北京2008パラリンピック以来のパラリンピック出場となる、車いすバスケットボール女子日本代表。共同キャプテンの一人である藤井郁美は、競技生活の集大成と位置づける東京2020パラリンピックに向けて、いかにチームと自分自身を高めてきたのか。男子…

北京2008パラリンピック以来のパラリンピック出場となる、車いすバスケットボール女子日本代表。共同キャプテンの一人である藤井郁美は、競技生活の集大成と位置づける東京2020パラリンピックに向けて、いかにチームと自分自身を高めてきたのか。

男子チームで磨いた、シュート力という武器

ルーキーとして出場した2006年のオランダ・アムステルダム世界選手権大会は、それまで私がイメージしていた世界とあまりにもレベルが違っていて、衝撃的でした。特にアメリカの選手たちは、ローポインターでもワンハンドでがんがんシュートを打っていたし、そのシュートフォームもかっこよかった。私が、そして日本チームが世界で互角に戦うためには、より高いレベルでの練習環境が必要と思い、帰国後、車いすバスケットボールのクラブチーム「宮城MAX」への移籍を決めました。

宮城MAXは最初から仲間として受け入れてくれて、ありがたかった。さらに試合でも信頼される選手になろうと身に着けたのが、リングから遠いアウトサイドで打つシュートです。まずはアウトサイドでフリーの状態になることが大切なのですが、そのうえで相手が寄せてくる前に素早くシュートを打つことも徹底しました。また、自分はハイポインターなので、リング近くでのプレーも求められます。そこで、車いすをバックさせて、コンタクトをしかけてくる相手から距離を取りつつシュートを打つ「フェイドアウェイシュート」も身に着けました。

レベルアップしたライバル国に日本の成長の鈍さを痛感

ロンドン予選での敗退は悔しすぎて、今でも鮮明に覚えています。あの時は、オーストラリアと中国、そして日本の三つ巴で、最終的には得失点差で私たちだけが敗退してしまったんです。とくに中国にはそれまで負けたことがなかったので、ショックでした。

オーストラリアと中国とは、その4年後のリオ予選で再び相まみえたのですが、両チームとも、ロンドン大会での経験を糧にレベルアップしていました。対して私たちは、4年前と同じバスケットボールで挑んでしまった。完敗を喫しましたが、それも当然だったと思います。ここで何かを変えなければ世界を見てきた国には勝てない。そう痛感させられました。

シュートのバリエーションを増やして武器を確立した

練習時間はおのずと限られます。短時間で効率よく練習するため、シュート練習は、本数をこなすものから確率重視に変更。場所や時間ごとに、打った本数と決めた本数を数えて、決定率を割り出すようにしました。これで一本たりとも無駄にできないと集中できるようになり、練習の質もシュートの安定性も格段に上がりました。北京のころのシュートなんて、今では恥ずかしくて見られません。

「多忙を極める毎日が練習の質を高めることになった」と話してくれた藤井
キャプテンとして

チームスポーツって、どうしても縦の関係が生まれやすい。でも、勝つためには選手一人ひとりが自主的にプレーすることが必須ですし、そのためには年齢や経験に関係なくフラットな関係を作ることが大切だと思っています。だからこそ、以前から選手全員と積極的にコミュミニケーションを図るようにしていたのですが、キャプテンに就任してからは、とくに年下の選手たちに無駄に絡みに行くようにしました(笑)。チーム全体としていいプレーをするためには、選手一人ひとりの良さを引き出す必要があります。そのためにどんな声掛けをすればよいかも、人それぞれ。だからこそ、まずは一人ひとりの性格を知ろうと思ったのです。

選手ミーティングでは、ベンチメンバーや若い選手にも、発言を促すようにしました。とはいえ、強制しないのもポイントで、発言してくれたら、カジュアルな雰囲気を作りながらも、真摯に耳を傾けました。ともすれば、発言に対し、良いか悪いか、〇か×か、となりがちですが、それでは成長がありません。そこで、意見をもとに、どうすればもっと良くなるか皆で考えることを繰り返したところ、今では立場に関係なく、忌憚のない意見を出し合えるチームになっています。雰囲気もすごく良くなりましたし、何よりその雰囲気の良さがコート上に表れていると思います。

一人ひとりと向き合うことで団結して戦うチームを目指した

いよいよ本番が迫ってきました。私たちが掲げているのは、攻守の切り替えが速いトランジションバスケット。スピードで圧倒し、オフェンスとディフェンスの両面で強いプレッシャーをかけるバスケットを40分間出し切れれば、必ず目標のメダル獲得に手が届くはずです。

私個人としては、東京大会は約20年間の競技人生の集大成と位置づけています。今まで身に着けたものをすべて出し切り、チームの勝利に貢献したい。そして、次世代につながる戦いをしたい。本番初日にベストな状態で臨むためにも、あとはコンディションを整えるのみです。

競技人生の集大成として最高のパフォーマンスで表彰台を目指す

text by TEAM A

photo by X-1