9月12日から19日まで、千葉ポートアリーナで開催された第21回バレーボールアジア選手権。日本は決勝でイランに敗れ、2大会ぶりの優勝はならなかったが、来年、ロシアで開催される世界選手権の出場権を獲得した。 今大会は東京五輪を戦ったメンバー…

 9月12日から19日まで、千葉ポートアリーナで開催された第21回バレーボールアジア選手権。日本は決勝でイランに敗れ、2大会ぶりの優勝はならなかったが、来年、ロシアで開催される世界選手権の出場権を獲得した。

 今大会は東京五輪を戦ったメンバーから、海外リーグに挑戦する左腕エースの西田有志と正セッターの関田誠大、さらに日本代表からの引退を発表した清水邦広も抜けたなかで、若手選手たちが活躍を見せた。

 すでに日本の主力として欠かせない選手になった、主将の石川祐希と対角を組む髙橋藍もそのひとり。昨年度にアンダーカテゴリーを含めて代表に初選出され、今年5月の中国とのテストマッチでスタメンに抜擢。続く紅白戦、ネーションズリーグでも活躍し、東京五輪でも29年ぶりのベスト8進出に大きく貢献した。



アジア選手権でも攻守で活躍した髙橋

 アジア選手権では、背中と腰の痛みのため石川が欠場した初戦のカタール戦、第2試合のバーレーン戦でチームを牽引。特にバーレーン戦は、スパイク、ブロック、サービスエースなどで26得点を挙げ、両チーム合わせてのベストスコアラーになった。中垣内祐一監督も「石川と西田がいないなかで、髙橋と高梨(健太)の両アウトサイドヒッターが頑張れたことはよかった」と高く評価している。

 日本は、石川が復帰した第3戦のインド戦も勝利して予選ラウンドを1位通過。トーナメントに向けての順位決定戦では中国に敗れる波乱もあったが、続くオーストラリア戦では大竹壱青と控えセッターの大宅真樹が奮闘して3-0のストレートで勝利し、準決勝へと駒を進めた。

 試合を重ねていくなかで髙橋は、ネーションズリーグからオリンピックでも課題として見えた「前衛からの攻撃」でも成長を示した。髙橋本人も「最初はブロックされることもあったが、映像で確認してスパイクの通過点が下がっていることがわかり、打ち下ろさないように気をつけた」と話したように、ブロックを利用してタッチアウトをとったり、リバウンドをとったりする場面が増えた。

 海外チームとの試合になると、髙橋はバックアタックのほうが決定率が高くなる傾向がある。しかしアジア選手権では、石川がサーブで崩された時などにしっかりと前衛でも得点し、五輪からの短期間で進化を見せた。

 欧米の上位国相手に通用した守備力は健在。髙橋が入ることによって石川がサーブレシーブの守備範囲を狭めることができ、負担が軽減された。リベロの山本(智大)が、どちらかと言うとサーブレシーブ型ではなくスパイクレシーブ型であることからも、石川の対角には髙橋がフィットしたと言える。

 ネーションズリーグで代表公式戦デビューを果たした際、髙橋は海外のメディアから「目標とする人は?」と聞かれ、少し考えてから「今はとにかく身近にすばらしいお手本がいるので......石川キャプテンが目標です」と、はにかみながら答えた。五輪後には、自分と同じポジションで、セリエAという世界最高のリーグで長く活躍する石川のように「自分もできるだけ早く海外でプレーしたい」とも口にしている。

 今季からの海外挑戦についても問われたが、「大学との関係もありますし、詳しくはまだわかりません。これからはしっかりと意思表示して、考えていこうと思っています」と答えるにとどめた。日本人初のオポジットとしてイタリアでプレーすることになった西田は異例だが、これまでの傾向を見る限り、欧米のチームは日本人選手に対してまず守備力を求める。サーブレシーブに関しては石川を上回る安定性があり、髙橋も「東京五輪でも手応えを感じた」と自信を口にしているだけに、十分にチャンスはあるだろう。

 髙橋は現在、日体大の2年生。今後は大学バレーの秋季リーグの戦いに臨む。北京五輪、東京五輪を経験した清水邦広は、国際大会と国内のVリーグとのブロックの高さ、サーブの威力の差には「慣れが必要」と話す。世界でもトップクラスの選手が多くプレーするVリーグでもそうなのだから、大学ではそのギャップがより大きく、合わせるのが大変に感じるかもしれない。

 中央大学在学中からセリエAとシニア代表で活動していた石川も、それに苦しむ時期があったように思える。髙橋、同じく大学生(早稲田大3年)の大塚達宣もそうだが、東京五輪や今年度の代表活動で得た経験をふまえ、どのように目標を立ててリーグを戦うのかが重要になるだろう。

 さらにアジア選手権では、西田がいないオポジットのポジションで、ジェイテクトSTINGSの新人である宮浦健人がシニア代表デビューを飾った。宮浦は西田と同じサウスポーのオポジットで、高校時代にはU-19アジアユース選手権で主将を務め、西田を控えに回す活躍でチームを優勝に導き、大会MVPを受賞。そのあとの世界ユースでも主砲として銅メダルを獲得した。



シニア代表デビューとなったアジア選手権で活躍した宮浦

 西田は、「同じことをしていては、あの人(宮浦)を超えられないと思った」と、大学に進学せずにVリーグに進んだ経緯を振り返っている。そんな西田はジェイテクト、代表でも主力として急成長。その間、宮浦も全日本インカレ4連覇に貢献したが、日本代表としては「先を越された」形になった。

 そんな宮浦に関して、サウスポーの大先輩である清水は「クロスもストレートも打ち分けられる能力の高い選手」と高く評価する。西田のような見た目の派手さはないが、つなぎもこなす安定感があり、今回のアジア選手権では第2戦のバーレーン戦以外でスタメン出場した。

 オーストラリア戦では第1セットで調子が上がらず、途中交代した大竹に救われたように、シニア代表で高いパフォーマンスを維持する難しさも感じただろう。まずは今季のVリーグで、西田が抜けたジェイテクトのオポジットとして活躍し、大竹も含めた代表オポジット争いにしっかりと加わりたいところだ。

 日本代表は中垣内監督が9月いっぱいでの退任を発表。3年後のパリ五輪に向けて新しいチーム作りをしていくことになるが、髙橋、宮浦はそこでどう存在感を示していくのかに注目したい。