木村和久の「新・お気楽ゴルフ」連載◆第5回 東京五輪のゴルフ競技、男女ともに盛り上がりましたね。男子はメダルこそ惜しくも逃しましたが、松山英樹選手が最後まで優勝争いを演じて銅メダルプレーオフでも奮闘。女子は稲見萌寧選手が銀メダルプレーオフを…

木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第5回

 東京五輪のゴルフ競技、男女ともに盛り上がりましたね。男子はメダルこそ惜しくも逃しましたが、松山英樹選手が最後まで優勝争いを演じて銅メダルプレーオフでも奮闘。女子は稲見萌寧選手が銀メダルプレーオフを制して、見事に銀メダルを獲得しました。

 テレビ視聴率も男子の最終日では平均20%超えと、通常のトーナメント中継ではあり得ない数字を叩き出しました。平均30%超えを記録した野球やサッカーなどの人気競技にはかないませんでしたが、昼間の放送だったことを思えば、立派な数字だと思います。ただ、他のエキサイティングなスポーツに比べると、ゴルフはやや地味に映る部分もあったかもしれません......。

 オリンピックのゴルフ競技は、2016年リオデジャネイロ大会で112年ぶりに復活。東京大会は復活2回目と、わりと大事な状況にあったと思います。

 オリンピックに初めてゴルフ競技が加わったのは、1900年のパリ大会でした。男女ともに4カ国の選手が参加し、個人戦で行なわれました。1904年のセントルイス大会では男子だけ行なわれて、アメリカとカナダの2カ国の選手が参加。個人戦と団体戦で行なわれたそうです。

 しかし、2つの国しか参加しない競技って、さすがに厳しいですよね。1908年大会には競技から除外されてしまうのも頷けます。それに、オリンピックはアマチュア選手が参加するものといった流れが続いていたので、プロ全盛のゴルフは長い間、開催競技に加わることが難しい状況にあったのでしょう。

 それでも、2003年に国際ゴルフ連盟がオリンピック特別委員会を設置。プロ団体の参加を招致して、2016年からオリンピックにゴルフ競技が復活した、というわけです。

 2024年のパリ大会でも、ゴルフ競技は行なわれます。すでに会場も2018年にライダーカップを開催したル・ゴルフ・ナショナルに内定しています。

 じゃあ、しばらくゴルフは続くね、と思うでしょ? でも、そう思うのはちょっと早計です。

 個人的な見解になりますが、いろんな問題を抱えているように思います。

 先にも少し触れましたが、東京五輪全体を見た時、ゴルフは他の競技と比較すると、インパクト、認知度、共感度などがちょっと薄い感じがしました。そういった点を含めて、個人的に気になったことをピックアップしてみたので、みなさんも一緒に考えてみてください。

(1)男女混合種目の導入
 国際オリンピック委員会(IOC)は参加人数の男女均等化を推進し、今回の東京五輪から卓球や柔道など数多くの競技で男女混合種目が追加されました。これは誠に喜ばしいことで、今後のオリンピックにおける重要なコンテンツとなるでしょう。

 ここでひとつ、疑問が浮かび上がります。なんでゴルフには男女混合種目がないのか?

 もし男女混合種目を入れたら、現在ある男子、女子の個人戦を含めて、4日間の通し競技を3つ消化しなければなりません。予備日を入れたら、もっと日数がかかります。おそらくそういった理由で見送られたのでしょう。

 ちなみに、混合種目のやり方は、男女でティーイングエリアを変えるのが一般的です。実際、日本では男子、女子、そしてシニアを含めた3つのツアーの混合競技『日立3ツアーズ選手権』を行なっています。そういうのを参考にしながら、ベストボールでやるのか、ベストスコアでやるのか、いろいろと楽しめるやり方を考えていけばいいと思うんですけどね。

 そもそも国別対抗の団体種目すらないのに、男女混合種目を入れるのは早すぎる、といった意見もあるでしょう。だとしても、オリンピックにおけるゴルフをより魅力的な競技にしていくためには、国別対抗の団体戦や男女混合種目をどう組み込んでいくか。それが、今後の課題になると思います。

(2)長い競技時間の改善
 今回の東京五輪から新しく導入されたスケートボードやBMX、サーフィンなどは、競技時間がそれほどかからず、見ていて楽しいし、わかりやすかったです。つまり、うまくショーアップされているんですな。

 その点、ゴルフはどうでしょう。

 男女とも丸4日間、毎日個々が5時間ぐらいのラウンドをこなします。最初の組のスタートから最終組まで見ていたら、朝から日暮れ前まで、ものすごく長い試合となります。

 実は1904年のセントルイス五輪の時、ゴルフは「他の競技に比べて、恐ろしく時間がかかる」と問題になったそうです。要するに、ゴルフはオリンピックに向いていない競技というレッテルを貼られ、以降100年もの間、何の改善も努力もしてこなかったんですね。

 ここはもう、今後のことも考えて、オリンピックバージョンの競技方法を考えてもいいのではないでしょうか。3日間、あるいは2日間競技にするとか、競技日程を短縮してもいいし、4日間でやるならサバイバル方式にして、最終日は20人ぐらいに絞るとか、魅せる競技としての工夫がほしいところです。

 あと、興味を引く演出として、エキシビションでニアピンコンテストなどをやっても面白いと思います。メジャーリーグだって、ホームラン競争をやってファンへのアピールを欠かしていませんからね。

(3)見た目にわかる面白いコースの活用
 海外メジャーのひとつ、オーガスタ・ナショナルGCで開催されるマスターズは、いつ見ても面白いですよね。

 誰もがコースを知っているのもありますが、多くのロングホールで、危険と隣り合わせにある状況で2オンを狙わせる設計になっているところがエキサイティングです。ショートホールも同様です。いくつかのホールは池が絡んでいて、狙いどころを絞っています。だから、面白いのです。

 そういうわけで、「コースが面白い」という情報はプレーヤーと同時に、見ている観客や視聴者も共有しないといけません。面白さや難易度が共感できるから、ゲームを見ていて興奮するのです。

 東京五輪の舞台となった霞ヶ関カンツリークラブは、綺麗な林間コースでしたが、素人目にはどれも似通ったホールにしか見えませんでした。何がどう難しいのか、テレビではなかなか把握できなかったと思います。

 日本の古い名門コースは、みんなそう。ですから、霞ヶ関CCを責める気は毛頭ないのですが......。

 そもそもコース設計の発想が日本と欧米とでは違うのです。

 1950年代のアメリカ。ロバート・トレント・ジョーンズ・シニアが、池をたくさん配置して、ロングホールでは池を越えれば2オンのご褒美がもらえるようなコースを設計しました。

 そうしたコースで話題を振りまいたのが、アメリカゴルフ界のスーパースター、アーノルド・パーマー。パーマーは池越えの2オンにも果敢にトライし、チャレンジスピリットの権化として、ジャック・ニクラウスよりも人気を博しました。トーナメントのテレビ中継もちょうどその頃から始まって、トッププロがエキサイティングな戦いを披露し、ゴルフは爆発的な人気を得るようになったのです。

 一方、日本ではハザードの概念がちょっと違っていました。誰が見てもわかる、視覚的な恐怖心を感じさせるものがアメリカ。それに対して、日本は"わかる人にはわかる"、あるいは"気づかせる罠"といったもの。何も知らずに通り過ぎれば、それはそれで結構。けど、実はマウンドの奥には池があるよ、とかね。

 日本の代表的な林間コースは、日本庭園がモチーフになっていることが多いです。日本庭園は"見立て"や"気づき"の世界ですから、単なる石ころを並べた庭と見るか、宇宙の心理を追求した庭と見るか、本人次第なのです。

 結局、林間コースは大きなバンカーと樹木がハザードですから、今回の東京五輪でもテレビ的にはわかりにくいものでした。しかも、池があってもさほど効いていないし、バカでかいグリーンの傾斜も中途半端。本当なら、テレビ中継的にはグリーンを捉えたとしても、バックスピンで池に入るくらいのサディスティックなセッティングが必要だったのです。

 馬術競技では、だるまを置いた障害があったりして、馬がだるまの目を見て怖がったのか、脚がすくんで終わり......みたいなことがありました。「え~、そんなのありなの?」って感じでしたが、それはそれで新鮮でした。

 そう考えたら、全長5mの大魔神やガンダムの模型を置いて、そんな障害があったら面白いかも......。と、それは冗談ですが、ゴルフ競技でもそれぐらい見た目にもわかるハザードがあったほうが見る者を魅了します。日本のコースは、その辺の意識改革が必要かもしれませんね。



オリンピックの正式種目に復活したゴルフ。パラリンピックの競技種目にも導入されるといいのですが。

(4)パラリンピックにゴルフ競技の追加を
 パラリンピックにおいて、今のところゴルフ競技はありません。これは、レギュレーションの問題が大きいと思います。どのように選手を分類するか、さらにクラブの仕様、コースの仕様、ボールの仕様など、現状、多くの細かなことを決めきれないからでしょう。

 でも、見切り発車でもいいから、政治的な判断で進めてもいいのではないでしょうか。パラリンピックを支援するゴルフ団体は、開催を切に望んでいますし。

 本来であれば、かつての日米首脳、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領が一緒にゴルフをしていた頃、「パラリンピックにもゴルフ競技を入れようぜ」といった話をしてもよかったのです。

 まあ、今となっては、後の祭り。2028年のロサンゼルス大会以降に期待するしかありません。でもこれこそ、常に先手を打って仕掛けなければいけない案件だと思うんですよね。

 有能な関係者の方、ぜひパラリンピックにゴルフを加えてくださいな。