「フレンズオンアイス2021」のリハーサルに登場した坂本花織「(フリーの『ライオンキング』は)自分のスケート人生のすべてを伝えられるプログラムにしたい」 8月26日、横浜。「フレンズオンアイス2021」のリハーサルを終えて、樋口新葉(20歳…



「フレンズオンアイス2021」のリハーサルに登場した坂本花織

「(フリーの『ライオンキング』は)自分のスケート人生のすべてを伝えられるプログラムにしたい」

 8月26日、横浜。「フレンズオンアイス2021」のリハーサルを終えて、樋口新葉(20歳、明大・ノエビア)は五輪シーズンの抱負を語った。

「(2022年2月開催の北京五輪出場がかかる)全日本選手権まであと半年もなくて、そこですべてが決まる焦り、楽しみな気持ちも両方あって。今年はアイスショーもその時の目標を持って、しっかり調整し、練習も楽しくやってこられました。全日本まで集中して悔いのないシーズンにしたいと思っています。五輪に出て、夢をかなえたいので」

 樋口はあと一歩のところで、前回の2018年平昌五輪出場を逃している。その悔しさは本人にしかわからない。臥薪嘗胆で挑む戦いに覇気を漲らせていた。

 北京五輪に向け、女子シングルは百花繚乱の戦いになるだろう。出場枠は前回の2から今回は3。最後は12月の全日本選手権が決戦の場となるか。全日本連覇中の女王である紀平梨花(19歳、トヨタ自動車)、復活を遂げた三原舞依(22歳、シスメックス)、台頭著しい松生理乃(16歳、中京大中京高)、河辺愛菜(16歳、木下グループ)など熾烈な戦いが予想される。



リハーサルで演技する宮原知子

 そして前回、平昌五輪を戦ったふたり、宮原知子(23歳、木下グループ)、坂本花織(21歳、シスメックス)も再びその舞台を狙っているーー。

「心から伸びやかな滑りを楽しむ」

 宮原は新シーズン、その一念でリンクに立つ。「フレンズオンアイス」では、2018−2019シーズンのショート・プログラム(SP)と同じく今シーズンも使用予定の『小雀に捧げる歌』を滑った。ブルーグレーの大人っぽいドレスで、ルッツ、アクセル、フリップなどのジャンプを着氷。肩の可動域の広さを十全に生かした全身の躍動が、愛らしい曲とシンクロした。丁寧でたおやかなスケーティングは健在だ。

 平昌五輪、宮原は4位と健闘している。2017−2018シーズンは世界選手権3位で、全日本は4連覇を達成。しかしそれ以降はジャンプが回転不足を取られるなど得点が伸びず、「4回転時代の到来」で苦しんできた。

 ただ、培った技術は彼女を裏切らない。スケーティングは静謐(せいひつ)。指先にまでこだわった動きは甘美で、芸術性は演技構成点の高さに出る。

 今年8月、シーズン前哨戦の『げんさんサマーカップ2021』で、宮原はSP6位に低迷も、フリーで2位と巻き返し、トータル2位に入っている。フリーではジャンプの回転不足はあったものの、すべて着氷し、『トスカ』の悲劇を演じきった。

「久しぶりに全体通してよい演技で、よいスタートになりました」

 宮原はそう語っていたが、一つひとつ積み上げてきたスケーティングが実を結ぼうとしているのだ。

「東京五輪を見て、"やっぱり五輪に出たいな"という思いが強くなりました」

 宮原は言う。スケート人生の最高傑作が見られるかもしれない。

 一方、坂本は『げんさんサマーカップ』でSP、フリー、どちらも1位で宮原、三原、樋口を抑え、見事に優勝を飾っている。SPでは2度も曲の再生が止まるアクシデントがあった。フリーも、振付師に五輪用にもらった新曲が思うようにいかず、2018−2019シーズンの『ピアノレッスン』を引っ張り出した。それでも他を寄せつけなかった。

 その滑りはダイナミックで、空を連想させる。たとえば、アクセルジャンプの助走から着氷までの流れは雄大。紀平とはまた違ったパワー、スピードを感じさせる。初速に優れ、ジャンプに入るまで減速しない。

「変かもしれないけど、ちっちゃい頃、いろいろやったら絶対最初はこけるじゃないですか?」

 以前のインタビューで、坂本はスケーティングの"秘密"を明かしてくれた。

「でも、私はこけるのが、なぜだか楽しくて。だから、新しいジャンプとか練習し始めて、いっぱいこけても、それが楽しくて、全然怖がらずに今までやってこられました。滑る楽しさの前に、こける楽しさのほうがあって。何回もこけて立ち上がっての繰り返しで。立っている分数のほうが短いんじゃないかなってくらい(笑)。でも、それでこけなくなったら自分の体で感覚をつかめた証拠で。それがまた楽しいから、今までやってこられたのかなって」

 平昌五輪、坂本はシニア挑戦1年目で堂々の6位に入った。北京ではそれ以上の順位を狙える"裏付け"もある。

「ジュニアグランプリ、世界ジュニア(選手権)、グランプリ(シリーズ)とか、一発目はその時の精一杯をやって、順位も低い感じだったんです。でも、2回目は1回目の経験が生かされて自信を持っていけて。それで、平昌の時に4年後はいけるって当時は思いました。でも4年はあっという間で、年末で選手選考が決まるのは本当に早いですが」

 昨シーズンはNHK杯で優勝、全日本選手権は2位だった坂本は、現時点でもっとも五輪出場に近い選手のひとりだろう。

「ジャンプが連続で決まると、一個前のジャンプよりも拍手が大きくなって、どんどんとそれが大きくなって。あの瞬間は、たまらなく好きです!」

 天真爛漫に語る坂本は、栄光への階段を駆け上がれるか。

 約4カ月、北京五輪を目指す戦いが始まった。