「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#14「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。2008年北京、20…

「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#14

「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。2008年北京、2012年ロンドンと五輪2大会に出場した競泳の伊藤華英さんは大会期間中、「オリンピアンのミカタ」として様々なメッセージを届ける。今回は開幕した東京五輪の17日間に期待すること。「女性アスリートと月経」の問題について取り組んでいる女性アスリートならではの想いも明かした。(構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 東京五輪が開幕しました。私は長い期間、大会に関わってきたので、「始まって良かった」が今の率直な気持ちです。

 世界のオリンピック。しかし、日本で開催される五輪の意義は、日本人が見つけていきたい。大変な世の中ですが、海外から選手・メディアが集まり、日本はこういう国なんだと、日本人一人一人が17日間を通してメッセージを持てるといいと思います。

 開催にあたり、サッカー男子代表の吉田麻也選手が大会前の親善試合で「誰のための五輪なのか」などとインタビューで語り、無観客を考え直してほしいと発信したメッセージが印象に残りました。きっと、批判される覚悟があってのこと。

 アスリートはこれまで、周囲からいろんなお膳立てを受け、用意された箱の中でベストを尽くし、結果を出すことが一番とされてきました。

 しかし、時代は変わり、一人一人の個性が重要視される世の中。選手自身が責任感を持って自分の考えを発信する。そうした選手は最近増えています。その大切さが認識され、新たなアスリートのロール(役割)となり、東京五輪の一つのレガシーとして残っていくのではないでしょうか。

 女性として、五輪に感じる変化もあります。2012年ロンドン大会から男女の出場選手が同等の人数になり、今大会の英国代表は女性の方が男性より多くなったという報道も目にしました。

 LGBTQを含め、性の在り方がクローズアップされる世界において、オリンピックやスポーツは社会的な課題の最先端にあると感じます。

 競技の面からすれば、やはり男性が強い。その中で女子スポーツの楽しさが分からないという人もいます。男性より強くないし、速くない。「女性のスポーツの何が面白いのか」という見方もあるのが現実です。

 しかし、五輪はその卓越性だけを求める場所ではありません。精神的にも肉体的にも自分と向き合い、乗り越えてきた選手一人一人の姿を見る場所であってほしい。私自身は男子と女子の競技の区別はなく、同じように感動します。

 ベストを尽くして戦っている姿に性別は関係ない。選手もそれぞれが持つ「自分らしさ」を大切にしてほしいです。

月経と五輪が重なり考えた女性アスリートの体の問題

 今、私は「1252プロジェクト」という教育プログラムを行っています。これは、学生向けに“女性アスリートと生理”ついて発信するもの。もともと、そのきっかけとなったのが、私の五輪の経験でした。

 2008年北京大会、私は競泳の競技期間と月経期間が重なり、大会前に初めて服用したピルが体質に合わず。体重が2~3キロ増え、コンディションを崩してしまいました。この経験が女性アスリート特有のコンディショニングについて考える転機に。

 引退後の2016年リオデジャネイロ五輪では、競泳の中国代表・傅園慧選手が「生理中でいい泳ぎができずにチームメートに謝った」と語ったことがきっかけになって、もう言ってはいけない時代じゃないと感じ、こうした活動をするようになりました。

 女性は月経が月に一度、当たり前のように来る。それが特別とは思ってもいない。その分、問題提起もしづらい背景がありました。しかし、症状は一人一人違う。軽い人も重い人もいる。その中でつらい思いをする選手もいれば、症状にうまく対処できている選手もいる。

 根底にあるのは、いまだに根強い「言っちゃいけない」「我慢しなきゃいけない」という意識であり、この問題を発展させてこなかった原因。つらかったら口に出していいと、伝えていきたい。

 トップアスリートは男性も女性もコンディションを整えることはとても難しい。しかし、女性の場合は月経の要素も関わってきます。今大会も1年延期のために月経周期がずれ、調整が難しくなった選手もいるはずです。

 男性記者が陸上選手にレース後のミックスゾーンで「調子、悪そうですね」と問いかけたら「今日、月経だったんです」と返され、それ以上、何も質問できなくなったという話を聞いたことがあります。

 拒否反応ではなく、受け止める社会になる必要がある。そのためには知識もある程度は必要になる。排卵をして妊娠し、やがて生命を宿すために来る、人間の根源的な現象。若い選手を育てている男性の指導者、保護者の方が少しでも考えるきっかけになればと思います。

 余談ですが、最近の「ママさんアスリート」が増えていますが、「パパさんアスリート」はたくさんいるのに全く言われない。その点は違和感があります。必ずしも「ママさんアスリート」が増えればいいということではなく、出産後も選択肢として競技の道があることが大事だと感じます。

 今でこそ、「女性アスリートと月経」の問題がスポーツ界で注目される一つのトピックになりました。前回の2016年リオデジャネイロ五輪当時とは全く異なる状況。世の中の空気に大きな変化が起きてから迎える初めての五輪です。

 競技で輝く裏で、女性アスリートが難しさと向き合っていることを感じる機会になることを願っています。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)