと言ってくれるヤツ、今までいなかったんだろうなって。何度読んでも身震いしちゃうというか、読んでいる僕までうれしくなっちゃうシーンですね」

――好きなキャラクターはいますか?

「海南の清田信長が好きです。178センチで僕も同じ身長なんですね。清田が陵南の魚住(純)の上からダンクしたシーンに痺れて、いつかあんなダンクがしたいって思いました」

――そして本当にダンクができるようになりましたよね。昔からジャンプ力がすごかったんですか?

「全然(笑)。中学時代もリバウンドが取りたくてジャンプ力は死ぬほど鍛えたんです。ジャンプ力アップのためのジョーダンの専属トレーナーが書いた『ジャンプ・アタック』って本も読み込んで。それでもリングにすら届かなかったんです。

 ポテンシャルの限界までジャンプ力を高めたって思ったんですけど、いつか限界を超えたいなって気持ちもずっとあって。芸人になってバスケをちょくちょく再開するようになって、"あ、なんかダンクできる"って思っちゃったんですよね。ゲームやプログラミングもそうなんですけど、なんでも目標を決めて、そこから逆算して組み立てたらいけるって思っちゃうタイプなんで」

――とはいえ中学時代はリングにすら届かず......。

「芸人になってから、国内外のジャンプ力を伸ばすトレーニングが書かれた書籍や文献を読み漁って。あとはYouTubeで海外のジャンプ力に関するサイトもかなり見ました。僕と同じ身長くらいで頭がリングに届いている人もいたんで、じゃあダンクくらいできるなって思いましたね。トレーニングを開始して1年くらいでリングに届くようになって、気づけば筋肉が増えて体重は20キロくらい増え、4年目くらいにハンドボールですけどダンクができるようになりましたね。その後、バスケットボールでもダンクができるようになりました」



――なぜそこまでストイックになれるんでしょう?

「決めたら達成しないと気がすまないというか、ある意味で呪いみたいなものだと思っています。田村さんも週8でバスケをして疲労骨折しているんですけど、お笑い芸人ってトレーニングやスポーツにどハマりする人が多いんです。

 お笑いって練習してもお笑い筋肉はつかないというか。練習すれば練習するほどお笑いが向上していくことはないんですね。それどころか、つまらなくなることすらある。だからなのか、やればやるほど身につくものに異常に惹かれますよね、芸人って。だってやればいいんだから。"筋肉は裏切らない。裏切っているのは自分だ!"ってことなんだと思います」

――なるほど。

「桜木がインターハイ前に2万本のシュートを打ち込んだ合宿のシーンがありますよね。あの合宿に大切なことがいろいろ集約されている気がするんです。あの時、桜木はバスケを初めておもしろいって思ったんだろうなって思うんですね。そしてそこから急激にうまくなった気がします。それまで誰かに褒められたい、認められたいという気持ちが強かった。でも、2万本のシュートは自分がバスケがしたくて打ち込んだような気がするんです。夜中に自分のシュートフォームの映像を見て疑問点を見つけ、"明日オヤジに聞いてみよう"と完全にワクワクしているというか、夢中になっちゃってる。

 好きなゲームをやっていたり、攻略本を読んでいるだけで楽しいような感覚ですよね。何かが上達するのに最高の状態というか。部活の練習が嫌でしょうがなかった時は、早く次の日になれなんて思わなかった。でもダンクをするためにトレーニングを積んでいた日々は、早く明日になってほしいって思っていましたからね」

――まさに青春ですね。

「うーん、僕は青春には辛さがつきものだと思うんです。辛さを伴うから青春って呼ぶというか。例えば魚住が、練習がきつくて吐いている時が青春だと思うんです。また2万本合宿の話になってしまうんですけど、桜木に"オヤジの道楽につきあってるワケにはいかねーんだよ"と言われた安西先生は日々成長する桜木を見て"道楽か...そーかもしれんね"と思うわけです。目の前の勝敗にこだわるのも大事ですし、勝つことも大事だと思います。ただ、真剣に打ち込むことを道楽のように感じてしまうことこそ本当のゴールなんだろうなと思うんですよね」

――最後の質問です。お笑いでは『M-1』と『R-1』の二冠達成。バスケでは目標だったダンクに成功。今後の目標は何でしょう?

「お笑いに関しては目標だったことは、ほぼ達成しました。リングに頭が届くくらいのところまで来たかなと。あとは、いつか誰も届かないくらい高く跳んでみたいです。バスケに関してはトレーニングを再開して、いつか清田のように試合中にビッグマンの上からダンクしたいですね」

――どちらも高い目標ですね。出来ますかねえ?

「やってやりますよ。天才ですから」