スーパーエース・西田有志 がむしゃらバレーボールLIFE  Vol.2(1) 9月19日まで行なわれたバレーボール男子アジア選手権で準優勝した日本代表は、来年8月からロシアで開催される世界選手権の切符を手にした。頼もしい仲間が歓喜の輪を作る…

スーパーエース・西田有志 
がむしゃらバレーボールLIFE  Vol.2(1)

 9月19日まで行なわれたバレーボール男子アジア選手権で準優勝した日本代表は、来年8月からロシアで開催される世界選手権の切符を手にした。頼もしい仲間が歓喜の輪を作るなか、若きサウスポーエース・西田有志はイタリアでの新たな挑戦をスタートさせた。

 西田は9月初旬にセリエAのビーボ・ヴァレンティアに合流し、すでに練習も始めているが、日本を発つ前のスポルティーバの取材で、初めて出場した東京五輪について振り返った。

「他の大会に比べるとプレッシャーが何倍も違いました。どの国も、大会にかける思いがすごく強い。ひとつひとつのプレーのレベルの高さが、試合を映像で見ていた方にも伝わったんじゃないでしょうか。そのなかでプレーができたことは本当にいい経験になりました」



準々決勝でブラジルに敗れ、髙橋藍(右)とハグをする西田有志

 東京五輪のメンバーのなかで唯一の五輪経験者(北京五輪に出場)だった清水邦広も、過去の取材で「五輪はすべての国が本当に死にものぐるいになってプレーする」と話していた。西田も清水とその話をしていたようだが、自分がそのコートに立つまでは「ピンとこなかった」と言う。

「いざ試合に出た時に、『こういうことだったんだ』とわかりました。本当に清水さんの言葉どおりでしたね。現時点でその感覚を言葉にするのは難しいんですが、現役の間にどうやって伝えていけるかというのも、(五輪を経験した)自分たちの仕事でもあると思います」

 そのプレッシャーからか、初戦はチーム全体で動きが硬く、ランキングで格下のベネズエラ相手に苦しむ場面もあった。西田もスパイクを連続でミスするなど序盤は"らしくない"プレーがあり、五輪初得点はブロックで決めた。

「とにかく勝てればよかったので、自分のプレーが原因で負けそうになるなら、交代してもらってもよかったです。個人の成績がどうこうとか、それどころじゃなかったですね。いつもの自分とは違うなとは感じましたが、それでも『どうしよう』とはならず、『勝つためにどうしよう』と考えていました。スパイクが決まらなくても、サーブで攻めるとか、ディフェンスで貢献するとか......。チームが勝つためのプレーを徹底するだけだと思っていました」

 第2セットの途中でサービスエースを決めてからは通常の西田のプレーに戻っていったように見えたが、「調子が上がってきたという感覚もなかったですね。期間が短い五輪は、予選ラウンドもある意味"一発勝負"なので、その場その場で全力を尽くすしかない。自分のプレーを振り返るのは試合後だけでした」と語る。

 スタートの動きの硬さは、5月の紅白戦で負ったけケガも影響していたかもしれない。試合中に右足首を捻挫した瞬間、西田は何を思ったのか。

「瞬時に、『早く治るようなケガではないな』と思いました。だけど、そんなに焦りはなかったですし、どれだけ早く状態を上げられるかだけでしたね。それで五輪までに間に合わなかったら、そういう運命なんだろうと」

 西田の受難はそこでは終わらず、五輪直前に行なわれたネーションズリーグでも右の太ももを痛めた。さすがにそこでは「五輪に間に合わないかもしれない」という思いが頭をよぎったようだが、「なるべく考えないようにしていました」という。

 そんな大会前の不安や初戦の出だしの悪さをかき消すように、2戦目のカナダ戦はチームトップの23得点を記録。4戦を終えて2勝2敗になり、決勝トーナメント進出をかけた予選最後のイラン戦でも30得点を決めてチームを牽引した。

 その"アジアの雄"を決する試合は、どちらも譲らずにフルセットにもつれ込んだ。第5セットでマッチポイントを握ったのは日本だったが、14-13とリードはわずか1点。そんな手に汗握る最後にトスを託された西田は、バックライトからのスパイクを相手コートに突き刺し、決勝トーナメントへの扉を開いた。

「最後は『自分に来るだろうな』とは思っていましたが、トスを呼んだわけではないです。試合が終わったあとには、セッターの関田(誠大)さんと『もっと僕に(トスを)上げてくれてもよかったんですよ』と、冗談交じりに話すこともありましたけどね。どこに上げるかは司令塔であるセッターが決めることですし、僕は信じて助走に入るだけ。イラン戦の最後も、そこにトスが上がってきただけのことです。

 決勝トーナメント進出にかける思いの強さは、僕たちもイランも一緒だった。勝てば次があり、負ければ終わるという状況だったので、セット率や『アジアのライバル』だからということも一切関係なく、勝利だけを考えていました。ともに必死だったから、ああいう好ゲームになったんだと思います」

 日本は五輪で29年ぶりとなるベスト8進出。負けた3試合も、予選のイタリア、ポーランド、準々決勝のブラジルとすべて善戦したように見えたが、西田は「(強豪国との)差は少しずつ縮まってきていると感じます。でも、なかなかその差を埋めきれないのが現状ですね」と厳しい表情で語った。

「強豪チームとも戦えるところは見せられたと思いますが、『よく戦った』だけで納得はしていません。僕らはスタッフも含めて勝つためにやっていますし、『惜しかったね』では満足できない。今後は、より自分たちに厳しく、ストイックにやっていかないといけないですね。

 細かい技術などの部分は大きな差はないと思います。日本のブロックも、相手のスパイクを止められなかった時でも手に当てる回数が多かったことは、データでも出ています。そういったディフェンスから試合の流れを変えるような1点のとり方は、やはり強豪国のほうが長けているので、日本も増やせるようにしたい。チームの集中力、戦術など、これから本気の強豪国との試合を重ねていくなかで突き詰めないといけないですね」

 西田個人としては、スパイクでの得点が目立った一方で、サーブではビックサーバーぶりが鳴りを潜めた。

「僕の調整不足ですし、選手としてまだまだレベルが低いということ。選手として成熟していかないといけないと思います」

 来年の世界選手権、3年後のパリ五輪に向けて、西田は新天地イタリアでさらなる成長を目指す。