近年、高校球界において、度々議論となる投手の球数の多さ。第89回選抜高校野球大会では、史上初の珍事によって生まれた過密日程により、脚光を浴びている。26日に福岡大大濠―滋賀学園、健大高崎―福井工大福井が2試合連続で延長15回引き分けとなり、…

近年、高校球界において、度々議論となる投手の球数の多さ。第89回選抜高校野球大会では、史上初の珍事によって生まれた過密日程により、脚光を浴びている。26日に福岡大大濠―滋賀学園、健大高崎―福井工大福井が2試合連続で延長15回引き分けとなり、再試合は1日空けて28日に組み込まれた。

■投げ過ぎ不可避? 引き分け再試合で最大4連戦…米国では新たな試みも

 近年、高校球界において、度々議論となる投手の球数の多さ。第89回選抜高校野球大会では、史上初の珍事によって生まれた過密日程により、脚光を浴びている。26日に福岡大大濠―滋賀学園、健大高崎―福井工大福井が2試合連続で延長15回引き分けとなり、再試合は1日空けて28日に組み込まれた。

 これにより、翌29日に予定されていた休養日を潰して準々決勝4試合に変更。準決勝、決勝は繰り下げず、予定通りに実施する。再試合の4校が勝ち進んだ場合、31日の決勝まで4連戦を戦う過密日程が発生。ファンからは「あまりに選手の負担が大きいのでは?」と心配する声も聞こえてくる。

 ここまで過密日程が問題視されるのは、投手の球数の多さに原因がある。例えば、福岡大大濠のエース・三浦銀二は26日の試合で15回を196球完投。再試合以降、登板するかは疲労具合にもよるだろうが、いずれにしても優勝するために4連戦を勝ち抜かなければならない事実は、酷に映る。

 ほかにも今大会は接戦が多く、6試合の延長戦が生まれている。22日の滋賀学園―東海大市原望洋は延長14回を両先発が完投し、計410球を投げ抜いた。東海大市原望洋・金久保優斗(3年)が投げたのは、実に218球。今秋ドラフト候補に挙がる右腕の熱投は、今大会最多の投球数となっている。

 日本一を目指したトーナメント戦。勝利を求める以上、実力を持つエースにかかる負担は避けて通れない。その半面、ファン心理としては熱戦を期待する一方で「投げ過ぎ」を心配してしまう。体ができ上がる前の10代後半の高校生。そんな事情を考慮するように、海の向こう、米国では今年から新たな試みが始まった。

 高校生の「球数制限」である。

■1試合上限&登板間隔を規定、WBC米国代表左腕は賛同「長い目で見れば投手に利点」

 1980年創刊の米野球専門誌「ベースボール・アメリカ」によれば、州の高校体育連盟により、それぞれ規定が施されているという。公式戦は1試合の上限を定め、球数ごとに次戦までの登板間隔を規定。枠組みは、ワールド・ベースボール・クラシックと同じだ。

 例えば、野球が盛んなカリフォルニア州では1試合の上限は110球。31~50球で1日、51~75球で2日、76球以上で3日の登板間隔を置かなければならない。1試合の上限が最も少ないウィスコンシン州で100球、最も多いオハイオ州などで125球。全体でいえば、110球前後が相場で、最大で5日間の登板間隔が設けられている州もある。

 米全国紙「USAトゥデー」では、特集を組み、現役メジャーリーガーの見解を紹介。ブルージェイズで昨季20勝を挙げ、WBC米国代表に選ばれたJ.A.ハップは、高校生の球数制限に賛同している。

「長い目で見れば、投手にとって利点があると思う」とした上で、自身の高校時代を回想。「僕も一度、186球を投げたことを覚えているよ。あれは多かった。投球過多がどれほどのダメージを及ぼすのか、もしくは及ぼさないのか、ということはきっとこの先もはっきりとしないかもしれない。ただ、僕が言いたいのはどこかしらに因果関係があるはずだ、ということだ」とし、高校生の球数の多さが故障とは無関係でない――との立場に立っている。

 一方、記事ではプロ注目の現役高校生の意見も伝えている。ハーゲン・ダナー投手は、将来的に全米ドラフトで1巡目指名が予想される逸材だが、最終学年は登板過多を避けるため、80球を上限にしていたという。

「最近は若い世代の選手の怪我がとても多いし、ルールは必要だと思う。ただ、このルールはまだ球数が少し多いかなとも思う。個人的には90球以下にするべきだ。僕らの世代の選手は100球以上、投げるべきではない」とし、現行の球数制限でもまだ多い――との考えを示している。

 米国でプレーする高校生の実情は、多少の“痛い痒い”ならマウンドに立つことが珍しくない日本との温度差が、少なからずあるようである。

■過去には松坂、斎藤が熱投で一躍スターに…安楽は1大会772球が日米で議論

 日本の高校野球の歴史をひも解けば、熱投するエースの悲哀がファンの心を打ち、スターを作り出してきたことは否定できない。

 98年夏は横浜・松坂大輔(現・ソフトバンク)が準々決勝・PL学園戦で延長17回250球完投の末に春夏連覇を達成。06年夏は早実・斎藤佑樹(現・日本ハム)が田中将大(現・ヤンキース)擁する駒大苫小牧との決勝で延長15回引き分け再試合を制して優勝。ともに一躍、国民的な英雄となったことは記憶に新しい。

 しかし、今大会と同じセンバツでは13年に準優勝した済美の2年生エース・安楽智大(現・楽天)は5試合772球を投げ抜き、以降、故障に苦しんだ。大会当時は海を渡った米国でも「正気の沙汰ではない球数」などと報じられ、日米で大きな議論となったこともある。前述のハップのように、登板過多が故障のリスクとなるという考えは根強い。

 日本高野連は14年夏に選手の健康管理に関するアンケートを全加盟校を対象に実施。翌年、全国大会に直結しない春の地区大会からタイブレークを導入し、選手の負担軽減に向けた動きが出始めていた。今大会の2試合連続引き分け再試合を受け、今後タイブレーク導入の議論が加速するとの報道も出ている。

 タイブレークのほか、試合途中でいったん打ち切るサスペンデット方式など、アイデアは様々あるが、議論はどう進むのか――。ファンの注目も集まっている。

 福岡大大濠―滋賀学園、健大高崎―福井工大福井は28日に甲子園で行われる。史上初の2試合連続引き分け再試合。熱戦を期待しつつも、まずは両校の投手、野手が怪我なく、戦い抜いてくれることを願いたい。