1985年以来、実に36年ぶりのF1開催。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の躍進と人気沸騰を受け、悲願のオランダGP復活がついにその瞬間を迎えようとしている。 かつてグランプリが開催されていたザントフォールト・サーキットを…
1985年以来、実に36年ぶりのF1開催。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の躍進と人気沸騰を受け、悲願のオランダGP復活がついにその瞬間を迎えようとしている。
かつてグランプリが開催されていたザントフォールト・サーキットを、現在の驚異的な速さを誇るF1マシンに適応させるために、大がかりな改修作業が行なわれた。
その最たるものが、15〜18度というバンク角を持つダイナミックな最終コーナーだ。インディ500で知られるインディアナポリス・モータースピードウェイのバンクが9.2度だから、その傾斜がいかに急であるかがわかる。
コーナーの傾斜を歩いて確認する角田裕毅
普段は木曜にコースを歩いて視察などしないフェルスタッペンも、さすがに今回はそれを行なった。
「みんな、あのバンクのついたコーナーには興味津々だと思う。トラックウォークをしてみてもすごく特異なルックスだし、あんなコーナーはほかのどのサーキットでも見たことがない。最終コーナーはもちろん全開だけど、ターン3はいろんなラインの取り方が考えられるね」
ザントフォールト初体験の角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)も、木曜に歩いてみてその傾斜角に驚いたという。
「トラックウォークでワクワクしたのは初めてでした。普段はルーティーンの作業をするだけですが、ここを歩くのは先週から楽しみにしていたんです。最終コーナーやターン3のバンクはものすごかった。あそこまですごいとは想像していませんでした。今までにあんなバンク角度のコースを走ったことはないですし、実際に走るのをとても楽しみにしています」
バンクがあるのは最終コーナーだけでなく、ターン3は内側が4.5度、外側が19度の最大傾斜を持つ。
それ以外にもかつてのレイアウトを生かしながらアップダウンが豊かで、チャレンジングなコースレイアウトが描かれている。右へ左へ曲がりくねった中高速コーナーの連続と、起伏に富んだ路面。ところどころに現われる中低速コーナー。
かつてザントフォールトの支配人を務めていたジョン(ハンス)・フーゲンホルツは、1960年代に鈴鹿サーキット創設時のデザイン案にアドバイスしたまさにその人であり、ザントフォールトと鈴鹿にどこか似た雰囲気が漂っているのも確かだ。
「鈴鹿のようにオールドスクールなスタイルで、改修でランオフエリアが少し広がったとはいえ、ミスを犯せば大きな代償を支払うことになるという点でも、フィーリングは似ているね」(フェルスタッペン)
フェルスタッペンは「過去のデータがないから何とも言えない。FP1を走ってみれば、セットアップ作業などどの方向性に進めばいいのかがもっと具体的に見えてくると思う」と慎重な発言をしているが、セルジオ・ペレスの発言からはレッドブルが今週末に向けて自信を持っていることが感じられる。
「今週末の僕らはコンペティティブだと思う。僕らのクルマに合った中高速コーナーが多く、メルセデスAMGもストレートで強力だとは思うけど、いい勝負ができると思う。
高速コーナーが多いけど、ランオフエリアはほとんどない。オーバーテイクができる場所はほとんどないから、今週末は土曜日がとても重要になる。ドライバーとしては、土曜まではとても楽しめると思うけど、日曜日は抜けないし、少しハンガリーGPのようなレース展開になるんじゃないかと思うよ」
ターン3とターン14のバンクつきコーナーでは、その傾斜をどのように生かすかでドライビングが変わってくる。スロットルの踏み方やブレーキングの仕方が変われば、パワーユニットとしてもエンジンのトルクやエネルギーの使い方を刻々と変えていかなければならない。
ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、ホンダのエンジニアにとっても対応力が問われる週末になると語る。
「映像で見るよりもバンクがきつくて、我々もシミュレーションをして臨んできていますが、そこを初めて走るドライバーたちがどんなラインで走るのか、バンクやアップダウンのあるコースを初めて走るということもあって刻々と乗り方は変わってくるでしょうから、それに対して我々はきちんとデータにフィードバックし、最適化をいかに早く進めるかが大切になってきます。
後手後手に回って『もうちょっと行けたのに』ということがないように、パワーユニット側としては最高のパフォーマンスを出せるように確実にデータをアップデートしながら、予選・決勝に向けて準備を進めていきたいと思っています」
ザントフォールトはかつてF3マスターズが開催されていたため、ヨーロッパ育ちのドライバーたちはF3で走行経験がある。当時は、バンクつきコーナーはなかったものの、中高速コーナーが連続するセクター2はほぼ当時のままだ。
そんななかで、角田はまったく走行経験がない。しかし、ポルティマオやモナコ、バクーなどで初めて走るサーキットでのレース週末にも慣れつつある。
「まったく走ったことのないサーキットでのレース週末に臨むことにはすでに慣れているので、そのなかで自分の仕事をやるだけだと思っています。フリー走行からペースをビルドアップしていって、どこまでいけるか見てみるしかないと思います」
10万5000人収容のザントフォールト・サーキットは、感染対策のため1日7万人に制限してレース開催に漕ぎ着けた。オレンジ色に染まったサーキットはもちろん、フェルスタッペンの快走に大興奮に包まれるだろう。
「重要なのは、観に来てくれたみんながF1マシンが走るのを見て、レース週末全体を楽しんでくれることだ。そのためにも、僕は最大限の結果を持ち帰りたいと思っているよ」(フェルスタッペン)