天王山----。夏休みが終わり、シーズン後半戦の幕開けとなる第12戦ベルギーGPは、2021年のタイトル争いの行方を占う大切な一戦になる。 当初そう目されていた第10戦イギリスGPは、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンのクラッ…

 天王山----。夏休みが終わり、シーズン後半戦の幕開けとなる第12戦ベルギーGPは、2021年のタイトル争いの行方を占う大切な一戦になる。

 当初そう目されていた第10戦イギリスGPは、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンのクラッシュという最悪の幕切れとなり、続くハンガリーGPでもレッドブル・ホンダ勢は多重クラッシュに巻き込まれて、本来のレースができなかった。



前半戦は不安定な走りを露呈していた角田裕毅

 予選パフォーマンスを見るかぎりでは、シルバーストンでマシンを進化させてきたメルセデスAMGがわずかにリードしたように見えた。その0.2〜0.3秒の差を、夏休みの間にレッドブル・ホンダが取り戻せたかどうか。

 すでに、どのチームも2022年型マシンにシフトした。今季型マシンの開発が終了したシーズン後半戦の趨勢を占うのは、間違いなくこのスパ・フランコルシャンでのパフォーマンスだ。

「最後の2戦(イギリスGP、ハンガリーGP)では、彼ら(メルセデスAMG)はとても速かった。今週末もそうなる可能性が高いだろう。ここは長いストレートがあって、伝統的に僕らにとってベストなサーキットではない。今年の僕らはそのギャップを間違いなく縮めているけど、トップスピードではまだトップではない。

 去年のマシンに比べればトップスピードはよくなっているけど、彼らと比べてどこまでいけるか、まだ何とも言えない。天気予報もレース週末を通してよくなさそうだし、雨が降ったりドライになったりするだろう。そのなかでどんなパフォーマンスを発揮できるかは、走ってみなければわからないね」

 フェルスタッペンは"準地元"ベルギーGPを前にそう語る。

 全長7.004kmのスパ・フランコルシャンは、セクター1とセクター3がほぼ全開区間で、高低差102.2mを下るセクター2は流れるような中高速コーナーの連続。ダウンフォースはほしいが、空気抵抗は削りたい。シルバーストンと同様か、それ以上にマシンの空力効率が問われるサーキットだ。

 トップスピードはまだまだだと語るフェルスタッペンだが、「どういうことかわからない」と首をかしげる関係者もいる。

 ポール・リカール(第7戦フランスGP)やレッドブル・リンク(第8戦シュタイアーマルクGP、第9戦オーストリアGP)ではダウンフォースを削り、メルセデスAMGを上回るストレートスピードでタイムを稼いでいたからだ。そんなセットアップでスパのセクター2をスムーズに駆け下りることができれば、ストレートもコーナーも速いマシンになる。

「僕がF1で楽しいと思うのは高速コーナーだ。F1マシンがどれだけ速く走れるかということを感じることができるからね。スパはコーナーのコンビネーションと高低差もあって最高だ。F1マシンで走っていて最悪なのは低速コーナーで、全然グリップがないし退屈だ。グリップが感じられるのは高速コーナー。スパにはそんな高速コーナーがたくさんある」(フェルスタッペン)

 今週末は3日間とも雨の予報が出ている。

 ただし「スパウェザー」と言われるように、不安定な天候はいつものことで、降るといっても軽いにわか雨のこともあれば豪雨になることもある。そんな急変に、ドライバーだけでなくマシンもパワーユニットも対応できなければならない。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは言う。

「前半戦は総じて言えば選手権争いに絡み、一時は先頭に立つという、いいかたちで戦うことができました。最後の2戦は我々にはコントロールが効かないような出来事などいろいろありましたが、2週間のオフの間に身も心もリフレッシュして後半戦に臨む準備ができています。

 スパ・フランコルシャンはスパウェザーと呼ばれるように、木曜から週末に向けて不安定な天候になるということで、時間を大事に使って予選・決勝に備えていきたいと思います」

 シルバーストンでクラッシュしたフェルスタッペンの2基目、そしてハンガロリンクで車体側面に激突されたセルジオ・ペレスの2基目は、ICEがダメージを負ったものの、それ以外のコンポーネントは無事だった。

「ペレス選手のパワーユニットに関しては、ICE本体がダメでした。ほかのコンポーネントも細かく見ていますが、MGU-K(※)とMGU-H(※)は十中八九、大丈夫です。

※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを回生する装置。
※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 マックス(フェルスタッペン)のほうは、ICEはまだ動くのでかなり状況は違います。いろいろなかたちで補修を検討している段階ですが、現状判断で言うと予選・決勝で使えるものではないと判断しています。MGU-KとMGU-Hに関しては健全な状況であることは明らかです」

 4基目の投入とグリッド降格ペナルティは避けられない状況ではあるが、場合によってはICEのみの投入で10グリッド降格ペナルティに抑えることも可能だ。

 開幕前はF1挑戦のラストシーズンを「一戦一戦、悔いのないよう戦いきりたい」としていた田辺テクニカルディレクターだが、その戦いももう残り半分となってしまった。

「『シーズンの半分まで来てしまったな』という思いもありますが、『まだ半分ある』という思いはそれ以上にあります。ここから最後、シーズンが終わるまで何があるかわかりませんし、このところいろいろありましたが、不運はもう使い果たしたと考えています。トラブルや問題を呼び込まないようにきちんと準備して対応し、最後まで全力でひとつひとつのレースを大事に戦っていきたいと思います」

 そして角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は、正念場となるシーズン後半戦を前にこう語る。

「夏休みの最初はまだ少し仕事が残っていて、ハンガリーGPを終えたあとそのままイギリスに行き、2日間シミュレーター作業をやってきました。ハンガリーGPのコラレーション(誤差確認)と次の3連戦に向けた作業です。

 そこからイタリアに帰るビザの問題でイギリスに少し居残ることになってしまったので、夏休みの1週目はそれで終わってしまいました。イタリアに戻ってからは新居の家具を揃えるためのショッピングにかなり時間を費やしました。最終週はコモ湖でリラックスして(心身の)バッテリーの充電に専念してきました」

 前半戦は5回の入賞を果たした一方で、大きなクラッシュが5回と、不必要な場面での不用意なミスも目立った。

「開幕前の期待どおりの内容にはなりませんでしたし、アップダウンがたくさんありました。僕自身のパフォーマンスも非常に不安定な時がありました。

 でも、ポイントは獲れましたし、全戦でポイントを獲得した唯一のチームになったという点でもアルファタウリを助けることができたと思いますし、全体的にはとても満足しています。シーズン後半戦でもその流れを維持しなければならないと思います」

 新人だからマシンに対する理解が足りないのは当然だし、成熟期にあるピエール・ガスリーに及ばないのは当たり前のこと。マシンの仕上がりやサーキットとの相性によってアップダウンがあるのも当然だ。

 だからこそ、経験を積むためにフリー走行でのクラッシュは避けなければならないし、今のF1で唯一フルアタックをする貴重なチャンスであるQ3に進むために、Q1でマシンを壊してはいけない。慎重なアプローチに切り替えたはずなのに、前半戦最後のハンガリーでもまた同じミスを犯してしまった。

 夏休みの間に前半戦を振り返り、なぜそうなってしまったのか、角田は理解しているのか。それがここからの3連戦、そして11週間で8戦が行なわれる超過密スケジュールの後半戦で問われることになるだろう。

 日本GPは中止となってしまったが、テレビを通して日本のファンに鈴鹿と変わらぬ感動と興奮を届けてもらいたい。

「すごくガッカリしていますが、オリンピックが終わったあと、日本の新型コロナの状況がどんどん悪化していることをニュースで見ていると、中止になる可能性はどんどん高くなっているなと感じていましたし、こうなるのではないかという予感はありました。

 日本のファンの皆さんの前で鈴鹿を走るのをとても楽しみにしていましたし、鈴鹿はFIA F4時代以来なので、F1マシンとの違いを体験するのも楽しみにしていたんです。でも、仕方がないですし、日本のファンの皆さんにはテレビを通して、いい走りを届けられるようにがんばりたいと思います」