東京五輪の卓球女子団体。日本は2012年ロンドン五輪から銀、銅、銀と3大会連続となるメダルを獲得。しかし、悲願の金メダルには届かなかった。 石川佳純、伊藤美誠、平野美宇の3人で臨んだ決勝戦の相手は、難攻不落の中国。団体はダブルス1試合、シ…

 東京五輪の卓球女子団体。日本は2012年ロンドン五輪から銀、銅、銀と3大会連続となるメダルを獲得。しかし、悲願の金メダルには届かなかった。

 石川佳純、伊藤美誠、平野美宇の3人で臨んだ決勝戦の相手は、難攻不落の中国。団体はダブルス1試合、シングルス4試合が行なわれ、先に3勝したチームが勝利となるが、日本は0-3とストレートで敗北。最終的に中国は、男女の個人、団体などの全5種目で金メダルを4つ、銀メダルも3つ獲得し、その強さをあらためて示す形となった。



女子団体戦の2試合目、シングルスを戦った伊藤

"卓球王国"の背中はハッキリと見えていた。しかし、それでも越えることができなかった、その勝負を分けるポイントはどこにあったのか。

 命運を大きく左右する第1試合の日本のダブルスは、女子ダブルスの世界ランキング1位で、決勝まで1ゲームも取られていない石川と平野の"絶好調ペア"。相手は同5位の陳夢(チェン・ムン)/王曼昱(ワン・マンユ)ペアだった。

 日本ペアは序盤から積極的にロングサーブを使い、先手必勝のスタイルで有利にゲームを運んでいった。基本的に、試合序盤は短いサーブで相手の様子を伺うことが多いが、日本ペアはあえて攻めの姿勢でスタートダッシュを決め、中国ペアを翻弄。加えて、平野のストレートへのバックハンドや、石川のフォアカウンターで得点を奪うなど、11ー9と第1ゲームを先取した。

 だが、中国ペアは動揺する気配がまったくない。第2ゲームからは日本ペアが先に仕掛けられるシーンが多く見られ、第1ゲームでは決まっていたフィニッシュボールが打ち返されるようになった。

 第3ゲームでも平野がチキータを多用して得点を奪ったが、中国ペアはすぐさま対応。日本ペアは先手を取るためにさまざまな戦術を施したものの、最大のライバルを研究し、準備してきた中国がことごとく上回る。結果的に日本は3連続でゲームを落とし、1−3で初戦を落とした。

 第2試合のシングルスは、エースの伊藤と孫穎莎(スンイーシャ)による、2000年生まれの同級生対決。前述の日本に対する「研究」と「準備」において、中国が特に入念に行なってきたのが「伊藤美誠対策」と言えるだろう。

 この2人は女子シングルス準決勝でも対戦しており、孫穎莎は緩急を交えて伊藤を翻弄した。ボールの強さは中国選手の中でも1、2を争う孫穎莎だが、あまり回転もスピードもない、いわゆる"ナックル(無回転)"に近いボールを加えることでタイミングをずらし、ミスを誘発していたのだ。野球でいえば「チェンジアップ」。速球を待っていた打者が、思ったよりボールが伸びて来ず、待ち切れずに上体が前のめりになってしまう。あの感じだ。試合結果はゲームカウント0−4とストレート負けを喫し、伊藤は「悪くはなかったけど、惜しくもなかった」と悔し涙を浮かべた。

 そして、伊藤にとってリベンジマッチとなった団体決勝の2試合目。やはり孫穎莎は緩急を交えたラリーを展開した。さらに、少し緩めのナックルボールをバックサイドの奥側に打つことで、伊藤は肩が上がってしまって強いボールで攻めることができない。それにより返球が甘くなり、孫穎莎が強打で決めるケースが何度か見られた。

 そういった打ちづらく、攻めづらくする戦術によって2ゲームを奪われた伊藤。3ゲーム目にはフォア、ミドル、バックサイドにサーブを散らし、そこに長短も加えることで一気に自分のペースに。11ー3とゲームを奪い返し、伊藤の逆転劇を予感させた。だが、孫穎莎が反撃ムードを振り払う猛攻を見せ、前半とは打って変わって、自慢の強打中心のラリーを展開。緩急の激しさについていけなかった伊藤は、3ー11で第4ゲームを落とし、ゲームカウント1−3で敗北。リベンジを果たすことはできなかった。

 追い込まれた日本は、第3試合のシングルスに平野が登場する。相手はダブルスでも対戦した王曼昱。彼女は176センチと長身でリーチが長く、普通の選手ならば打ち抜ける厳しいコースであっても逆にカウンターで打ち返されてしまう、男子選手並の体格とパワーが持ち味だ。

 だからこそ、かつて中国勢を次々に撃破し、"ハリケーン・ヒラノ"という異名をつけられるほど恐れられた、平野の高速卓球で大柄の王曼昱を揺さぶっていく。この戦術が勝利のカギを握るかに思えた。

 平野もその持ち味を発揮しようと、前陣で構えながら、テンポの速いラリーを展開。もちろん得点する場面もあったが、それ以上に王曼昱のパワーに押し切られる場面が多かった。平野は第2ゲームこそ9-11と追い詰めたものの、最終的には0−3で敗退し、日本が表彰台の頂点に上がることは叶わなかった。

 結果的にストレート負けを喫した日本だが、種目に団体戦が追加された2008年北京五輪から今までで、もっとも金メダルに近い戦いをしたことは間違いない。準決勝の香港戦までは1試合も落とさず、計2ゲームしか失わなかった。これほど危なげなくメダル獲得を決めた大会はなかっただろう。

 今や女子卓球は日本と中国の"2強"と言ってもいい。それでも敗戦した要因は、やはり中国の日本3選手に対する徹底した「研究」と「準備」。これに尽きる。

 ダブルスでは石川と平野ペアの多彩な戦術に対応し、伊藤には世界ランキング1位の陳夢ではなく、女子シングルス準決勝で"美誠封じ"に成功した孫穎莎を当て、平野にはリーチやパワーの差で優位に立つ王曼昱をぶつける。戦術・技術への対策だけではなく、代表メンバーの人選からも、どれだけ日本との戦いを想定していたのかがわかる。

 裏を返せば、中国側は「そうしなければ日本を倒すのは難しい」と捉えていること。特に孫穎莎の伊藤に対する戦術は、普段はあまり多用しない緩急を、リスクを負ってでも組み込んだもの。それほど、伊藤ら日本の女子卓球は中国に迫っているのだ。

 今までも中国は、「仮想・平野美宇、伊藤美誠」と、台頭してきた日本選手とプレースタイルが似た選手を複数人用意して対策を練ってきた。今後も中国は、卓球界の頂点に君臨し続けるため、最大のライバルである日本への対策を欠かさずにやってくるだろう。

 それをも跳ね返し、混合ダブルスのように立場を逆転する日は来るのか。日本女子卓球の今後が楽しみでならない。