激戦の2021年F1シーズンは、今週末のハンガリーGPで前半戦を終えてサマーブレイクに入る。 このハンガロリンクでどんな成績を収め、チャンピオンシップのリードを保ったまま後半戦に入ることができるかどうか。それがレッドブル・ホンダとマックス…

 激戦の2021年F1シーズンは、今週末のハンガリーGPで前半戦を終えてサマーブレイクに入る。

 このハンガロリンクでどんな成績を収め、チャンピオンシップのリードを保ったまま後半戦に入ることができるかどうか。それがレッドブル・ホンダとマックス・フェルスタッペンにとって、大きな意味を持つことになる。



現在ドライバーズランキング1位のフェルスタッペン

 シーズン序盤戦は、レッドブルが王者メルセデスAMGに対して優位に立っていた。しかし、ポルティマオ(第3戦ポルトガルGP)やバルセロナ(第4戦スペインGP)といった総合力が問われるサーキットでは、メルセデスAMGが優位に立った。モナコ(第5戦モナコGP)とバクーの市街地サーキット(第6戦アゼルバイジャンGP)ではメルセデスAMGが苦戦し、これまでメルセデスAMGが得意だったポール・リカール(第7戦フランスGP)やシルバーストン(第10戦イギリスGP)ではほぼ互角。レッドブルが得意だったレッドブル・リンク(第8戦シュタイアーマルクGP&第9戦オーストリア)ではその差が広がった。

 サーキットによっては互角、サーキットによっては優位。シーズン中盤戦以降、レッドブル・ホンダはマシンパッケージとして互角かわずかに優位にある。

 大きく回り込むような中速コーナーが多いハンガロリンクは、もともとレッドブルが得意としてきたサーキットだ。2019年にはレッドブル・ホンダとして初めてのポールポジションも獲得している。

 ここでしっかりと勝利を収め、優位を示すことは重要だ。

 それだけではない。2022年の新規定導入に向けて予算配分するため、後半戦にはどのチームも2021年型マシンの開発は終了する。夏休み前のここハンガリーGPのマシンで最後まで戦うか、もしくは夏休み明けのベルギーGPが最後のアップグレードとなる。

 だからこそ、ここでしっかりと優位に立つことがシーズン後半戦に大きくつながるのだ。

「低速サーキットであり、高外気温ということで冷却も厳しくなりそうなので、その点も注意しながら進めていきたいと思います。シルバーストンではいろいろありましたが、夏休み前の前半戦の締めくくりですから、ここまでのいい流れをしっかりと維持して、気持ちのいい形で夏休みを過ごせるような週末にしたいと思っています」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

 前戦イギリスGPでは、フェルスタッペンがルイス・ハミルトンと接触して大きな事故に巻き込まれ、マシンに甚大なダメージを負った。ホンダとしてもパワーユニットをHRD Sakura(栃木県さくら市)とHRD MK(英国ミルトンキーンズ)のファクトリーに送り返し、詳細なチェックと可能なかぎりの部品交換を行なわなければならなかった。

 使用済みパワーユニットは年間3基の規定を管理するため封印が施されており、部品を分解して検査することができない。そのため非破壊検査やファイバースコープでのチェックなど、制約のなかでできる検査を行なってコンポーネントの無事を確認してきた。

「封印を解かなければ見えない部分はありますが、ファイバースコープで覗ける部分は内部まで入念に見ています。クラッシュ後にしばらくエンジンが回っていましたから、その間のデータやその時のオイル分析などからも(パワーユニットのダメージ状況は問題ないと)判断しています。

 継続使用できる可能性は、フィフティーフィフティーより高いと思っています。ただし、あれだけ精密な部品の組み合わせでもありますし、全バラしてチェックしたわけでもありませんから、回してみなければわからないというのも事実です」

 今季2基目のパワーユニットが破損したとなれば、年間3基で23戦を戦うことは難しくなり、一度は最後尾スタートのペナルティを受ける可能性が高くなってしまう。それだけに、まずは継続使用が可能というのは朗報だった。

 チームはシルバーストンでクラッシュしたパワーユニットを再びフェルスタッペン車に搭載し、金曜フリー走行で走らせて最終確認を行なうことにした。そこで問題が発生すれば、今季1基目のパワーユニットに交換し、まずはペナルティなく今週末を戦うことになる。

 フェルスタッペンとしても、ここでしっかりと結果を残すことは重要だ。狙うは言うまでもなく、シルバーストンで掴み損ねた優勝だ。

「結果を変えることはできないから、起きてしまったことには満足していないよ。とくに多くのポイントを失ってしまったことには。それもほかの誰かのせいでね。でも、どうすることもできないし、何を言ってもしょうがない。

 だけど、今の僕らにできるのは、今週末ここでいいレースをすることだけ。気持ちはいつもと同じで、チームとして勝つために戦う。押し出されることなく戦えることを願っているよ」

 レッドブルが要請した再審議は、その要件とされる「新たな証拠」が不充分として却下された。しかし、フェルスタッペンはハミルトンのドライビングや振る舞い、ペナルティについて苦言を呈しながらも、コース上で結果を出すしかないことはわかっている。

 そして、アグレッシブに攻めるスタイルも変えるつもりはないという。

「僕は何も間違ったことはしていないと思っている。僕はアウト側にいて、彼がアンダーステアを出して僕のクルマに接触してきた。僕には、ほかにどうすることもできなかった。

 世間の人たちは僕がアグレッシブすぎたと簡単に言うが、僕はハードにレースをするドライバーではあるけど、自分のマシンをどこに置くべきかはわかっている。事故に巻き込まれたことはないし、ペナルティポイントも0点。そのことが証明していると思う」

 接触すれば、両者ともに失うものがある。「チャンピオンシップを争う」というのはそういうことで、1点1点の積み重ねが重要だからこそ、ノーポイントでレースを終えるのはどんな理由があろうと最も避けなければならない。両者ともにその意識があれば、事故は避けられる。今後コース上でふたりが激しいバトルを演じることはあっても、接触という最悪の結果に終わることはないと信じたい。

 フェルスタッペンもハミルトンも、このハンガロリンクでは"王者に相応しい走り"ができるか否かが試されることになる。

 一方、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)にとっても、決して平坦ではなかったシーズン前半戦を締めくくるレースが必要だ。

「最初の8戦はアップダウンがたくさんあって、ジェットコースターのようなシーズンでした。序盤戦はレースペースに安定感がなかったし、自分の置かれた状況もマシン自体もコントロールできていなかった。そこから安定したラップタイムを刻めるように努力して、ここ3戦は大きなクラッシュもなかったし、安定したポジションでレースができていると思います」

 前のめりになりがちだったアプローチを変えて臨んだレッドブル・リンクでの2戦は安定した走りを見せ、シルバーストンでは60分のフリー走行のみで挑まなければならなかった予選でQ1落ちという不利を被ったものの、粘りの走りで10位入賞を果たした。

 ハンガロリンクは極めて抜きにくいサーキットゆえに、予選順位がこれまで以上に重要になる。同じような環境のモナコではFP2でクラッシュを喫し、予選で全力を出し切れなかった。このハンガロリンクではどこまで戦えるか。

 角田にとっては第8戦以来獲ってきたアプローチの集大成が、このハンガリーGPの予選になる。ここで好結果を出すことができれば、角田にとっては大きな自信になり、夏休みに分析を行なううえでの好材料にもなる。シーズン後半戦の躍進にもつながるだろう。

 それぞれのシーズン後半戦を見据えた今週末のハンガリーGPで、彼らがどのような走りを見せてくれるか。さまざまな思いが交錯するシーズン前半戦最後の週末が始まろうとしている。