「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にイ…

「スポーツ業界で働きたい!」と思っている学生や転職を希望している人が多くなる中、どんな職種があるの?どんなスキルが必要なのか?など分からないことが数あり、仕事の実際を知ることが意思決定には重要となる。そこで、スポーツを仕事としている人にインタビューし、仕事の“あれこれ”を聞く。

名前:平岩康佑(ひらいわ・こうすけ)
職業歴:2018年~

仕事内容
・実況を担当するゲームの理解度を深める
・情報収集(選手、ルール、ゲームのアップデート内容など)

取材・文/斎藤寿子

次世代スポーツ競技として注目されている『エレクトロニック・スポーツ(以下、eスポーツ)』。ビデオゲームやコンピューターゲームなど、電子機器を用いて個人やチームで対戦し、それを観戦、視聴して楽しむというものだ。

世界的に急速に広がりを見せており、現在の競技人口は1億人以上といわれている。国際大会では毎年のように最高賞金総額が更新され、市場規模の拡大もとどまるところを知らない。日本国内では賞金総額の最高は3億円で、そのほか1億円の大会が年に3度開催されている。

各国にはいくつものプロチームが存在し、プレーヤーだけでなく戦略を図るコーチや元NFLのメンタルトレーナーまで抱えている場合もあるという。また、2021年5月13日~6月23日にかけて、IOC(国際オリンピック委員会)は、eスポーツタイトルを競技種目としたオリンピックライセンスイベント「Olympic Virtual Series (OVS)」を実施。eスポーツが初めてオリンピックの公式競技として扱われている。

その世界にいち早く足を踏み入れたのが、元朝日放送アナウンサーの平岩康佑さん。2018年に国内初となるeスポーツ専門の会社『ODYSSEY』を設立し、現在はeスポーツキャスターという新しい職種を確立している。

もともとも報道キャスターを目指し、大学卒業後に朝日放送に入社した平岩さん。そのきっかけは、大学時代米国に留学したことにあった。

「僕が米国にいた頃、ちょうどオバマ政権が誕生するという時期でした。その時に大統領選挙をめぐって、若者の政治への熱量に驚きました。と同時に“日本も若い人が政治に興味を持つような社会になったらいいな”と思ったんです。それで報道キャスターを目指そうと考えました」

日本で報道キャスターとして活躍している人の経歴を見ると、スポーツなどの実況アナウンサー出身の人が少なくない。それを知った平岩さんは、まず実況で腕を磨こうと、テレビ局への就職を目指すことに。晴れて朝日放送の入社試験をパスし、アナウンス部に配属されたのは2011年のことだった。

同年7月に『おはよう朝日です』で番組デビューすると、その後はテレビやラジオで、リポーター、アナウンサーとしてさまざまな番組を担当。翌12年からはプロ野球やJリーグ、高校野球などでリポーターを務め、3年目からはスポーツ中継の実況アナウンサーとなった。17年には高校野球の実況中継を高く評価され、ANNアナウンサー賞スポーツ実況部門で優秀賞に輝いた。 報道キャスターを目指していた平岩さんだったが、その頃には実況アナウンサーの面白さに魅了され、その道でより腕を磨きたいと考えていた。

「今にも通じることですが、実況は予想しないことが起きるドラマの連続で、それを最前列で立ち会えるというのが一番の魅力。また反射神経との戦いでもあって、すべてうまくいかないからこその面白さがあるんです。朝日放送時代も年間かなりの数の実況を担当しましたが、開始の1秒から終了の1秒まで満足できる実況ができたことは、一度もありませんでした。それほど目の前で起こっていることを言葉で伝えることは難しくて、必ず反省点が残るんです。でも、それが実況の魅力でもあるんです」

そのほか、情報バラエティ番組での司会やラジオのパーソナリティーを務めるなど、アナウンサーとしてまさに順風満帆だった平岩さん。その人生を大きく変える転機が訪れたのは、入社して8年目を迎えようとしていた2018年2月のことだった。子どもの頃からゲームが趣味だった平岩さんは、韓国で行われたeスポーツの国際大会を初めて観戦に行った。

「現場はすごい盛り上がりということは、その1年前くらいから耳にはしていました。でも、実際に見たのがその時初めてで、非常に驚きました。ゲーマーというと、室内でひっそりやっているというイメージがあると思うのですが、そのスタジアムではゲーマーたちがみんな大声で応援したり歓声をあげたりしていたんです。まるで、野球やサッカーのスタジアムのような盛り上がりでした。“ゲームの世界でも、こんなにもエネルギッシュな場がつくれるんだ!”と感動しました。

ゲームがうまいということが多くの人に称賛され、スタジアムの真ん中で輝いているゲーマーを見た時に、こんなにもオープンにできるのっていいなと。日本にも絶対に爆発的な潜在市場があるはずだし、自分が盛り上げていきたいと思いました」

韓国から帰国した翌日、平岩さんは会社に辞表を提出。そこまでことを急いだのには、理由があった。

「絶対に乗り遅れてはいけないと思いましたし、ほかの人に先陣を切られたくないと思ったんです。僕がぐずぐずしている間に、誰か他の人がやってしまうかもしれないと思ったら、もういてもたってもいられませんでした。それこそ飛行機が発つ寸前まで、eスポーツのこととか、会社を辞めるためには何をしなければいけないのかを調べていたのですが、韓国の仁川空港から成田空港に到着するまでの機上の2時間さえも、もったいなく感じていたくらい“早く早く”と思っていましたね(笑)」 18年6月に朝日放送を退職した平岩さんは、すぐに『株式会社ODYSSEY』を設立。個人では限界があると感じ、同じ志を持っている人たちを集めて、一気に市場を拡大したいと考えた。現在は平岩さんのほか、男性5人、女性9人のeスポーツの実況アナウンサーが所属。また、日本初のVチューバ―『御影ヤマト』というeスポーツキャスターも誕生している。

eスポーツアナウンサーとしての道を歩み始めて4年。平岩さんが予想していた以上に市場は拡大の一途をたどっている。

「僕が朝日放送をやめた当初、RAGEをはじめ毎日“eスポーツ”をネットで検索しても1日一つニュースが見つかればいいかなというくらいでした。ところが、今はもう追いきれないくらい毎日さまざまなニュースが配信されています」

もともと日本国内のゲーム市場は広く、需要は高かった。それが近年はゲームをやる時代から、ゲームを見せる時代へと移り変わったことで、より表面化、一般化されてきているのだろう。「eスポーツ」という親しみやすい名称がつけられたことも普及を加速化させている。

現在、平岩さんは日本国内においては「eスポーツアナウンサー」「eスポーツキャスター」という新しい職種の第一人者でもあり、さまざまな大会で実況をおこなっている。RAGEを中心に会社として年間600ほどの配信を請け負っているといい、そのうち平岩さんが担当しているのは約100を数える。(前半終わり)

(プロフィール)
平岩康佑(ひらいわ・こうすけ)
1987年東京都生まれ。2011年朝日放送に入社し、アナウンサーとして高校野球やプロ野球、Jリーグ、箱根駅伝などの実況を担当。2018年6月、eスポーツ専門の会社『株式会社ODYSSEY』を設立。日本最大級のeスポーツ大会RAGEやNPB・コナミ共催eBASEBALLプロリーグで実況を務める傍ら、eスポーツの高校でのプロデュースやイベント運営を手がける。