F1第8戦シュタイアーマルクGPは、今シーズン随一のつまらないレースになった。 予選ではレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが0.2秒差でポールポジションを獲得し、決勝でも2位ルイス・ハミルトンに先にピットインされても翌周入れば…

 F1第8戦シュタイアーマルクGPは、今シーズン随一のつまらないレースになった。

 予選ではレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが0.2秒差でポールポジションを獲得し、決勝でも2位ルイス・ハミルトンに先にピットインされても翌周入れば首位を守ることができるギャップを維持し続け、残り25周の時点でハミルトンも追撃をあきらめた。

「今日のクルマは本当に最高に走りやすかったよ。いつもこんなふうに行くわけじゃないけど、ピットストップをしてハードタイヤに履き替えてからのスティントは、正直言って走っていて本当に楽しかった。タイヤをいたわりながらもペースはすごくよかったし、去年までの僕らとは違ったね」

 フェルスタッペンの独走で、極めて退屈なレースになった。



フェルスタッペンはレッドブルの地元で4連勝を達成

 これまでは、レッドブル・ホンダが速さを見せれば、王者メルセデスAMGと大接戦のエキサイティングなレースとなった。それが今季、どれも最高に面白かった理由だ。

 しかし今回は、レッドブル・ホンダの圧勝だった。ついにレッドブル・ホンダはメルセデスAMGのように、速すぎて、強すぎて、レースをつまらなくするほどの境地に到達した。つまらないレースというのは、この世界では「最高の褒め言葉」だ。

 クリスチャン・ホーナー代表も、観衆を退屈させるほどライバルを圧倒するレースにご満悦だった。

「今日は完璧なパフォーマンスだった。ルイス(・ハミルトン)のタイヤがタレていったのがわかって、我々も彼らが2回目のピットストップを仕掛けてくるかもしれないと意識していた。だが、彼が何を仕掛けてきたとしてもすぐにカバーできるだけのギャップを十分に作ることができたから、今日はマックスが完璧にレースをコントロールした。

 まさに極上の技だったよ。メルセデスAMGに対して今季、これまでで最も圧倒的なレースだった。これは非常に自信を与えてくれるよ」

 前戦フランスGPでメルセデスAMGは劇的な戦略バトルを繰り広げた。だが、このシュタイアーマルクGPではどんな戦略を駆使しようとも、メルセデスAMGに逆転の目はなかった。レッドブル・ホンダのマシンパッケージが圧倒的な速さを発揮していたからだ。

 メルセデスAMGのタイヤにブリスターが発生するなど、彼らのほうが厳しかった。一方、レッドブル・ホンダは速さがあったからこそ、タイヤにも優しくすることができた。

「純粋な速さがあれば、それだけ余裕を持ってタイヤをいたわりながら走ることもできる。このタイヤはスライドしたりロックアップしたことに対して、ものすごくセンシティブですぐにオーバーヒートしてしまうからね」(フェルスタッペン)

 1週間後には再び、この同じレッドブル・リンクでオーストリアGPが行なわれる。当然ながら、レッドブル・ホンダは圧倒的な速さで勝つことが期待され、そうなればチャンピオンシップ争いを大きくリードすることになる。

 しかし、レッドブル・ホンダ陣営に慢心はなく、この速さがどのサーキットでも続くとは考えていない。

「F1マシンには驚くほどセンシティブな箇所がいくつもあって、それがこれ以上ないというくらい完璧になることはない。すべてのサーキットは異なるものだし、今週末だって大差で勝って完璧なレースに見えたかもしれないけど、完璧ということはないんだ。

 だから、あらゆるディテールに目を向けて、さらによくできる箇所を探す。違うサーキットに行けば、また今日みたいになるとは限らない。だから、自分たちがやるべき仕事に集中し続けなければならない。戦いに終わりはないんだ」(フェルスタッペン)

 一方、角田裕毅は「ミスを犯すことなく週末を過ごす」というシュタイアーマルクGPに課されていた課題をクリアした。予選ではQ3に進んで8位に入り、決勝では10位でフィニッシュした。

 予選中のアタック妨害に対する3グリッド降格ペナルティは、レースエンジニアからの情報伝達不足によるところが大きかった。ただ、どんな事情であれ、他車を妨害した場合には3グリッド降格が科される。今のF1はチーム全員の力でクルマを速く走らせ、ドライバーもその中のドライビングという役割を担うチームの一員だ。だから、3グリッド降格のペナルティはチーム全員で負うことになる。



「ミスのない週末を過ごす」課題はクリアした角田裕毅だが...

 とはいえ、11番グリッドに下がったことはフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)やランス・ストロール(アストンマーティン)、ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)の後方でレースをすることを意味し、角田にとっては忍耐のレースになった。

 先にピットストップをしてアンダーカットを狙ったもののうまくいかず、レース後半もアロンソのテールを見続ける展開になった。

 チームはミディアムタイヤのまま引っ張るカルロス・サインツ(フェラーリ)に抜かれまいとプッシュを指示したが、前のアロンソに抑え込まれるかたちでペースは上げられず、タイヤだけが消耗していく。そしてピットアウトしてきたサインツには前に行かれ、1周目のピットストップから追い上げてきたシャルル・ルクレール(フェラーリ)にも抜かれた。

「タイヤがもうない! アロンソがいて速く走れないのに無駄にプッシュしただけ! 無線には答えなくていい!」

 レースはまだ15周も残っていたが、角田は怒りを爆発させてエンジニアに言った。

 リアタイヤはタレて低速コーナー立ち上がりのトラクションが乏しくなり、中高速コーナーでアンダーステアが出るなどフロントタイヤも決してよくはない。

 さすがにひとりではレースができないと悟った角田は、5周ほどしてエンジニアに情報を求めた。待ち受けていたようにエンジニアはデフやブレーキバランスの設定、オーバーテイクボタンの使い方などを次々と伝えた。

「アロンソを抜けると思う!」

 角田はそう言ったものの、アロンソも巧みにペースを切り替えて0.657秒差で抑えきった。

 ミスなく3日間を戦い抜いた点は合格点。しかし、だからこそ決勝でのタイヤマネジメントやカギとなる場面でのプッシュについての課題が見え、そして予選での不用意なペナルティがレースに与える影響の大きさにも気づかされた。

「今週は(予選の)3グリッド降格ペナルティ以外はミスがありませんでしたし、先週に比べていいステップになったと思います。でも、可能性としては8位か9位でフィニッシュするチャンスはあったと思います。いくつか無線コミュニケーションで誤解があり、そのせいでレース終盤が苦しくなってしまったので、これからデータなどを分析して来週に向けて改善していかなければならないと思います」

 チェッカードフラッグを受けた直後は、「やれるだけのことはやったよ」というエンジニアからの無線に「いや、もっとやれたと思う。バカみたいにプッシュしなければ簡単に抜けたはずだ」と角田は言った。だが、レースの全体像はエンジニアのほうがよく見えている。プッシュをしてサインツの前にとどまること、もしくはあそこでアロンソやストロールを抜くことができていれば、角田のレースはもっと違ったものになっていた。

 タイヤの状況が誰よりもわかっているのは、もちろんコクピットにいるドライバー自身だ。だからこそそれをチームに伝え、正しい戦略判断を下してもらうよう最大限のフィードバックをしなければならない。

「タイヤのフィードバックを十分にチームに伝えられていなかったと思います。そのせいで僕の置かれた状況をチームが把握できていなくて、僕に対してもっとプッシュしろと急かすような状況でした。それで僕はスティントの序盤にタイヤを使いすぎてしまって、最後に2台のマシンを抜くのに十分なタイヤの余力が残されていなかったんです。

 もし、僕が毎ラップのようにタイヤの状況をフィードバックできていれば、チームは状況をもっと正確に把握することができた。もしかしたら別の戦い方を選んでいたかもしれませんし、(アロンソとストロールを抜いて)8位でフィニッシュできていたかもしれません」

 レースはひとりでやっているわけではない。ドライバーひとりのためにやっているわけでもない。チーム全員の力を合わせなければ、勝つことはできない。

 レース週末3日間をミスなく走り切ったからこそ、こういう課題が見えてきた。

 そういう意味では、角田とアルファタウリ・ホンダにとっては間違いなく大きな一歩だった。本当ならばもっと早く、踏み進んでいなければいけなかった一歩だったかもしれない。

 しかし今なら、まだ挽回は可能だ。ここから角田が急激に成長していく姿が見たい。