関東インカレから見る大学駅伝の勢力図 前編 5月の関東インカレは箱根駅伝を目指すチームにとって「前半戦の最大目標」だ。各校1種目最大3人が出場して、男子は1部と2部に分かれてレースが実施される。 2種目を兼ねる選手もいるため、長距離3種目(…

関東インカレから見る大学駅伝の勢力図 前編

 5月の関東インカレは箱根駅伝を目指すチームにとって「前半戦の最大目標」だ。各校1種目最大3人が出場して、男子は1部と2部に分かれてレースが実施される。

 2種目を兼ねる選手もいるため、長距離3種目(5000m、10000m、ハーフマラソン)に出場できるのは各校6~8人ほど。駅伝では主力として活躍が期待される選手たちになる。今年は5月20~23日に相模原ギオンスタジアムで行なわれた。その結果から、現時点での「戦力」をチェックしてみたい。

 箱根駅伝のシード校(10位以内)では、関東インカレ2部に出場した王者・駒澤大がとにかく強かった。



関東インカレ2部の5000m、10000mで日本人トップになった駒大2年の唐澤拓海

 5月3日の日本選手権10000mでは、田澤廉(3年)が日本人学生歴代2位の27分39秒21で2位、鈴木芽吹(2年)が同3位の27分41秒68で3位に食い込んだが、関東インカレでは正月の箱根駅伝に出られなかった唐澤拓海(2年)が大活躍。2部の長距離2種目で日本人トップ(共に全体3位)に輝いた。10000mは1部、2部を含めて日本人歴代最高となる28分05秒76をマーク。5000mは鈴木芽吹とのラスト勝負を制している。

「箱根王者の選手として、最低でも日本人トップはとらないといけないと思ったので素直にうれしいです。自分も芽吹のように戦えるんじゃないかなと自信になりました。学生駅伝では、主要区間で区間賞争いできるような選手になりたいです」と唐澤。今季は5000m(13分40秒90)と10000m(28分02秒52)で自己ベストも大幅に更新しており、駅伝でも"エース級"の活躍を見せるだろう。

 ハーフマラソンでは花尾恭輔(2年)が2位、佃康平(4年)が7位、山野力(3年)が9位と、箱根Vメンバーが結果を残した。なお関東インカレを回避した田澤は、6月6日に行なわれた「Denka Athletics Challenge Cup2021」(新潟・デンカビッグスワンスタジアム)の10000mに出場。東京五輪参加標準記録(27分28秒00)には届かなかったものの、27分52秒52でトップを飾っている。駒大はエース力が高く、選手層も厚い。悲願の「駅伝3冠」に向けて、チーム作りは順調に進んでいる。

 関東インカレ1部では箱根7位だった順天堂大の活躍が目を引いた。5月9日の「READY STEADY TOKYO」男子3000m障害で8分17秒46の日本記録を打ち立てた三浦龍司(2年)は、1500mと5000mに出場。共にラストで圧巻のスパート力を見せて、1500mは3分48秒57で優勝、5000mは日本人トップ(2位/13分48秒90)を奪っている。

 ハーフマラソンでは学生駅伝未出場の四釜峻佑 (しかま・しゅんすけ:3年)が日本人トップの4位と大健闘。 箱根5区を務めた津田将希 (4年)が7位に入った。10000mでは野村優作(3年)が5位(28分19秒01)、伊豫田達弥(いよだ・たつや:3年)が6位(28分25秒38)に入り、ダブル入賞を果たしている。さらに3000m障害では服部壮馬 (1年)が積極的な走りで飛び出し、自己ベストの8分48秒85 で2位に食い込んだ。

 長距離に出場した選手たちの活躍もあり、順大は16年ぶりの総合優勝。戦い方次第では、出雲駅伝や全日本駅伝で駒大を苦しめるかもしれない。

"エースの走り"という点では箱根5位の東海大(1部)もすばらしかった。10000mで、「留学生が相手でも1番を狙っていました」という石原翔太郎(2年)が攻めの走りを披露。残り3周半でトップを奪って、揺さぶった。結果的にサムソン・ディランゴ(流経大)に先着されたものの、U20日本歴代2位となる28分05秒91で日本人トップに輝いた。

 石原は昨季、全日本4区と箱根3区で区間賞を獲得。今季は5000mでもU20日本歴代2位の13分30秒98をマークしている。他の主力では、市村朋樹(4年)が5000mで5位(日本人3位)に入った。昨季は全日本2区で失速して箱根は欠場したが、今季は10000mで学内歴代3位の28分03秒37をマーク。駅伝でのリベンジが期待される。

 箱根6位の早稲田大(1部)は総合力が高い印象があった。期待の「10000m27分台トリオ」は、10000mで中谷雄飛(4年)が8位、太田直希(4年)が13位。5000mで井川龍人(3年)が8位と大きなインパクトを残すことができなかったが、他の選手が健闘した。

 5000mでは今季13分31秒52をマークしている千明龍之佑(ちぎら・りゅうのすけ:4年)が三浦とラスト勝負を演じて3位(13分49秒32)。3000m障害は1500m2位の菖蒲敦司(しょうぶ・あつし:2年)が優勝して、諸冨湧(もろとみ・わく:1年)が7位、北村光(2年)が8位に入り、トリプル入賞を決めた。「駅伝3冠」を掲げるチームだけに充実戦力をアピールした形だ。

 箱根4位だった青山学院大(2部)も総合力は高い。ハーフマラソンでは西久保遼(3年)が0秒差で駒大の花尾とのラスト勝負を制し、高橋勇輝(4年)が10位、横田俊吾(3年)が11位と、随所で駒大勢と競り合った。

 10000mは近藤幸太郎 (3年)が28分12秒49の好タイムで6位、佐藤一世(2年)が自己ベストの28分50秒56で13位。5000mには太田蒼生(10位)、若林宏樹(12位)、鶴川正也(16位)の1年生トリオを出場させて経験を積ませた。また、1年時に箱根2区を好走した岸本大紀(3年)が、今季は5000mを13分台で走るなど復調。やはりチームの目標は「駅伝3冠」だが、駅伝シーズンに向けて戦力が整いそうな予感が漂っている。

 箱根9位の國學院大(2部)は、10000mでエース藤木宏太(4年)が自己ベストの28分10秒30で5位に食い込むと、前回の箱根駅伝を欠場した中西唯翔 (3年)がハーフマラソンで8位に入っている。他にも、中西唯翔の双子の弟で10000m28分17秒84の中西大翔(3年)、同28分27秒台の木付琳(きつき・りん)と島﨑慎愛(共に4年)、同28分38秒88の平林清澄(1年)という強力メンバーが揃っており、2019年シーズンのような快進撃が期待される。

 2年連続でシード権を獲得した箱根10位の東京国際大(2部)は、箱根駅伝2区と3区の区間記録保持者であるイェゴン・ヴィンセント(3年)がトラックでも圧倒的な強さを見せた。10000mは大会新&自己新となる27分30秒24。5000mは強風の中を独走して13分42秒54で圧勝した。日本人では丹所健(3年)が10000mで自己ベストの28分35秒60で10位に入っているが、絶対エース以外の戦力をどれだけ充実させられるかが、3年連続シード権獲得へのカギになる。

 箱根8位の帝京大(2部)は、山上りの5区で区間賞を獲得した細谷翔馬(4年)がハーフマラソンで4位に入ったものの、5000m、10000m、3000m障害の入賞者はなし。期待度は高くないが、例年どおりというイメージか。

 一方、箱根2位の創価大と同3位の東洋大はやや精彩を欠いた印象だ。創価大(2部)はフィリップ・ムルワ(3年)が10000mで2位に入るも、長距離3種目で日本人選手の入賞がなく、嶋津雄大(4年)の10000m12位が最高位だった。

 東洋大(1部) は、1500mと3000m障害を含めても長距離種目の入賞はゼロ。主将・宮下隼人(4年)が欠場し、5000mで13分34秒74の高校記録を保持する石田洸介(1年)はノーエントリー。箱根2区で好走した松山和希(2年)は5000mに出場するも、18位と振るわなかった。

 それでも創価大は「3大駅伝で3位以内」、東洋大は「箱根駅伝で8年ぶりの総合優勝」を狙っている。昨季の実績があるチームだけに、これから上がってくるだろう。なお箱根シード校は、夏合宿、9月中旬の日本インカレを経て、次は10月10日の出雲駅伝で激突する。2021年正月の箱根駅伝へと続く道にはどんなドラマが待っているのか。

(後編:予選会出場校の現状は?)