箱根駅伝の前哨戦ともいえる全日本大学駅伝への出場権をかけた関東地区の推薦校選考会。参加は20校。レースは10000mに1組2名ずつが出走し、4組8名の合計タイムで順位が決まる。 昨年のレースで出場権を得られなかった強豪校が集うなか、今シー…

 箱根駅伝の前哨戦ともいえる全日本大学駅伝への出場権をかけた関東地区の推薦校選考会。参加は20校。レースは10000mに1組2名ずつが出走し、4組8名の合計タイムで順位が決まる。

 昨年のレースで出場権を得られなかった強豪校が集うなか、今シーズン好調を維持し、9年連続で全日本大学駅伝出場を決めたのが中央学院大だ。



昨年の全日本大学駅伝にも出走した中央学院大のエース・栗原啓吾

 1組目、中央学院大は松島匠(3年)、伊藤秀虎(ひでとら/2年)が出走した。

 レースは国学院大の中西大翔(3年)が飛び出し、そのまま独走。第2集団が大きな塊となるなか、松島と伊藤は冷静にレースを進めていく。

 松島は「前夜、レースをイメージしていたら緊張して......ちょっと怖くなりました」と語っていたが、落ち着いたレース運びを見せて5位でフィニッシュ。

「監督から人をうまく使って『先頭から10秒以内で』という指示を受けていました。それはできなかったんですけど、10位以内を狙っていたので、最低限の仕事は果たせたと思います」と、松島は安堵の表情を見せた。伊藤も9位と好走し、チームは1組目終了時点で総合2位と上々の滑り出しを見せた。

 しかし2組目で、昨年の箱根予選会での悪夢を彷彿させることが起こってしまう。吉田光汰(4年)が5キロを越えたところで遅れ始めてしまったのだ。

「1キロで足に違和感を感じて、3キロぐらいからきつくなって。どうしようと思いながら前に出る力を極力使わないようにしたんですけど、どんどん下がっていってしまった。練習はしっかりできていましたし、調整もうまくいっていたんですけど......」

 川崎勇二監督から「1秒が大事だ」という声がかかり、吉田も頭では理解していたが、体がついてこなかった。

 ただ、もうひとりのランナー川田啓仁(3年)は、国学院大の木付琳(きつき・りん/4年)が6キロ過ぎから前に出ていくなか、粘り強くついていった。

「(木付を)マークしていたのですが、思った以上に早くて......このままついていったらやばいと思い、自分のペースに戻して粘ることを最優先して走りました」

 川崎監督から「吉田が離れている。しっかり稼げ」という檄が飛ぶ。周回遅れになった吉田を抜いた時に表情が見えたが、かなり苦しそうだった。その分、「自分が......」と奮い立たせた。

 川田にはもうひとつ頑張らなければいけない理由があった。昨年の箱根駅伝予選会で力を発揮できず、10位の専修大に37秒差で敗れ、出場を逃した。

「予選会で自分は設定タイムよりも1分以上遅くて、そのせいで出場を逃してしまった。それが悔しくて、今回はなんとしても......という思いから、しっかり調整してきました」

 川田は8位に入り自分の役割を果たしたが、吉田は40位に終わり、この時点で中央学院大は総合12位に後退した。

 そんな嫌なムードを払拭したのが、3組で走った武川流以名(ぶかわ・るいな/3年)と主将の小島慎也(3年)だった。武川は覚悟を持ってこのレースに臨んだ。

「参加選手のなかで自分と小島は持ちタイムが上位のほうでしたし、前の組で吉田さんが失速したので、小島に『トップ争いするぞ』と言ってスタートしました」

 小島も巻き返しを誓ってスタートした。

「タイム差もあり、順位も下がってやばいなと思ったんですが、まだ自分らを含めて2組あるし、あきらめずに武川としっかり稼ごうと思っていました」

 レースはふたりとも先頭集団に入り、武川は冷静にレースの状況を把握しながら走っていた。

「途中から樋口(翔太/日本大3年)が引っ張るだろうなと思っていました。あとは国学院大のふたりが仕掛けるタイミングを見ながら、余裕を持って走ることができました」

 その言葉どおり、6キロで樋口が先頭に立つと、そのあとを国学院大の平林清澄(1年)らがついていき、そのうしろに武川と小島が続いた。

 8キロ過ぎで平林が飛び出すと、それを追うように武川、小島も前に出た。そして最後のホームストレートに入った瞬間、小島と武川が猛烈なラストスパートを見せ、平林を差し切り小島が1位、武川が2位でフィニッシュした。

「ラスト100mで『抜かすぞ、一緒にいこう』と武川に声をかけました。いつもならあきらめていたかもしれないですけど、今日はそういうわけにもいかないので、しっかりギアを上げて走ることができました」

 小島は満足そうな表情を見せた。

 箱根駅伝の予選会以降、右足の甲を痛め、今年4月に入るまで練習ができなかった。復帰後も1500m、5000m、10000mと3本のレースをこなしたが、調子が上がらなかった。今回のレースで走れるだろうかという不安を抱いた時期もあったが、2、3週間前からようやく本来の走りができるようになったという。

 小島と武川の頑張りで、チームは総合6位に浮上。再び出場権獲得圏内(上位7位)に入った。

 4組は栗原啓吾(4年)と吉田礼志(1年)が出走した。栗原はチームのエース格で、吉田礼志はルーキーだが春のトラックシーズンで結果を出すなど、監督からも絶大な信頼を寄せられている。

 栗原は総合順位が上がったことで、落ち着いてレースに入れた。

「2組目が終わった時は焦りというか、恐怖心がありました。でも3組目で出場圏内まで上げてくれましたし、監督からは『とにかく後半失速しないように、リスクは負わず、日本人トップ集団あたりでレースするように』と指示されていたので、それを守ろうと」

 留学生たちがとばすなか、栗原は指示どおり日本人トップ集団に入り、冷静なレース運びを見せた。そのうしろには吉田礼志がピタリとつき、最後まで離れることはなかった。栗原は9位、吉田礼志は10位ながら28分41秒60で自己ベストの走りを見せた。

 この結果、中央学院大は総合6位となり、9年連続で伊勢路を走ることが決まった。

 3組で走った武川、小島の好走が選考会突破の原動力になったことは間違いないが、各組でしっかりと順位を整えられたことが大きい。それに加え、3つのポイントが今回の結果に大きく影響しているように思える。

 まずは今回のレースを、上半期の最大の目標に掲げて取り組んできたことが大きい。「3位以内での予選突破」を目標に、記録会などでコンディションを上げ、この大会にピークを合わせてきた。

 ただ、このレースに合わせてきたのは走者8人と補欠の5人だけではない。チーム全員がこのレースに向けて気持ちを高め、調整してきたのだ。

「今回のレースに出ない選手は東海大の記録会に出て、チーム一丸となって、この日(6月19日)に合わせてやってきました」

 主将の小島はチームの一体感を強調したが、その意識が今回の結果に結びついたのだろう。

 また、新たに始めた強化が実を結んだことも大きい。

 一昨年あたりから駅伝は高速化し、昨年の箱根駅伝予選会でもその傾向は顕著で、スピード強化に成功した大学が予選を突破していった。中央学院大は18年連続して箱根駅伝に出場していたが、予選会で12位に終わり、10位までに与えられる出場権を獲得できなかった。

「高速化についていけず、置いていかれてしまった」

 栗原がそう語ったように、課題は明確だった。

「スピード不足が僕たちの課題だという話になって、そこからスピードに特化した練習をするようになったんです」

 練習方法は、A B Cのチームに分かれ、それぞれ1キロの設定タイムが決められている。たとえばAチームは2分50秒の設定で、5本のインターバル走をこなしていたが、その設定タイムを各チーム5秒ずつ短縮した。

「最初はなかなかタイムに反映されなかったんですけど、新しいシーズン(4月)になってようやくその成果が出てきた感じです」

 そう小島が語るように、個々の選手のスピードがアップし、結果に結びつくようになった。

 4月の日体大記録会の10000mで栗原が28分03秒39で大学新を叩き出すと、武川は28分40秒48、坂田隼人(4年)が29分10秒98、伊藤が28分54秒30、飯塚達也(2年)が29分48秒98と、計5人の選手が自己ベストを更新した。

 さらに関東インカレでは5000mでルーキーの吉田礼志が13分57秒83の自己ベストを更新して7位入賞を果たすと、川田は14分14秒16で17位。3000m障害(SC)では、吉田光が優勝し、上野航平(3年)が3位。10000mでは伊藤が28分52秒15の自己ベストで14位と好走した。

 今回の全日本大学駅伝の選考会でも、小島と武川が猛烈なラストスパートを見せるなど、スピード強化の成果が結果となって表れた。

 そして強力ルーキーの存在も見逃せない。

「1年生、とくにふたりが強力で、すごく刺激になっています」

 松島はうれしそうにそう語ったが、ふたりのルーキーとは吉田礼志と堀田晟礼(せいあ)だ。吉田礼志は先述したように関東インカレ5000mで好結果を出し、4月の平成国際大記録会の10000mにも出場し、28分56秒29の自己ベストを出すなど大物ぶりを発揮。一方の堀田も関東インカレの5000mに出場して14分40秒86で28位に入った。

 吉田礼志は今回、吉田光汰の分を挽回する走りでチームに貢献。小島は「吉田(礼志)には自分の持っている力を出してほしいと思っていましたが、日本人トップ集団にくらいつくなど、想像以上の走りを見せてくれました」と、吉田礼志の健闘に表情を崩した。

 上級生のレベルが上がり、下級生も力をつけている。チームはいい緊張感を保っており、上昇気流に乗ったといっていいだろう。これからは箱根予選会を見据えてロングを走り、さらに足をつくっていくことになる。

 箱根予選会では、明治大をはじめ、法政大、拓殖大、中央大、日体大らと出場権を争うことになるが、チームは地力をつけてきており、予選突破はもちろん、本戦でもシード校相手にいい戦いを見せてくれるだろう。そのためにも、今回出場権を得た全日本大学駅伝が試金石となる。