「THE ANSWER スペシャリスト論」フィギュアスケート・中野友加里 スポーツ界を代表する元アスリートらを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る「THE ANSWER」の…

「THE ANSWER スペシャリスト論」フィギュアスケート・中野友加里

 スポーツ界を代表する元アスリートらを「スペシャリスト」とし、競技の第一線を知るからこその独自の視点でスポーツにまつわるさまざまなテーマで語る「THE ANSWER」の連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。フィギュアスケートの中野友加里さんがスペシャリストの一人を務め、自身のキャリア、フィギュアスケート界などの話題を定期連載で発信する。

 今回のテーマは「フィギュアスケート選手のダイエット」後編。体重管理が厳しい競技として知られるフィギュアスケート。選手たちはどのようにしてコントロールしているのか。後編では、中野さんが自身の経験をもとに現役世代に向け、ダイエットについてアドバイスを送り、過度な減量についても警鐘を鳴らした。(聞き手=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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――前編は中野さんが実践したダイエット法を中心にお聞きしました。女性の体は繊細で、特に慎重な管理が求められると思いますが、ダイエットはアスリートでなくとも真偽不明の情報が出回っています。その辺りは自分で心がけていたり、アドバイスをくれたりする人はいましたか?

「正直、なかったです。今考えてみると良くないのですが、ただひたすら痩せればいいと目の前の体重に一喜一憂していました。コーチたちは『体力がつかないから、食べなきゃダメだ』『もっと肉をつけないといけない』と言ってくれるのですが、痩せすぎても露出の多いフィギュアスケートでは魅力のない体になってしまいます。私なりに自己流で痩せ方を掴み、コンディションを整えて行きました」

――今の女子選手たちも減量に気を配りながら競技に取り組んでいます。健康と競技力をともに保つのは難しい競技ですが、どうすれば両立が可能になると思いますか?

「今はもう私は痩せなくてもいいので気が楽になったのですが、それでもどこかで昔の自分を思い出してコントロールしてしまうんです。1日にこれだけ食べたら増えると体に染み込んでいます。そんな風にコントロールできた状態で、時には自分の好きな物を食べてリフレッシュでき、ストレスを溜めない体重管理が理想だと思います。例えば、普通に食べていい量のうち、ちょっとだけチョコレートを食べる。でも、残りで栄養を考えて物を食べる。甘い物は太るからとすべてダメと考えるのではなく、自分でトータルの量を決めて調整するのは一つの手だと思います」

――中野さんの話で大切に感じるのは「自分の体を知る」ということですね。どの競技においても、どれだけ食べたら太る、痩せると把握していくことは、コンディション管理をする上でも欠かせないことです。

「その通りだと思います。今、言ったことは私が長年ダイエットをやってきた中で分かったことです。引退後に2人の子供を出産した後は痩せるのがすごく大変だったのですが、そういう時もスケート時代のダイエットが役に立つこともありましたね」

中野さんが健康を守って競技をできた秘訣は「大会後は食べたいだけ食べた」

――一方で、体重コントロールを意識するあまり、食べることが怖くなってしまうということもあります。

「私は幸いにも健康は守りながら競技生活を送れたと思いますが、なかには摂食障害を抱えていた選手を何人も見てきました。バレエや新体操も同じように、それが隣り合わせのスポーツ。私自身は長くスケートに携わり、後遺症というほどではないですが、太ることの怖さと体重管理の意識はあります。みんな、職業病のように残っているかもしれません」

――アスリートは“どう自分を律するか”と同じくらい“どう自分を許してあげられるか”も、とても大切だと思います。フィギュアスケートの場合は特に体重管理。中野さんは健康を守りながら競技生活を送れた理由はどう考えていますか?

「試合が終わったら、ご褒美として自分の好きな物を食べたいだけ食べたことは一つ挙げられるかもしれません。食べた後はもちろん、体重が増え、体型も変わりましたが、疲れているので甘い物が欲しくなるし、大会後だけは体重のことは忘れ、自分を勝手に許していました。そういう日を作るのがすごく大事だと思います。

 衣装も少し太っただけで着られなくなるくらいぴったりしているので、ファスナーが上がらなくてキツいと感じた時は焦りました(笑)。でも、それがシーズン中に当たらないようにオフシーズンに特に気をつけていました。あと、私の場合は体重計に毎日乗ること。それがバロメーターになり、今も体重計は毎日乗っています」

――中野さんの場合は上手にメンタルの切り替えできていたということでしょうか。

「上手だったかはわからないですが、それでも現役を辞める最後の瞬間まで体重制限にはとらわれて苦労はしましたし、すごく大変でした。もちろん、アスリートとして精神のバランスを保つ緊張感も苦労はありましたが、選手を辞めた時にまず『もう、これでダイエットしなくていいんだ』と思って、一気に気が抜けました」

――スポーツ界全体で見ると、最近は無月経や疲労骨折など、女性アスリートの健康問題を発信される人が増えました。中野さんもフジテレビのスポーツ記者時代にさまざまな競技を取材され、間近で感じたと思いますが、そうした空気をどう感じていますか?

「フィギュアスケートに関しても、これだけ厳しいダイエットを強いられていると無月経になっても仕方ないと感じます。ただ、あまりにも過度なダイエットをすると、骨粗しょう症をはじめ、捻挫をしやすくなったり、パワーが出なくて普段は転ばないようなところで転び、怪我をしてしまったり。そういうケースも増えると思うので、どんな競技でも決して“やりすぎ”はすべきではないと思います」

最近の日本人選手に感じる変化「良い体つきで大会に臨んでいる」

――今の若い選手たちも気をつけて競技をしなければいけません。

「最近の日本人選手は細すぎると感じる選手は昔ほど多くなく、皆さん選手として良い体つきで大会に臨んでいる、自分自身をよくコントロールされていると、感心しています。それは食べる物から栄養を摂取し、体を作ることもそうですが、陸上トレーニングの方法が私の時代からは変わってきているので、筋肉の付け方もよく学んでいると思います。

 その結果、しなやかな良い筋肉をつけながら、高度な技術を生み出すところに繋がっていると、私は考えています。紀平梨花選手にはそれを最も感じますね。自分にとってベストの体重と筋肉量に近づけながらトレーニングしていく、あるいは自分なりに学んでコントロール方法を編み出していくという点は、最近の選手は長けているなと思っています」

――中野さんが引退して10年あまりですが、その間で変化があったのでしょうか。

「そう思います。私の頃は栄養面などをサポートしてくれる方が身近にいなかったので、我流でやっていました。トレーナーの先生も海外についてくることもあまりありません。そういうことが今は当たり前の時代になり、選手にとって良いサポートを受けて大会に臨めるようになりました」

――フィギュアスケートを巡っては、メディアは4回転などの高難度のジャンプに注目しがちですが、それによって選手がプレッシャーを感じることがあると思います。中野さんも引退後はメディアの立場を経験しましたが、どう考えますか?

「私は、そういう部分に注目してくれるんだと思って、プラスに捉えることができたらと思っています。やっぱり誰もが見たいのは難しいジャンプ。それが3回転半か、4回転か、あるいは4回転半という時代になってきますが、新しいものを見たいがゆえにチャレンジを期待し、報道されると思います。私はちょうどマイナースポーツからメジャースポーツに駆け上がっていく時代でした。

 なので、それほどメディアも過剰ではなく、私はトリプルアクセルよりスピンの方が注目されたので、その点は良かったと思いますが、3回転半に挑み続けた浅田真央選手や4回転ジャンプを跳んでいた安藤美姫選手は大変だったと思います。ただ、一方で選手たちはジャンプ以外の技術も磨いています。その部分が、観客、審判、そして応援してくださるファンの方にも届いてくれるとうれしいなと私は思います」

■中野友加里/THE ANSWERスペシャリスト

 1985年生まれ。愛知県出身。3歳からスケートを始める。現役時代は女子選手として史上3人目の3回転アクセル成功。スピンを得意として国際的に高い評価を受け「世界一のドーナツスピン」とも言われた。05年NHK杯優勝、GPファイナル3位、08年世界選手権4位。全日本選手権は表彰台を3度経験。10年に引退後、フジテレビに入社。スポーツ番組のディレクターとして数々の競技を取材し、19年3月に退社。現在は講演活動を務めるほか、審判員としても活動。15年に結婚し、2児の母。自身のYouTubeチャンネル「フィギュアスケーター中野友加里チャンネル」を開設し、人気を集めている。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)