北の大地で駒大勢が勢いを見せた。 ホクレンDC網走大会5000mでは、鈴木芽吹(2年)が13分27秒83を記録し、自己ベスト更新と駒大記録を打ち出した。20秒台の日本トップクラスのタイムで、出場選手の度肝を抜いた。唐澤拓海(2年)も同レー…
北の大地で駒大勢が勢いを見せた。
ホクレンDC網走大会5000mでは、鈴木芽吹(2年)が13分27秒83を記録し、自己ベスト更新と駒大記録を打ち出した。20秒台の日本トップクラスのタイムで、出場選手の度肝を抜いた。唐澤拓海(2年)も同レースで13分32秒58と自己ベストを更新した。
つづく千歳大会の5000mでは鈴木が欠場したが、エースの田澤廉(3年)と唐澤が出場した。
駒大主将・田澤廉はチーム状況を冷静に分析する
唐澤は、序盤から田澤のうしろについて、いいペースでレースを展開した。最初の1000mのラップは2分42秒、外国人選手についていき、表情にも余裕が見えた。だが、3000mを8分06秒で通過すると、徐々に先頭集団から唐澤が遅れ出した。
一方、田澤は、遠藤日向(住友電工)ともに先頭集団でレースを展開した。
しかし、ラスト、遠藤についていけず、田澤は13分29秒91の4位でフィッシュ。力を出し切ったのか、トラックにそのまま座り込み、荒くなった呼吸を整えていた。
「今日はペースメーカーがついて13分30秒ぐらいで走ると言われていたんですけど、自分はペースメーカーを気にせず、20秒前半を狙っていました。前半ゆっくりだったんですけど、後半一気にペースを上げられて体が対応できなかった。3000mからキツくて、スピード持久力が足りなかったです」
そう語る田澤は、悔しさを全身から発していた。
唐澤は、13分47秒12の14位に終わった。
「網走大会で20秒台に乗せらなかったので、今回の千歳大会では20秒台で芽吹を越えるタイムを出そうと思ったんです。でも、3000mぐらいからキツくなってしまい、そこからついていくだけで精一杯でした。後半の2000mは粘れず、ベストも出ず、タイムも47秒台だったので自分の中ではいいレースではなかったです」
唐澤は、悔しそうな表情を浮かべた。
千歳大会では同期の鈴木に並ぶ20秒台を出せなかったが、トラックシーズンの活躍は見事だった。関東インカレの5000mでは13分53秒11で3位(日本人トップ)、10000mでも28分05秒76で3位(日本人トップ)に入り、ひとり気を吐いた。7月には網走の5000mで自己ベストを更新し、力があることを証明、充実したトラックシーズンを過ごした。
「最後、しっかりと20秒台で終わらせたかったんですけど、トータルでいうと今年のトラックシーズンは1年目よりも成長できたと思います。レースでも記録会でも日本人に勝つという意識でレースに臨んできましたし、それは昨年よりも出来ています。でも、一番、良くなったのはスタミナですね。1年の時はスタミナがなくて得意のラストスパートが効かなかったんですけど、2年目の今年はスタミナがついて、レースの展開に余裕が出て、しっかりとラストスパートを上げられるようになりました」
スタミナをつけるために、唐澤はシーズン前からかなりの距離を踏んでいた。80分ジョグで17キロ前後を走り、3月は月間900キロに及んだ。4月、5月はレースが増えたので調整もあり、少し減ったが6月、7月はまた月間900キロを越えた。合宿期間であれば900キロから1000キロを走る選手はいるが、平時に900キロを越える選手はなかなかいない。
「そのおかげで、力はついてきたと思います。みんなに負けられないんで」
唐澤がいう「みんな」とは、主に同期の2年生を指す。唐澤を始め、鈴木、さらに花尾恭輔、白鳥哲汰、青柿響、赤津勇進、安原太陽と駒大の2年生は力のあるランナーが目白押しで「最強」と言われている。花尾は、関東インカレのハーフマラソンで62分で2位になり、赤津は網走の5000mで13分52秒13と自己ベストを更新した。昨年は鈴木が同級生で一人勝ちしていたが、今年は関東インカレ5000mで唐澤が鈴木に競り勝つなど、高いレベルで競い合っている。「仲間として心強いし、競い合う環境は自分たちにとって最高です」と唐澤は、自分たちの世代に手応えを感じている。
「僕らの代は、強いと周囲から言われているので、自分も負けないようにと思いますし、みんなも意識していると思います。1年目、同期は3名、箱根駅伝を走って、僕は走らずに優勝したので来年は自分が走って優勝するのが目標です。昨年は下りが向いているということで6区が希望でしたが、今年は力がついてきたので平地区間の3区か4区を走れればと思っています」
唐澤は箱根の往路で十分走れるだけの力がついてきており、来年の箱根はもしかすると2年生が主役になるかもしれない。それくらい平均値が高く、2年生の力がついてきたことでチーム内に大きな変化が起きている。関東インカレが終わった後、鈴木は「チームの基準が上った」と語った。
「今年は、Bチームが昨年のAチームぐらいのタイムで練習しています。自分はAチームや田澤さんと一緒に練習をしているんですけど、本当にレベルが高くて、最近はポイント練習でも余裕がなくて。チームのレベルが上がっているのは間違いないですね」
3月に卒業した選手は力のある選手が多かったが、箱根駅伝に4年生で出場したのは小林歩だけだった。多くの箱根経験者を保持し、今シーズン、2年生の主力組の唐澤も鈴木や田澤とともに練習している。Aチーム、Bチームともに練習の質が上がったことでチームレベルがかなり上がり、選手層が厚くなったことを唐澤は実感している。
だが、主将である田澤の見方はちょっと厳しい。
「チームとしては今、自分と鈴木と唐澤が抜けていますが、問題はその下ですね。上の世代を始め、中堅の選手が自分が走るんだという自覚を持たないと強くなれない。駅伝で勝つためには、その中堅層の走りが重要になってくるので、夏合宿ではそういう選手を意識して、声を掛けていきたいと思います」
ただ、唐澤や鈴木ら2年生の勢いは、田澤も感じている。
「確かに今の2年生は、強いと思います。力もついてきていますが、そういう選手に自分が負けることは許されない」
田澤は、今回、1年ぶりに5000mを走った。自己ベストを更新したが、「1年ぶりなので当たり前」と語り、笑みをまったく見せなかった。大学トップランナーとしてのプライドがあるだろうし、3年生は下級生に、どんなレースにも負けられない意地もある。田澤の負けん気の強さが、こんなところから見て取れる。
「今回のレースは悔しさしかないです。芽吹のタイム(13分27秒83)を気にして、20秒とか狙って走ったんですけど、キツくて......スピードが足りなかったなと思います。最近自分が納得できるレースがないので、走り込んで秋のレースに臨みたいと思っています」
この千歳大会でトラックシーズンは終わりになる。上半期は、田澤にとって、どんなシーズンだったのだろうか。
「10000mは、自分が思っていたぐらいかなぁという感じです」
5月、日本選手権男子10000mで27分39秒21で2位になり、自己ベストを更新。学生記録(27分38秒31)を目指したが、1秒足りず、本人曰く「情けない走り」をした。だが、6月のデンカチャレンジカップの10000mでは27分52秒52で優勝し、タイムだけではなく、勝てる選手であることを証明した。
「5000mは、シーズン前は13分30秒ぐらいだと思っていたんですけど、それを今回、達成できたのは嬉しいです。でも、それ以上に芽吹が走ったので、そのタイムを目標にして走ったんですけど、負けたのでダメかなという感じですね」
田澤の口からは悔しさしか出てこないが、それが「田澤らしさ」でもある。5000mは1年ぶりのレースということで、もう少し練習していれば違った結果が出たという思いも強い。
「やっぱり2年に負けられないので、5000mをやるなら5000mにそった練習をするとか、ちょっと考えて練習をやっていきたいですね。そうして目先の目標をクリアしていくと将来いざという時に結果が出てくると思うんで」
故障もあり、日本選手権には出場できず、東京五輪の夢は消えたが、個人としては上半期、5000mも10000mも自己ベストを更新した。成長に対する個人の満足度は低いかもしれないが、田澤の向上心や意識の高さがチームに好影響を与えているのは間違いない。2年生が育ってきたのは、田澤と質の高い練習をこなすことで力がついてきたからだ。そうして地力をつけてきた選手が田澤をも上回ったことは、チームに、田澤に良い刺激を与えている。
レースや記録会で結果を出してきた駒大は、いよいよ夏合宿に入っていく。
「今年は駅伝3冠を掲げているので、その達成に向けて夏合宿は練習に励み、目標を達成できるようにチーム一丸となってやっていきたい」
夏から主将としての仕事が増していくだろう。最強の2年生とともに田澤がどうチームを導いていくのか。
駒大の夏は、例年になく熱く、厳しい夏になりそうだ。