医師免許を有しながら、国内の400mハードルで国内トップクラスの力を誇る真野悠太郎選手。東京オリンピック出場は逃したものの24歳で将来を期待されている選手だが、今季限りで現役を引退し医療の道に進むことになった。 そんな真野選手は2020年1…
医師免許を有しながら、国内の400mハードルで国内トップクラスの力を誇る真野悠太郎選手。東京オリンピック出場は逃したものの24歳で将来を期待されている選手だが、今季限りで現役を引退し医療の道に進むことになった。
そんな真野選手は2020年10月に勝見雅宏ヘッドコーチが立ち上げた陸上クラブ「名古屋ストライダーズTC」に所属し、今シーズンは様々なサポートを受けながら競技に専念していた。
そして真野選手がオリンピックに出場するために、今年に入ってクラウドファンディングを実施。支援者の1人、河田正生氏はストライダーズ、勝見ヘッドコーチに影響を受けた人物である。
陸上未経験だからこそ 前のめりで学ぶ姿勢を貫く
現在、鮮魚仲卸業を営む河田商店の代表を務める傍ら、名古屋市内で活動する大須ACで中学生短距離チームを指導している河田氏だが、陸上競技との出会いは意外なものだった。
「陸上との出会いは高校生になった娘です。幼少期からたまたま足が早く、陸上クラブで習わせてみようというのがきっかけ。学生時代は野球と空手をしていたので、陸上とは無縁です」と河田氏。最初は子どもを応援するだけだったが、次第に陸上の奥深さに魅了され、指導をするまでになったのである。
経験がものを言う陸上を未経験者が教えるということは非常に難しい。ただ河田氏は経験がないからこそ独自の視点で指導に当たっている。
「全く畑違いの競技を教えているので、傍から見たら『そんなことはできない』と思っている方はいました。でもそのことによって、もっと陸上を勉強するようになりました。実際に中学や高校の練習に参加させていただき学んだことを子どもたちに教えていましたが、一番影響を受けたのは勝見先生が行っていた陸上教室。そこで1から10まで教えていただきました。見て覚えて、自分でやってみて納得できる形で子どもたちに伝えられているのかなと思います」と学んだことを自ら実践することで理解し、分かりやすくアウトプット指導を行っていった。
身体の動かし方や筋力、角度など細かな動作一つで記録が大きく変わる陸上競技。特に0.01秒を争う短距離において、陸上未経験ながら多くの選手の記録向上に貢献した。例え中学で芽が出なくても、高校や大学で花が開くように基本や陸上の楽しさを伝えることを徹底しており、今年も教え子が高校の東海大会に出場している。
様々な指導法の中正解を見出していく
陸上に関わって10数年。以前は「テレビで見るくらいだった」ものが、「陸上にどっぷり浸かっています」と現在は生活の一部になるほど身近な存在だ。
こうした過程の中で、陸上に対する価値観も大きく変わった。「子どもを応援するものから指導するものに変わりました。陸上は口で言って簡単にできるものではありませんし、経験者は身体で覚えてきたことが絶対的にあると思います。その中で指導をすることは責任が重たいなと感じますが、勝見先生に相談をすると『指導方法はどれも正解だよ』と言われることに新鮮さがあり、そうした積み重ねが今の指導方法につながっていると思います」と河田氏は振り返る。
当然その中でやりがいを感じることは多く、先述したように教え子が東海大会に出場したり、タイムが上がったりと成功体験が増えていくことで「『指導が正しかったよ』と言われているような気がします」と河田氏。結果が出た本人と同様に、指導の喜びも感じているのである。
河田氏は陸上を「いろいろな気持ち、感情がわき上がるスポーツです」と語る。努力の成果が数字に現れる短距離だからこそ記録に対しての一喜一憂を感じやすく、競技者本人、支える保護者や指導者それぞれのドラマがあるのだ。
文武両道を徹底する真野選手に惹かれ、サポートを始める
こうして指導力を蓄えてきた河田氏が「一番の先生です」と指導を仰いでいるのが、ストライダーズ代表の勝見ヘッドコーチである。
様々な形で陸上の育成と普及に励み、学生時代からの教え子である真野選手のオリンピック出場に向け、環境を整備するために団体を発足。誰もが知っているナショナル企業が自社で選手を獲得し、サポートをしていくのが一般的な国内の陸上競技において、ストライダーズではスポンサー企業や個人の支援者を募りながら真野選手の活動をサポートしたり、イベントを開催したりしている。
河田氏も支援者の一人で、真野選手がオリンピックを目指す姿勢に惹かれたという。
「ある競技場での練習の際、ストライダーズ発足前に勝見先生から真野選手のことを聞きすごく興味を持ちました。最近では元ラグビー日本代表の福岡堅樹選手が医師を目指しながらアスリートとして競技を続けていましたが、真野選手は医師免許を持ちながらオリンピックを目指していました。オリンピックに行ける可能性がある身近な選手を応援したいと思いました」とできる範囲でのサポートを実施した。
その一つが5月にストライダーズが主催したクラウドファンディング。河田氏も支援し、目標の100万円を超える135万円が集まった。
真野選手はオリンピック予選を兼ねた6月の日本陸上選手権で敗れ、残念ながらオリンピック出場は叶わなかったが、「今後もできることはバックアップして、活動の応援をしたいと思います」と河田氏は意気込んでいる。
河田氏自身は大須ACで指導をしているが、新型コロナウイルスがいまだ猛威を奮う中、対策を講じてストライダーズが実施する競技会やイベントには積極的に足を運んでいる。
「一クラブチームとして、活動の内容としてはプロになっていくような方々の集まり。大きな団体になっていくのかなと思っています」と河田氏はストライダーズの今後を見据えている。
そして今後も指導者として、陸上の魅力を伝えるために奥深さを追求していく。「高校、大学で花が開くような選手を育てていきたい。それが僕の役目かなと思います」と河田氏の陸上に対する愛情が尽きることはない。