東京・辰巳の森ラグビー練習場の脇には、プレハブの小屋がふたつ、建っている。3月15日の午前中、その1つであるトレーニングジムの窓が白く曇っていた。 最低気温4度という寒さのなか、激しく動き回る選手が湯気を発す。日本代表のジェイミー・ジョセ…

 東京・辰巳の森ラグビー練習場の脇には、プレハブの小屋がふたつ、建っている。3月15日の午前中、その1つであるトレーニングジムの窓が白く曇っていた。

 最低気温4度という寒さのなか、激しく動き回る選手が湯気を発す。日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)肝いりの強化システム、ナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)の第2回キャンプが3日目を迎えていた。

 ポジションごとに2組に分かれた選手のうち、片方はジムワーク、もう片方は髙阪剛スポットコーチによるセッションをおこなう。横たわるボール保持者役の上に覆いかぶさる防御役を、腰を落として引きはがす…。実戦仕様のメニューを通し、地上におけるプレーの激しさを養う。

「低い、かつ強い姿勢を保つこと。リロード(起き上がり)とアップダウン(身体の上下動)の速さ…。そこについて(の練習を)中心にやっています。基本を徹底して、選手に理解してもらう。この先のタックルなどラグビーの動作に関しては、ジェイミーさんたちコーチの方にお渡しする。連携を保ちながらやっています」

 セッションの計画をこう説明する髙阪スポットコーチは、国際的な総合格闘家として知られる。大男を倒すタックルを長所とし、「世界のTK」と謳われてきた。

 ラグビー日本代表には、エディー・ジョーンズ前HC時代から関わってきた。相手の目の前で低い姿勢を取る「ダウンスピード」などの意識を唱えた。世界的には小柄とされる、ジャパンの成長を後押しする。2015年のワールドカップイングランド大会では、南アフリカ代表戦勝利時の鋭いタックルが話題を集めたものだ。

「日本協会から『今季、また力を…』というお話をいただいてジェイミーさんとお会いして…。認識の一致というか、チームが目指されていることと自分のやれることにリンクする部分が見つかった」

 約2年ぶりのラグビー界復帰。6日からの第1回キャンプから現体制にも携わることになった髙阪スポットコーチは、招集された経緯と思いをこう説明する。

 指揮官との対話からは「つなぎ合わせる、構築する」という意思を感じる。それだけに自分のセッションを、鋭い出足とテンポの良さを大事にするジョセフHCのゲームプランにマッチさせたいという。「自分のセッションの次に何をやるのか」「週ごとの練習強度の上げ方」など具体的な情報を共有しながら、慎重に物事を進める。

「格闘技的に言うと、『こういう攻撃に勝つための攻撃があります。ただ、その攻撃だけを練習しても全く身にはならない。その技術を得るために必要なトレーニング、マインド(がより重要)…』。そういう(自身の)感覚を、ジェイミーさんの言葉からも感じます」

 NDSキャンプ終了後に代表チームなどの指導をするかは未定としながら、「2019年(ワールドカップ日本大会)に向けて何かしらのお力添えができれば」。指導実績十分の「世界のTK」には、ジョセフHCも「選手たちから話を聞いても、彼はリスペクトされているようでした。何より私は、彼を優秀なコーチだと思っている」と期待する。(文:向 風見也)