東京五輪で29年ぶりのベスト8入りを果たした男子バレー日本代表。予選で3勝を挙げただけでなく、ブラジルやイタリア、ポーランドなど強豪国にも善戦した。その戦いを、29年前のバルセロナ五輪に出場し、2008年の北京五輪では主将としてチームを牽…

 東京五輪で29年ぶりのベスト8入りを果たした男子バレー日本代表。予選で3勝を挙げただけでなく、ブラジルやイタリア、ポーランドなど強豪国にも善戦した。その戦いを、29年前のバルセロナ五輪に出場し、2008年の北京五輪では主将としてチームを牽引した荻野正二はどう見ていたのか。今年度から主将を務める石川祐希、パリ五輪に向けた注目の新戦力についても語った。



キャプテンとして男子バレー日本代表を牽引した石川祐希

――準々決勝のブラジル戦、敗れはしましたが善戦したように思います。

「世界1位のブラジルにも名前負けせず、自分たちのプレーをしようという姿勢が第1セットから見えました。全体的にいいプレーができていたと思います。攻撃ではブラジルのブロックにそこまで捕まっていなかったし、サーブレシーブが苦手なイアオンディ・レアルを狙い、それがスパイクのリズムも崩していました。

 特に第2セットは、ブラジルもバタバタして、ブロックタッチを取とるなどディフェンスも頑張っていた。ただ、ブラジルもリベロを中心に拾っていくバレーで、セットの終盤ではミスがほぼなかったですね。第2セットは日本が3、4点をリードしていたところから、ヒカルド ルカレッリ・ソウザの強いサーブが立て続けに4、5本入った。それが勝負所での強さですね。タラレバですが、あのセットを取とれなかったのが、勝敗のカギになったと思います」

――今大会はブラジルだけでなく、イタリアやポーランド戦も競った試合になりました。その理由はどこにあると見ていましたか?

「攻撃面では、パイプ(センターからのバックアタック)をうまく使っていたし、安定したサーブレシーブからの攻撃もよかったですね。あまりクイックは使っていませんでしたが、サーブレシーブがちゃんとセッターに返るので相手のブロックを引きつけることができた。アタッカーの前に(ブロックが)2枚ガッツリくるのではなく、1枚半にできる場面が多かったです。サーブレシーブが安定していれば、強いチームにも通用すると証明できたと思います」

――キャプテンとしてチームを牽引した、石川祐希選手のプレーはどうでしたか?

「プレー面では、試合を重ねるごとに疲労が溜まっていたようにも見えましたが、特にカナダ戦でのスパイクはすばらしかった。打点が高い強打だけではなく、軟打もうまく使えていましたね。ブロックをよく見て得意のクロスを打ったり、相手フロアにスペースが空いたらプッシュで落としたり。サーブもミスが少なく、いいところを狙っていました。あとは、ブロックがよくなりましたね。高さがあって手の出し方もいい。随所でイタリアでの経験が活きているのを感じます。

 キャプテンとしては、周りに声をかける姿が印象的でした。コートに入る時、ベンチでもアドバイスをしていた。『自分がチームを引っ張らないといけない』という気持ちが、自然に出てきたんじゃないでしょうか。最初は難しかったと思いますが、試合を重ねるごとに自分なりのキャプテンの"スタイル"を見つけたのかなと思います。とりわけ、対角を組んでいた髙橋藍選手は安心してプレーができたでしょうね。

 西田(有志)選手も、セッターの関田(誠大)選手がうまくトスを散らしていたのもありますが、石川選手がいる安心感からスパイクの決定率を上げられたんだと思います。自分だけが決めなくても、髙橋を含めた2人がなんとかしてくれる。そんな相乗効果で攻撃がよくなったように感じました」

――荻野さんもキャプテンとしてチームを北京五輪に導きました。ご自身の時と比べていかがですか?

「僕がキャプテンの時は控えからのスタートが多くて、途中で入る時は『やばいな』という場面が多かった(笑)。雰囲気を変えるために少しオーバーに感情表現をしたり、当時の主力だった石島雄介選手(現ビーチバレー日本代表)もけっこう繊細でしたから、不安そうだなと思ったら声をかけたり。僕は年齢的にもけっこう上でしたから、みんなもついてきてくれましたけど、雰囲気づくりは気を遣っていました。

 石川選手はフルで試合に出ていましたが、リードしている時はそこまで声をかけず、競り合っている時、劣勢の時は積極的に声をかけていた。『全部自分がやらないと』と思いすぎると自分が潰れてしまいますからね。今大会は、五輪経験者の清水邦広選手がいたことでラクだった部分があるでしょうけど、状況をしっかりと見極めていたと思います」

――大学の頃からイタリアでプレーし、卒業後にはプロとして3シーズンプレーしたことが、プレーやメンタル面に好影響を与えたのでしょうか。

「それはすごくあるでしょうね。セリエAはサーブの強さ、ブロックの高さも違う。常に世界トップレベルでプレーしているなかで、『こう打てば決まるな』という感覚を磨けたからこそ、強豪国の高いブロック相手にも得点を重ねることができていました。サーブレシーブも崩れることが少なくなった。特に欧米の選手のジャンプフローターサーブは、打ち出しの高さ、重さ、変化の仕方も違うんですよ。そこに慣れたこともあると思います。

 単純に、ジャンプ力も上がったんじゃないかな? ブロックでも顔がネットから出るくらい跳んでいましたし。とにかく全体的にレベルアップしていますね」

――現在の主力には若い選手が多く、3年後のパリ五輪まで同じメンバーで強化が進められると思います。

「現在のメンバーの成長は楽しみですが、今年度の日本代表に登録されていた東海大学3年のミドルブロッカー・佐藤駿一郎選手(204cm)など、2m級の高校生、大学生の選手を何人か入れて強化していってほしいです。特にミドルブロッカー陣が、サイドからのスパイクを止められるようになるともっとよくなる。3年後を見越して、来年度の日本代表に呼んでいいと思います。

 髙橋選手も、今年のネーションズリーグの経験があったから、五輪本番でもあれだけやれた。今回の男子バレーチームを見て『自分もあの舞台でやりたい』という選手も多いでしょうから、他の若い選手にもチャンスをあげてほしいですね」

――荻野さんが注目している新戦力の選手は?

「先ほど挙げた佐藤選手のほかに、高松工芸高校3年の牧大晃選手(210cm)、東福岡高校から東亜大学に入った柳北悠李選手(192cm)もこれから伸びるかもしれない。期待が大きいのは、やはり2mオーバーの佐藤選手と牧選手になりますね。牧選手はサーブレシーブをするサイドアタッカーで、オポジットもできるかもしれません。

 もちろん、五輪メンバーの大塚達宣選手(早稲田大3年)の奮起も期待しています。今回はあまり出番がありませんでしたが、身長があって(194cm)器用だから、これから出てくると思う。全体的に大型の選手が増えると、ふだんの練習や紅白戦で高いブロックを相手にできるメリットも生まれます」

――セッターの大型化についてはいかがですか?

「そこはだいぶ前から指摘されている点ですね。今回は関田選手(175cm)が本当によくやっていましたが、190cm前後のセッターもひとりほしいところ。ジェイテクトの若手の道井淳平選手(197cm)、ウルフドッグス名古屋の永露元稀選手(191cm)などが代表でも戦力になると、ブロックの穴がなくなります。

 セッターの身長が高いと、サーブレシーブする側からは"的が大きい"のでラクな部分もあります。ちょっとレシーブが大きくなっても、ネットを越えてしまう心配が少なくなりますから。技術では関田選手が抜けていますから、その他の部分で特長がある選手をどう育てていくかにも、今後に注目しています」

――上位に追いつくため、さらに必要なものはありますか?

「先ほども言ったようにセット終盤でミスをしないメンタルもそうですが、勝負所でいかに偏らない攻撃ができるか、劣勢になった時のオプションをどれだけ用意できるか、でしょうか。今大会、相手の強いサーブで連続失点した時は、レフトからの攻撃が多かった印象がありました。連続失点をした時のセッターの心理は私もわかりかねる部分もありますが、思い切ってミドル、ライトに回したり、パイプを使ってもよかった。

 海外の強豪国は、ラリー中でもクイックを使いますよね。また、ブラジルなどはスタメンのセッターがライトに多く上げていたのに、控えのセッターが入ったら違う攻撃をパッとできていた。フランスもそう。セッターを代えて違う攻撃のリズムを作れるようになると、もうひとつ強くなれると思います」

――これだけ強くなれる要素があると、パリ五輪が楽しみになりますね。

「すごく期待しています。リオ五輪から5年でベスト8までいけた。今回は代表に選ばれなかったVリーガーや、子どもたちがその舞台を目指してプレーするようになるはず。バレーボール界全体の機運が高まっていくと思うので、本当に楽しみです」