ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 今週から夏の新潟開催がスタート。7月25日には名物重賞のGIIIアイビスサマーダッシュ(新潟・芝1000m)が行なわれます。 芝の1000m戦、すなわち「千直」はJRAでは新潟競馬場だけで…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今週から夏の新潟開催がスタート。7月25日には名物重賞のGIIIアイビスサマーダッシュ(新潟・芝1000m)が行なわれます。

 芝の1000m戦、すなわち「千直」はJRAでは新潟競馬場だけで行なわれる唯一無二のもの。レースは1分にも満たずに決着し、スピード自慢の競走馬たちが新潟の長い直線を一気に駆け抜けていく様は壮観です。

 そんな独特の舞台で行なわれるアイビスSDを僕も2度(2002年、2004年)、カルストンライトオとのコンビで勝たせていただきました。実は2001年、この千直コースが誕生して初めて行なわれたレースでも僕が勝たせていただきました。それ以降も、千直では何度も勝ち星を挙げることができ、思い入れのあるレースであり、コースでもあります。

 そうした経験のある立場から、千直コースについての解説をさせていただきます。

 第一に、ゲートやテンのスピードは重要です。陸上の100m走に近いものがあって、本当に速い馬であれば、そのスピードだけで押し切ることも可能です。ゆえに、直線を駆け抜ける適性とその力を備えた馬であれば、騎手にとっては非常に競馬がしやすいです。

 ただし、競走馬が1000mをフルスロットルで走り抜くことは容易ではありません。ましてや、コースは完全なる平坦ではなく、スタートからゴールまで緩い上り坂や下り坂が続いています。

 そのため、最後の1ハロンのラップは概ね落ち込みます。勝ち負けを演じるには、そこでどれだけ粘れるか。最後のひと伸びが求められます。

 よって、千直レースに臨む際は、僕も早めにゴーサインを出さないことを心がけていました。騎手の心理としては、むしろ我慢が必要なくらい。道中で馬にしっかりと息を入れさせることは必須です。

 今でこそ、誰もがコースに慣れて、近年では「千直巧者」と称されるジョッキーも出てきましたが、コースが設けられた当初は、条件戦などでは早仕掛けをするジョッキーがたくさんいました。その結果、取りこぼしてしまうことも......。それだけ、ジョッキーの駆け引きも重要な要素です。

 さて、今年のレースですが、オールアットワンス(牝3歳)を有力視したいと思います。

 千直では、競走馬のスピードと騎手の操縦が重要としましたが、もうひとつ重要ポイントを挙げるとすれば、斤量です。オールアットワンスは3歳牝馬で、斤量51kgの軽量で出走できます。他馬と斤量差を考えると、とても大きなアドバンテージとなります。

 前走の重賞・葵S(5月29日/中京・芝1200m)でも、ハイペースのなか先行して最後までしぶとく粘り込んで3着と奮闘。あの流れに対応できたことを考えれば、千直の競馬にも対応できるでしょう。

 この斤量ゆえ、騎乗できるジョッキーの選択肢は限られたと思いますが、鞍上に決まったのが石川裕紀人騎手であれば問題ありません。昨年以上のペースで勝ち星を重ねていますし、今年でデビュー8年目と、千直でのキャリアも十分に積んでいますからね。

 加えて、オールアットワンスを管理する中舘英二調教師は、ジョッキー時代に新潟での実績が豊富な騎手でした。どんな馬なら千直に合うのかも見極められるはずです。今回、オールアットワンスを千直に挑戦させるのも、その適性を感じているからこそ、でしょう。

 翻(ひるがえ)って、過去2年このレースで連対(2019年=1着、2020年=2着)を果たしているライオンボス(牡6歳)はメンバー中、最重量となる斤量57kgを背負います。その斤量と、前走のオープン特別・韋駄天S(5月23日/新潟・芝1000m)での惨敗(9着)を踏まえると、割り引きが必要と考えています。

 ところで、今回の穴馬は"外枠"の馬と見ています。

 千直では、やはり外枠が有利だからです。なぜ外枠が有利かと言えば、馬がラチ沿いを辿って走ることができるから。外目の馬場コンディションがいいこともあるのですが、最後に苦しくなった時、馬にとってはラチが傍にあるほうが走りやすいのです。これは、何度も騎乗して実感しました。

 また、千直のスタート地点は4コーナーのポケットとなりますが、コーナーからの合流地点となる直線の内ラチ側に比べて、外ラチ側のほうが若干高くなっていて、外にいるほうが周りを見渡しやすいのです。そういった点も、少なからず有利に働いているのかもしれません。



アイビスSDでの大駆けが期待されるビリーバー

 そこで、今回の「ヒモ穴馬」には外枠(7枠13番)に入ったビリーバー(牝6歳)を指名したいと思います。

 同舞台で行なわれた2走前の韋駄天Sでは1枠(2番)に入って7着に敗れましたが、今回は絶好枠を引き当てました。オープンに昇級してから最も着順がよかったのが、昨年のアイビスSDでの3着。先行力もありますし、巻き返しが大いに期待できます。