シーズン前半戦を締めくくるハンガリーGPは、激動の2021年を象徴するようなレースになった。 30分前に降り出した雨のせいで、レースはウエットコンディションでのスタート。濡れた路面に足をすくわれたバルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)とラ…

 シーズン前半戦を締めくくるハンガリーGPは、激動の2021年を象徴するようなレースになった。

 30分前に降り出した雨のせいで、レースはウエットコンディションでのスタート。濡れた路面に足をすくわれたバルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)とランス・ストロール(アストンマーティン)がターン1のブレーキングで止まりきれず、5台がリタイア。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)はなんとかコース上にとどまったものの、ボッタスに押し出されたランド・ノリス(マクラーレン)のマシンの直撃を受け、右側のバージボードやフロアなど空力部品の大半を失ってしまった。



フェルスタッペンはリタイアでランキング2位に後退

「(左右で異なる)変なダウンフォースの失い方をしているから、ブレーキング時にも常にロックアップしてしまって、まともに走れなかった。そこからアンダーステアだったり、オーバーステアだったりで曲がっていけないし。マシンバランスが完全におかしくなってしまった。本当にドライブしづらかったよ」

 ハースのミック・シューマッハを抜くのにも苦労するほど厳しい状況ながら、フェルスタッペンは徐々にマシンのクセを掴み取ってペースを上げていった。ほぼ全車がミディアムからハードに交換する1ストップ作戦で走るなか、同じ戦略では状況を打開できないと見るやピットインしてミディアムタイヤに履き替え、ペースを上げて10位(ベッテルの規定違反で最終的には9位。以下、順位・ポイントは繰り上がり前のもの)まで這い上がってみせた。執念のポイント獲得だった。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は言う。

「見てのとおり、ミック・シューマッハのほうがマックスよりもダウンフォースが多いような状態だった。そのなかでもマックスは全身全霊でドライブし、1ポイントを持ち帰ることに成功した。この1点がシーズン末に極めて重要な意味を持つかもしれない。

 幸いなことに、メルセデスAMGは(再スタートに際して)戦略ミスを犯してくれたし、フェルナンド・アロンソもレッドブルのために戦ってくれた。ダメージは最悪の状況より少なくて済んだ」

 タイトル争いの相手であるルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)は、赤旗からの再スタート時に各車がピットインしてスリックタイヤに履き替えるなか、ただ1台だけインターミディエイトのままグリッドに並ぶ戦略判断ミスを犯し、最後尾まで落ちてしまった。

 ただ、ハミルトンはフェルスタッペンに抑えこまれるも、先にタイヤ交換を行なってアンダーカットし、前が開けたところでペースアップ。フェルスタッペンと同じように2ストップ作戦で前走車を猛追し、1周目の多重事故とハミルトンの戦略ミスで首位に立ったエステバン・オコン(アルピーヌ)とセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)との25秒ものギャップをひっくり返すほどの速さを見せた。

 しかし、そのハミルトンの前に立ちはだかったのがフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)だ。シーズン前半戦で取り戻した老獪なドライビングで、10周にわたってハミルトンと好バトルを展開する。

 最後はハミルトンが前に出て3位まで浮上したものの、首位オコンの2.7秒後方まで追い上げたところでタイムアップ。アロンソの好バトルが最高のアシストとなり、チームメイトのオコンが初優勝を挙げた。もちろん、4度の王者ベッテルを常に1.5秒以内に従え、ミスを犯すことなく70周を走り切ったオコンの実力による勝利だ。

 ハミルトン対フェルスタッペンのバトルが見られなかったのは残念だった。だが、彼らはほかと異なる戦略を採り、それぞれが置かれた状況のなかで最大限の戦いを繰り広げ、すばらしいドライビングをみせた。

 シルバーストンでの出来事から、両者の対立を煽るような声も少なくない。そんななか、フェルスタッペンは「もうそんなクソみたいな質問はたくさんだ、二度としないでくれ」と言い切った。

 予選最後のアタックを巡って、ハミルトンがレッドブル勢のアタック開始を妨害したかのような中継映像の切り取られ方もされた。だが、彼らはコース上で真っ向勝負をすることを望んでいる。スペインGPやフランスGPのような胸のすくような好レースを望んでいるのは、我々ファンも彼ら自身も同じだ。

 その点において、前戦でクラッシュしたフェルスタッペンのパワーユニットと、今回クラッシュしたセルジオ・ペレスのパワーユニットがダメージを負い、継続使用が難しそうな事実は大きな不利となる。年間3基の規定を守ることが難しくなり、後半戦のどこかで最後尾スタートのペナルティを受けなければならない可能性が高くなった。

「予選後、クルマが戻って来たところでカウルを外してマシンの各部をチェックするのですが、その段階でクラック(亀裂)を発見しました。前回のクラッシュで大きなストレスのかかった車体側と、ギアボックス側の締結点とその周辺を入念にチェックし、予選前はまったく異常はありませんでしたが、少しオイルがにじみ出しているような状態でした」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)



ダブル入賞を果たしたアルファタウリ・ホンダの2台

 ペレス車は1周目の事故で車体側面のラジエターにダメージを負って冷却水を大幅に失い、ターン11まで走行したところでデータ上に異常が出た。こちらも継続使用は難しそうな見込みだという。

 ただし、グリッド降格ペナルティと言っても、ソチのように追い抜きが容易なサーキットであれば中団勢を抜いて上位まで挽回することは可能で、レースを丸ごと失うわけではない。むしろ4基目を投入することのアドバンテージを最大限に生かした"やりくり"で、シーズン後半戦を戦うこともできるかもしれない。

 一方、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)にとっても、ハンガリーGPはシーズン前半戦を象徴するようなレースになった。

 第7戦フランスGPのQ1クラッシュで猛省した角田は、翌戦のシュタイアーマルクGPから慎重なアプローチを採り入れた。だが、ここハンガロリンクでは再びFP1で縁石にタイヤを乗せてスピンし、リアエンドを壊して金曜フリー走行を大幅に失うというミスを犯してしまった。

 ミス自体は、ほんの些細なケアレスミスだ。だが、金曜に一歩ずつマシンとサーキットを習熟していくというプロセスができず、ロングランもできずに後手後手に回ったことで、予選アタックも力を出し切れずにQ1敗退となってしまった。

 モナコと同様に、追い抜きが難しいため予選が極めて重要になるハンガロリンクで、モナコと同じようなミスを犯してしまったことになる。デビューから間もないシーズン序盤戦ならまだしも、11戦目でこのミスを繰り返しているのは、いただけない。

「(波乱のない)普通のレースだったら、ポイントが獲れていたかどうかはわかりません。決勝まではこれまでで最悪のレース週末でしたし、なぜこうなってしまったのかデータを分析して学ばなければなりません。シーズン後半戦にはもっと力強いレースができるようにしたいと思います」

 角田自身がそう語るように、1周目の事故で5位に浮上できたからこそ7位入賞を果たせたが、ウイリアムズ勢を2秒差で辛うじて抑えたことからもわかるように、レースペースは決して速くはなかった。

 ドライコンディションのレースで16番手から集団に埋もれていれば、FP1の小さなミスでレース週末全体を棒に振っていた可能性も高かった。それだけに、7位入賞という結果だけを見て手放しで喜ぶことができないのは、角田自身が語っているとおりだ。

 チームメイトのピエール・ガスリーは予選で5番手に入り、決勝でも11位まで後退を余儀なくされながらも挽回して角田の前に上がり、最後はピットインしてファステストラップを刻んだ。角田との間にそれほど差が開いたことも見逃してはいけない。

 ケアレスミスで実力を発揮しきれず、ドライビング能力を評価する以前の段階で、角田のシーズン前半戦は終わってしまった。その事実を受け止め、向かい合い、何を学び、何を改善すべきか......。来季に向けて正念場となるシーズン後半戦へとつながる夏休みを過ごしてもらいたい。