立教大駅伝部の菅平合宿は、8月9日から20日まで12日間行なわれた。 1次合宿は蔵王で行なわれ、終了後に菅平に入り、故障者含め一部の選手は寮での調整に入った。菅平ではコロナ感染対策のために選手は全員個室、給水も選手の名前が入ったものを一人…
立教大駅伝部の菅平合宿は、8月9日から20日まで12日間行なわれた。
1次合宿は蔵王で行なわれ、終了後に菅平に入り、故障者含め一部の選手は寮での調整に入った。菅平ではコロナ感染対策のために選手は全員個室、給水も選手の名前が入ったものを一人ひとり受け取るように徹底された。「立教箱根駅伝2024」事業として箱根駅伝出場を目指し、上野裕一郎監督になって3回目の挑戦となる今年の箱根予選会。決戦に向けて、チーム作りが進行しているなか、上野監督にトラックシーズンを振り返ってもらいつつ、夏合宿の現状について話を聞いた。
2018年に立教大学駅伝部監督に就任した上野裕一郎氏
※撮影時のみマスクをはずしています
今年のトラックシーズン、立教大は上々の収穫を得た。関東インカレ(2部)1500mではミラー千本真章(3年)が優勝し、齋藤俊輔(4年)も7位入賞を果たした。服部凱杏(2年)は日本選手権1500mで3分43秒39の9位、6月の全日本大学駅伝予選会で3組を引っ張る走りを見せ、1万mで29分22秒88の自己ベストを出した。1500mでは3分43秒02を出し、5000mも自己ベストを更新するなどPBラッシュになった。
──ミラー選手、服部選手の活躍が目立っていましたが、トラックシーズンの結果については、どうとらえていますか?
「ミラーは、金栗記念杯を3分44秒30の自己ベストで勝ち、関東インカレの1500mでも優勝して結果を出しました。服部はオールマイティに走ってくれたかなと思います。1500mを3本、3分43秒で走ったのは驚きでしたけど、5000mも1万も自己ベストを更新した。あと、今年は忠内(侑士・2年)がすごく頑張ってくれたのが大きいかなと思いますね」
──服部選手は昨年、故障して箱根予選会に出場できず、その後も復帰まで時間がかかりました。今年、何がよかったのでしょうか?
「昨年、ケガが治って冬のトレーニングが始まった時に伝えたのは、『最低限の練習でいい』ということでした。服部は、素直でストイックなので、練習をやればやるほど強くなると思っていて、どうしても無理をしてしまう。合言葉を『最低限』にして、練習量を抑えて冬を越えていったんです。もともと走れる選手なのでケガなく練習を積めたことで調子が上がり、PB連発で頑張ってくれた。夏合宿をケガせずに終えられたら9月には5000mも13分40秒を切りました。今、ちょっと膝に痛みを感じて休ませていますが、予選会も期待の選手であることは間違いありません」
──忠内選手の成長は?
「忠内は、故障せず、僕が言ってきたことをきちんと守ってきたタイプの選手。大学入学時は、14分49秒(5000m)で、推薦組の中で一番タイムが低かったんです。最初は練習についていくので精一杯だったんですけど、グループの下から上がってきてやっとAチームに定着しました。2年になってから練習を余裕でこなせるようになってきて、そこで一段階レベルが上がり、結果が出るようになった。みんなには、忠内が立教のスタンダードだぞと伝えています」
立教には、昨年同様に全国の強豪校から将来性のある1年生が入学してきた。ただ、レースなどを見ていると、もうひとつ結果が出ていない。箱根予選会を見据えると、「俺が」という意識の1年生が出てきて、2年生の主力を喰うぐらいの勢いがあってもいいぐらいだが、合宿を見ていてもややおとなしい。
──1年生の走りについては、どう評価していますか?
「林(虎大朗)、安藤(圭佑)、山本(羅生)あたりは強くなってきていますし、稲塚(大祐)は淡々と走るので面白い存在かなって思っています。ただ、今の2年生が1年の時は、自分たちがやらないといけないという意識が強かったんですけど、今の1年生は『箱根に出たいけど』で、止まっている感じなんです。まだ甘さがあるというか......」
──なかなか伸びてこないのは個々の意識の甘さが原因であると。
「それもありますし、あとは単純に練習量ですね。高校時代と同じぐらいの練習量では、大学では通用しない。ここまで新しい環境に慣れたり、立教大の練習の流れにハマるまでちょっと時間がかかっているのはありますが、もうちょっと出てきてほしいですね。箱根は待ってくれないですからね」
──箱根への意欲がもうひとつということですか?
「A、Bのチームにいる1年生は、とりあえず箱根予選会のメンバーに入れる。あとは、そこからがんばるという感じなんですよ。1年目だから64分でいいやじゃなくて、63分台で自分が走るんだっていう意識、キロ3分でハーフを走るんだっていう強い気持ちにならないと箱根には行けないんですが、まだ『行けたらなぁ』っていう感じです。あと一押しをどうするか、ですね。幸い、中山(凜斗・2年)は『それじゃダメだ』とハッキリというタイプなので、そこに関口(絢太)とか忠内がついてきているので、その2年生の流れを1年生が理解して、自分たちがやるんだということを自覚してほしいですね」
今年の菅平2次合宿は、昨年よりも練習の質が高く、ボリュームも増えた。たとえば、昨年は15キロ走が長い距離の練習だったが、今年は25キロ走と10キロも距離が伸びている。トラックシーズンは、スピード強化でロングが足りないと選手自身も述べていたが、夏では距離を踏んでハーフへの耐性と走力をつけるメニューが中心になっている。
──昨年は15キロ、今年は25キロ、選手はしっかりと対応できていました。
「昨年、15キロ走はキロ3分20秒ぐらいで最後フリーという設定でした。今年の25キロ走は変化走で、負荷的には短くてペースが速い昨年のほうが大きいですけど、今年はしっかり足を作ることをベースにしています」
──次の合宿は、どのように考えていますか?
「3次合宿は北海道でポイント練習の量と質を重視してやっていきます。その代わりに朝練は各自ジョグで50分とか時間だけ指定します。昼間も各自ジョグで時々アップ&ダウンのコースをいれて、午後は補強などですね。20名連れて行きますが、ここで箱根予選会のエントリーメンバーが見えてくると思います。4次合宿は最後の追い込みですね」
──箱根予選会は、昨年同様に周回コースに決定しました。昨年は雨の中、三浦龍司選手(順大)が日本人トップで61分41秒でした。今年の展開を、どう見ていますか?
「間違いなく昨年よりも全体的にスピードがアップして、速くなりますね。昨年は63分54秒ぐらいが平均だったんですが、今年は63分30秒ぐらいになると思います。各大学とも走り方をわかっているんで、選手はみんな最初から突っ込んで行くでしょう。総合のタイムもかなり上がり、10位内に入るのは前回よりもさらに厳しい戦いになると思います」
──昨年は10位の専大が10時間33分でした。28位の立教大との差は20分。この差をどう考えていますか?
「昨年は、まったく戦えなかった。中山と斎藤だけが前を走って、あとはまばらになって、10キロ手前で後方の選手はほぼ終わった状態だった。でも、今年は、もともと力がある選手が走れば、たとえば昨年は忠内と金城(快・3年)が67分かかっているんですけど、今年は63分台で行けると思うので、トータルで10分程度は縮められる目安はついています。残り10分を1年生たちがどう縮めていくか。64分30秒かかるようでは、10位内には入れない。うちは60分とか、61分で抜ける選手がいないので、各自がしっかり設定のタイムをクリアすることが重要です」
──作戦、戦略的なものは考えないのでしょうか?
「特に考えていないですね。うちは、まだそのレベルで戦える状態ではないので、個々で必死に食らいついていくしかない。ただ、目標は15番以内と決めています。その順位でいければ来年、10位内というのが見えてくると思うので」
──練習を見ているとA、Bチームの選手は十分戦えるように見えます。
「A、Bチームの選手は崩れなくなって、強くなってきました。目標とする15番ぐらいは狙える力はあると思います。ただ、箱根に行くためには、その下のC、Dチームの選手が頑張ってくれないと。そこから這い上がってA、Bチームに来る選手がいないとフレッシュな競争ができないですし、戦力としての厚みも出てこない。今、A、Bチームだけで20人いますが、全員がこのまま故障なく予選会に進めるかどうかわからないですからね。ただ、現状、A、Bチームで選手が故障し、C、Dチームから入れ替えをした場合、67分とか、68分台になってしまうので、それだと勝負にならないんですよ。うちの今の最大の課題、その中間層の底上げ。そのレベルが上ってくれば、うちはもっと強くなると思います」
菅平合宿で、上野監督が力を入れて見ていたのがC、Dチームだった。25キロ走では、自らペース役となり、選手を引っ張った。A、Bチームに這い上がっていく可能性のある選手は今のところいなさそうだが、9月に入ってそういう選手がひとりでも出てくれば、箱根予選会を戦ううえで、チームに活気が満ちてくる。そもそもチームには、そうした血の入れ替えがなければ競争意識が薄れ、停滞、弱体化していくものだ。果たして、「我こそは」という強い気持ちの選手がC、Dチームから出てくるだろうか。