スポーツクライミングの日本代表3選手にとって、これまで積み重ねた日々への自信を深める大会になったようだ。 6月18日・19日に岩手県盛岡市で『コンバインド・ジャパンカップ2021(以下CJC)』と『スピード・ジャパンオープン(以下SJO)…

 スポーツクライミングの日本代表3選手にとって、これまで積み重ねた日々への自信を深める大会になったようだ。

 6月18日・19日に岩手県盛岡市で『コンバインド・ジャパンカップ2021(以下CJC)』と『スピード・ジャパンオープン(以下SJO)』が開催され、東京五輪前の国内最後の大会に日本代表の野口啓代、野中生萌、楢﨑智亜の3人が顔を揃えた。



3種目とも高いレベルを披露した楢﨑智亜

 東京五輪のコンバインド種目は『スピード』『ボルダリング』『リード』の3種目の複合成績で争われるが、この大会のコンバインド種目は2024年パリ五輪で採用される『ボルダリング』と『リード』の2種目。そのため野口、野中、楢﨑は今夏の五輪を想定したシミュレーションの一環としてSJOにも出場し、3種目で順調にステップアップしていることをアピールした。

 ボルダリングとリードで圧巻のパフォーマンスを見せたのは野口啓代だった。決勝のボルダリングは3課題中2課題を完登し、リードでもTOPホールドまで3手に迫り、両種目で1位になってCJC2021の優勝を飾った。

「今シーズンはジャパンカップでもW杯でも、あまりいいパフォーマンスはできていなかった」と振り返る野口にとっては、順位以上に両種目での内容に大きな手応えを得たようだ。

「国内最後の大会で、五輪前に優勝して自信をつけることができました。ボルダリングもリードも集中できていて、自分らしいトライができたのがよかったですね。ボルダリングの完登で、久し振りにすごくうれしい気持ちになりました。

 リードは最後のところ気合で高度を稼ぎましたが、五輪を見据えると持久力はまだ足りないなと感じています。収穫もあったし、課題も見つかったので、本番までにもっと高めていきたいです」

 野中はボルダリング、リードとも2位で、コンバインド成績は2位。予選のみ出場したSJOでは日本新記録となる7秒88をマークし、充実した表情を見せた。

「普段の練習から7秒台は出せていたので、やっと本番で日本記録が出せて、記録に残せたのはうれしいです。ボルダリングとリードも自分の登りがしっかりできたので高評価です」

 野中は今年5月にアメリカで開催されたW杯スピードで8秒20をマークし、当時の日本記録を更新していたが、今回のSJOでは予選前に行なわれるプラクティスの段階から7秒台を連発。スピードで次の段階に達した要因を、こう自己分析する。

「アメリカでのW杯スピードでファイナルに進んで、速い選手たちから刺激を受けたことで壁を越えたような感覚があって。それからは頻繁に7秒台が出せるようになって、自分でも驚いています」

 そのうえで、野中は「東京五輪では、スピードは7秒台中盤のタイムを普通に出せるようになりたい」と語る。東京五輪でそれを実現できれば、スピード種目のスペシャリストを飛び越えて、ひとつでも上の順位を手にできる可能性が高まる。

 そして、それが3種目の各順位を乗算したポイントで争う東京五輪でのメダル獲得に一歩近づくことになると自覚している。

「五輪までの約1カ月でまだ改善できる点はたくさんあるし、それを改善できる自信もある。このまましっかり集中して最後まで駆け抜けたいです」

 男子では、楢﨑が圧倒的な存在感を示した。もうひとりの男子日本代表の原田海が指の状態を懸念して大会出場を回避したなか、楢﨑は万全な状態で歩んでいることを印象づけた。

 コンバインドでは予選を4位通過すると、決勝ではボルダリング、リードとも1位。予選のみ出場したSJCでは5秒90をマークし、出場選手中ただひとり5秒台を記録した。

「優勝できたことは素直にうれしいですね。だけど、リードの内容がよくなかったのは反省点。オブザベーションが完璧ではなかったから、フォールする直前に足順を確認する作業を入れてしまったし、それが足を滑らせた原因でしたね。ボルダリングはだいぶよくなってきたので、あとはリードでどれだけ粘りきれるか」

 東京五輪が1年延期になったなかでも、3種目すべてで順調にステップアップしてきたように映るが、楢﨑はこう引き締める。

「延期が決まった時に想定していたレベルにはまだ達していないので、ここから本番までの間にしっかり上方修正していきたい」

 東京五輪日本代表3選手と、今大会欠場した原田海を含めた日本選手団は、6月23日からオーストリア・インスブルックで開催されるW杯リード&ボルダリングに出場するため、大会翌日には機上の人となった。

「リードとボルダリングの両方で決勝に行き、いいパフォーマンスをして、東京五輪に向けてさらに弾みをつけたい」(野口)

「アダム・オンドラをはじめ、リードではスペシャリストたちとの戦いのなかで、自分がどのくらいの位置にいるのか確認したい」(楢﨑)

 それぞれのテーマを持ってW杯オーストリアに臨む東京五輪日本代表。彼らの視線は、8月5日の男子決勝、8月6日の女子決勝の舞台をしっかりと見据えている。