木村和久の「新・お気楽ゴルフ」連載◆第3回 このコラムは月刊連載でお送りしていますが、このひと月でゴルフ業界の"風"が多方面から吹き出して、どう判断していいのか、わからない状態になっています。 そういう意味では、2021年6月はゴルフ業界の…
木村和久の「新・お気楽ゴルフ」
連載◆第3回
このコラムは月刊連載でお送りしていますが、このひと月でゴルフ業界の"風"が多方面から吹き出して、どう判断していいのか、わからない状態になっています。
そういう意味では、2021年6月はゴルフ業界のダイナミックな"変換の月"と、認識したほうがよさそうです。
最初のビッグウインドは、なんと言っても笹生優花選手の全米女子オープン優勝です。
すでにさまざまなメディアで取り上げられているので、ここでは詳しく触れませんが、私が一番驚いたことは出身高校です。
代々木高校となっていますが、三重県の伊勢志摩に本校があって、東京校、大阪校もある私立の広域通信制高等学校です。笹生選手は同高のアスリートゴルフコースに在籍して腕を磨いてきました。
アスリートゴルフコースの総監督は、石川遼選手の育ての親でもある、元杉並学院中・高等学校のゴルフ部監督、吉岡徹治氏です。
吉岡さんは5年前にタイで笹生選手のラウンドを目撃。その才能に驚き、すぐさま代々木高校にスカウトしたそうです。
そして、そこから"吉岡流"の特訓が始まったとか。吉岡さんの指導方針は「試合環境の整備」と「コースマネジメント」です。
杉並学院の監督だった当時、高校1年生の石川遼選手をプロのトーナメントにエントリーさせ、優勝までさせてしまった功績はものすごく大きいです。いくら実力がある選手がいたとしても、指導者がその機会があることを把握し、チャンスを与えてあげなければ、ツアーには出場できませんからね。
この石川遼選手の優勝によって、プロを目指す選手たちのツアーデビューはかなり早まりました。要するに、ツアーで活躍する力があれば、大学のゴルフ部を経験する前に"前へ進め"という時代になったのです。
笹生選手も吉岡さんの指導によって、高校時代から日本のツアーだけでなく、合宿という名目でアジアツアーにも送り出されて、武者修行をこなしてきたそうです。
"吉岡流"は、技術指導に関しては家庭に任せる方針にしています。ゴルフで教えることは、バーディーをいかに取るのか、という戦略です。
以前、取材した時に聞いたのですが、「淡々とパーばかり取るプレーよりも、バーディーもあるけど、ボギーもあるゴルフのほうが有望だ」とおっしゃっていました。バーディーを取らない限り、アンダーは出ません。時々出るボギーはやっているうちに減るから、気にするな、ということです。
そんな"吉岡流"のバーディー量産術を学び、父親からスパルタ教育を受け、ロリー・マキロイのスイングを身につけ、ジャンボ軍団に弟子入り。そうして、日本ツアーで優勝を遂げ、今度は海外メジャー制覇。さらに、フィリピンでは切手になるなんて、笹生選手はすでに偉人といった風格が出ていますよね。
また、笹生選手は通信制の高校に入ったおかげで、時間を有効に使うことができました。このメリットも、相当デカいです。
実は最近、若手アスリートが通信制の高校に在籍しているケースが増えています。インターネット環境がよくなり、移動中など都合のいい時間にスマホやパソコンで授業を受ければ、誰もが多くの時間を練習に割いて、自らの鍛錬に励むことができるというものです。
今後、若手アスリートや芸能人の多くは、通信制高校で学ぶことが主流になっていくことでしょう。それが証拠に近年、これまでアスリートや芸能人を養成してきた全日制の高校が通信制コースをわざわざ増設する、という現象が起きていますからね。
翻(ひるがえ)って、笹生選手の活躍を見守りながら、6月22日、ひっそりと幕を閉じた老舗のゴルフ雑誌があります。ご存知の方も多いかと思いますが、私も寄稿していた『週刊パーゴルフ』です。
今年で創刊50周年という節目だっただけに、非常に残念でなりません。個人的には1994年3月から、足かけ27年ぐらい執筆させていただきました。まさに『週刊パーゴルフ』の紙面上でゴルフの青春を駆け抜けた感があるので、なおさらです。
その『週刊パーゴルフ』の休刊が、実は笹生選手らの活躍と微妙に関係がある、といったら「なんで?」と思われることでしょう。それを、今から説明したいと思います。
週刊のゴルフ雑誌は、昔から火曜日発売と決まっていました。それは、日曜日のトーナメントの結果を掲載して最短で発売できるのが、火曜日だからです。レッスンものや選手インタビュー、漫画やコラム、ギア紹介などは予め作っておいて、試合結果用に残しておいた数ページを日曜日に入稿。それで、何とか火曜日に発売することができました。
しかし現在は、日曜日の試合結果もテレビやネットニュースを見れば、試合直後から報道され、総評やエピソードなども、その日のうちには記事化されています。つまり、雑誌が発売される火曜日までに、日曜日の試合結果については誰もが幅広く知っていることになります。
こうして雑誌におけるトーナメント情報はタイムリーなものではなくなり、さらにタイムラグが生じるようになったのが、松山英樹選手が活躍するPGAツアーや、宮里藍選手以降、数多くの選手が活躍してきたLPGAツアーの情報です。
笹生選手が優勝した全米女子オープンでもわかるように、アメリカのトーナメント最終日は日本時間の月曜日。こうなると、米ツアーの情報は翌日発売の雑誌には掲載できず、1週間後となってしまいます。
もはや、火曜日発売の必然性はなくなってしまっていたんですね。
笹生優花選手の全米女子オープン優勝、『週刊パーゴルフ』の休刊と、この6月にはゴルフ界で強烈な
「疾風」が巻き起こりました。illustration by Hattori Motonobu
そうした状況になって、ゴルフ週刊誌を読む楽しみは、レギュラー記事となり、一番の売りは案外漫画だったりします。『週刊パーゴルフ』のライバル誌『週刊ゴルフダイジェスト』は、『オーイ! とんぼ』というゴルフ漫画が大人気で、それが部数増大に貢献したと言われています。
『週刊パーゴルフ』も、ある巨匠原作の連載漫画を投入し、『週刊ゴルフダイジェスト』を追撃しようという矢先だったそうです。とても残念です。
とにかく、週刊誌は宣伝面においてもハンデを背負いがち。広告を出すにしても、月刊誌なら月1回で済むけど、週刊誌だと月4回出す必要がありますからね。単純計算で、広告料だけでも4倍かかる計算になります。しかも、雑誌の版型は月刊誌のほうが大判で見やすく、最小の投資で効果を得やすいんですな。
現在ゴルフ業界は、スター選手の活躍が際立って、コロナ禍によるアマチュアプレーヤーの増加で盛況を博しています。ゴルフ場をはじめ、練習場やショップの売上が増加し、バブルに近い勢いを見せています。
その最中、老舗週刊誌の休刊はちょっと痛いですよね。
なにしろ今、たくさんの広告が入る可能性があるスポーツ雑誌はゴルフ以外にありませんから。クラブメーカー、ボールメーカー、ウエア関連、小物関連、ゴルフ場の営業、会員権屋さん、ゴルフツアー関連、そしてゴルフ量販店など、ゴルフ関連会社がふんだんに広告を出しています。
ゆえに、やり方にはよっては、ゴルフ媒体はまだまだ生き残ることができると思っています。それが、月刊誌なのか、ウエブサイトなのか、まだ見えませんが、次なる展開をしっかり見届けていきたいです。