6月21日、東京五輪を戦うバレーボール男子日本代表の内定選手12人が発表された。 女子のメンバーに関しては、イタリアで開催中のバレーボールネーションズリーグ(VNL)終了後、帰国してからの発表となる。当初は男子も同様のタイミングになるはず…

 6月21日、東京五輪を戦うバレーボール男子日本代表の内定選手12人が発表された。

 女子のメンバーに関しては、イタリアで開催中のバレーボールネーションズリーグ(VNL)終了後、帰国してからの発表となる。当初は男子も同様のタイミングになるはずだったが、中垣内祐一監督は前倒しされた理由を次のように語った。

「(世界ランキングでは格下で)勝たないといけないアルゼンチン戦、カナダ戦を落とすなど、選手のパフォーマンスが低下している。この大会はバブルシステムで運営されていて、約4週間という長い期間、多くの行動制限の中で過ごすことがストレスになっているように感じます。また、『1試合1試合、1球1球がオリンピックの選考に関わる』としていたため、二重で精神的な負担を与えていると判断しました。特に新戦力の若い選手にとってはそれが大きかったでしょう。よって、大会終了を待たずにメンバーを発表しました」



VNLを戦った日本代表。選考で外れた選手たちの思いと共に、12人のメンバーは東京五輪を戦う

 そうして発表された12人のメンバーは次のとおりだ。

【セッター】
藤井直伸、関田誠大
【オポジット】
清水邦広、西田有志
【アウトサイドヒッター】
石川祐希、高梨健太、大塚達宣、髙橋藍
【ミドルブロッカー】
李博、山内晶大、小野寺太志、
【リベロ】
山本智大

 VNLを戦ったメンバー17人のうち、大宅真樹、大竹壱青、福澤達哉、髙橋健太郎、小川智大の5人が外れた。このうち、大会前に前主将の柳田将洋がメンバーから外れるなど、特に注目されていたサイドアタッカー陣の選考について見ていこう。

 まずはオポジット。若きサウスポーエースの西田は早くから「当確」と見られていたが、5月8日の紅白戦で右足首を負傷。1カ月半ほど実戦から離れ、状態が心配されていた。

 久々にコートに復帰したのは、大会第4週のポーランド戦(6月16日)。その試合と次のカナダ戦もサーブと後衛のみでプレーする限定的な起用法で、アタックをネットにかけるような場面もあった。だが、6月21日のブルガリア戦でフル出場して以降は、本来のキレ、力強さを取り戻していった。西田本人も、「足の状態はとてもいい。今までやれてきたことが全部できるかというと、なかなかそうではないですが、オリンピックまでにしっかり完成した自分で挑みたいです」と力強く語った。

 サウスポーエースの"先輩"である清水は、往年の爆発的な得点力こそなくなったものの、5月2日の中国との親善試合を中継したアナウンサーが「今のゴリ(清水の愛称)はただのゴリではない。進化した"テクニカルゴリ"です!」と言っていたように、海外選手の高いブロックをかいくぐるといった"引き出し"が多いベテランになった。共に2008年の北京五輪に出場した福澤がメンバーから外れただけに、五輪の経験者としてチームを支える役割も求められるだろう。

 大竹は、格上のチーム相手にもハマれば止まらない爆発力があるが、「ハマる」時とそうでない時の波が激しい印象はVNLでもぬぐい切れなかった。西田をメインオポジットとして考えた場合に、2枚替えや流れを変える役割を、中垣内監督は安定感がある清水に求めたように思える。

 アウトサイドヒッターはより激戦になったが、今年度から主将を務める石川はVNLでも別格の力を示した。強打はもちろん、相手のブロックを冷静に見てのブロックアウトなど、当たり前のように得点を量産。加えて、主将としてチームを引っ張っていこうという強いキャプテンシーも感じる。

 サーブレシーブが少し不安とも言えなくはないが、それもイタリア・セリエAでの6シーズンのプレーを経て大きく成長。サーブ、ブロックも含め、"龍神Nippon"のトップの選手であることは疑いの余地がなく、五輪本番でも石川の活躍がチームの明暗を左右するだろう。

 今年度に代表に初招集され、五輪出場の切符を掴んだ高梨健太は、2020-2021シーズンのVリーグでウルフドッグス名古屋の3位浮上に大きく貢献した選手。サーブレシーブにやや難があるものの、サーブ、前衛・後衛でのアタック、ブロックはそれぞれ高いレベルにある。VNLでは持ち前を十分に発揮できない試合もあったが、6月22日のスロベニア戦では中盤以降のオフェンシブなプレーが光っていた。

 さらに新しい風をチームに吹かせたのが、日体大2年の髙橋藍と、早稲田大3年の大塚達宣だ。

 中垣内監督が昨夏の紅白戦でも高く評価していた髙橋は、アンダーカテゴリーに選出されていなかった選手だが、シニアの代表で存在感を示し続けた。代表に選出された当初は髙橋の実力を疑問視する声もあったが、今年の中国とのテストマッチ、VNLの開幕2戦の攻守にわたる活躍はそれを封じるに十分だった。

 ただ、「連戦でパフォーマンスが少し落ちた」と本人も口にしていたように、アルゼンチン戦やカナダ戦では得意とするサーブレシーブが乱れ、前衛での攻撃も思うように決められない場面もあった。疲労に加え、各国にデータを取られたということも影響しているだろう。

 そこを乗り越えるためには多くの試合経験が必要になるが、今回は五輪が間近に迫っているだけにどこまで対応できるか。目標とする選手に石川の名を挙げ、「目標とするだけでなく、越えていきたい存在」と口にする19歳のさらなる成長に期待したい。



オポジット、アウトサイドヒッターの両方でプレーする大塚

 もうひとりの大学生である大塚は、身長194cmと、今回選ばれたサイドアタッカー陣の中でもっとも長身の選手になった。大学ではアウトサイドヒッター(サーブレシーブをするレフト)としてプレーしているが、VNLでは西田の状態が戻るまで、オポジットとして出場することが多かった。

 飛び抜けて攻撃力が高いわけではないものの、ミスが少なく、髙橋と同様に守備面でも大きくチームに貢献。大塚をオポジットに入れ、4人で海外選手のビックサーバーに対応するシーンもよく見られた。また、S1ローテ(セッターがサーブを打つ時のローテーション。オポジットは前衛の左)で力を存分に力を発揮できるのは心強い。自身の右側からトスが上がってくるこのローテは、左利きのオポジットにとっての"鬼門"だが、右利きで本職がレフトの大塚はそれを苦にしない。西田、清水でS1ローテが回らない時などに、ピンポイントで起用することもアリだろう。

 西田が戻ってきたことにより、五輪ではアウトサイドヒッターでの起用が増えるかもしれない。しかし、東京五輪は1日おきで試合があり、西田が故障明け、清水も年齢的にスタミナ面の不安があること考えると、オポジットでもプレーできる大塚の"ユーティリティ性"はチームにとって大きな助けになるはずだ。

 VNLでは、選手の選考も兼ねてさまざまな戦術を試しながら「ベスト8以上」を目標としていたが、実際の順位は16カ国中11位。本戦に向けた収穫、課題が多く見つかった大会になっただろう。残り約1カ月の間にどれだけチーム力を高め、日本男子バレーにとって13年ぶりのオリンピックをどう戦うことになるのか、今から楽しみだ。