角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)のF1デビューシーズンは、険しい道のりというよりも、自らその道を外れて振り出しに戻っているように見える。 2戦続けての市街地サーキットで苦戦しながらも、第6戦アゼルバイジャンGPで掴みかけたように思われた…

 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)のF1デビューシーズンは、険しい道のりというよりも、自らその道を外れて振り出しに戻っているように見える。

 2戦続けての市街地サーキットで苦戦しながらも、第6戦アゼルバイジャンGPで掴みかけたように思われた良い流れは、勝手知ったる第7戦フランスGPでさらなる前進へと昇華させるはずだった。しかし、予選Q1最初のアタックでほんのわずかな気の緩みから、また大きく後退してしまった。



角田裕毅は冷静さを保ってこの週末を過ごせるか

 金曜からトリッキーなマシン挙動に苦戦していたアルファタウリは、FP3から予選に向けて大きくマシンセットアップを変更した。であればなおさら、その走り始めはマシンの挙動確認にあてるべきだった。ピエール・ガスリーがQ3に進んで予選6位を得たように、AT02には十分にポテンシャルがあったのだから、Q1から無茶をする必要などなかったのだ。

「FP3から予選に向けてマシンのセットアップをかなり大きく変えたんですが、ピエールはQ1の最初のアタックであまりプッシュはせずにマシンのバランスを確認して、マシンのフィーリングがどう変わったのかを理解しようとし、そこからペースをビルドアップして(Q2、Q3で)いいアタックラップをまとめ上げていました。僕はセットアップ変更をあまり気にせずにアタック1周目からプッシュして、(ターン1でインに入りすぎてスピンし)バリアに突っ込んでしまいました。アプローチの仕方が全然違ったんです」

 これが初めてのミスなら、「ルーキーだから仕方がない。これも勉強のうちだ」と許される。

 しかし角田は、第2戦エミリア・ロマーニャGPの予選Q1でまったく同じミスを犯してしまっている。予選上位が狙えるクルマなのに、Q1最初のアタックで異様なほどブレーキングを奥まで攻め、コントロールを失ってクラッシュさせてしまった。

 第4戦スペインGPでも、1周をまとめればいいだけの場面で攻めすぎて、グラベルにタイヤを落とし、Q1で敗退となった。不必要なプッシュという意味では、第5戦モナコGPのFP2におけるクラッシュも同様だ。

「僕はいつもQ1の最初からプッシュしてしまいがちで、とくに僕らのマシンがいつもQ3に行けるくらいいいパフォーマンスがあることを考えれば、必要のない場所でプッシュしてしまっていました。そういう意味でこれまでに2回か3回、同じミスを犯してしまって予選をそこで終えてしまっているので、今後は予選の最初はもう少し抑えめに行く必要がありますし、リラックスしてこれまでとは違うアプローチの仕方をしたいと思っています」

 カギは、フリー走行からプッシュしすぎることなく、ミスのないレース週末を過ごすことだ。

 いや、予選の最後にマシンの限界を求めてプッシュをし、結果として限界を超えてクラッシュしてしまうのなら構わない。それによってマシンの限界を学ぶことができるからだ。

 しかし、プッシュする必要のない場面で無意識のうちに限界を超えること、もしくは明らかに限界を過ぎた無謀なプッシュは厳禁だ。それが許される時期は、もうとっくに過ぎてしまっている。

 問題はF1ドライバーとしてのドライビングスキルではなく、プッシュすべき場面ではないことを認識して自分を抑える冷静さだ。それさえきちんと保つことができれば、角田の運転技術そのものに疑いはないのだから。

「同じようなミスはもう犯したくはありません。でも、予選で可能なかぎりいい結果も掴み取らなければならないので、もちろんプッシュはしていきますが、今週末のアプローチの仕方を変えることは間違いありません。FP1から予選に向けて自信を築き上げていくことも大切だと思っているので、そのアプローチの仕方がうまく機能するかどうか見てみたいと思います」

 ただし、今週末のレッドブル・リンクには雨まじりの天気予報が出ている。

 とくにフリー走行が雨で十分な走り込みができないまま、ぶっつけ本番で予選・決勝に臨まなければならなくなった時、いかに対応できるか。角田にとっては試練の週末になりそうだ。

 一方、フランスGPを完璧なかたちで制したレッドブル・ホンダ勢には、3連勝の勢いと同時にプレッシャーものしかかっている。

 レッドブルの3連勝は、2013年以来のこと。つまり、チャンピオン争いをしていた頃だ。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはチーム内の異様な雰囲気を感じ取っている。

「(勝利の)勢いを持っていい雰囲気ではありますが、敵はチャンピオンチームとチャンピオンドライバーですから、そんなに簡単ではないということもわかっています。毎回アップデートを投入していますから、そのデータの見直しをかけて今週末のレースに臨みます。

 自分のミスでレースを台無しにしてしまうかもしれない、というプレッシャーは常にあります。勝ったら勝ったでプレッシャーも上積みになってきますから、全員が異常な緊張感を持って臨んでいます」

 第8戦シュタイアーマルクGPには1万5000人の観客が入り、来週の第9戦オーストリアGPには10万人の観客を動員する予定になっている。オーストリアはチームの母体レッドブルの本拠地であるだけに、レッドブル・リンクはレッドブルとフェルスタッペンの大応援団の熱気に包まれることになる。

 過去にこのコースで2勝を挙げているマックス・フェルスタッペンは、選手権リーダーとして凱旋レースを戦うことになる。

「間違いなくクレイジーな週末になるだろう。ここでは2勝を挙げているし、いつも大勢のオレンジ色のファンに囲まれるんだからクレイジーだよね。レッドブルの地元でもあるし、(2019年に)ホンダとの初優勝を挙げた場所でもある。感情が高ぶるね」

 前戦フランスGPを制したからといって、油断は一切ない。ましてや、今週末は雨絡みの難しいレース週末になるかもしれない。

 ドライがいいか、ウエットがいいか? 今までなら雨の波乱を期待しなければならなかったフェルスタッペンが、今年は言い切った。

「ウエットになると、かなりスリッパリーになるから、慎重なドライビングが求められるだろう。今のところ僕らには、ドライコンディションで強力なマシンがある」

 フランスGPからの3週連続開催で選手権の流れは大きく動く。レッドブル・リンクでの2連戦をいかに戦うか。

 レッドブル・ホンダとマックス・フェルスタッペンにとっても、絶対に落とすことのできない重圧のレース週末が始まる。