サンウルブズが熱を帯びる。 2月21日、都内にある辰巳の森ラグビー練習場。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から加わって発足2季目の開幕を4日後に控え、攻防の組織を確認し合う。ホームの東京・秩父宮ラグビー場での初戦では、前年度王者のハリケ…

 サンウルブズが熱を帯びる。

 2月21日、都内にある辰巳の森ラグビー練習場。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から加わって発足2季目の開幕を4日後に控え、攻防の組織を確認し合う。ホームの東京・秩父宮ラグビー場での初戦では、前年度王者のハリケーンズとぶつかる。

「ノーラック! ノーラック!」

 3人1組の攻撃が防御を攻略する実戦型練習では、タックルされながらボールをつなぐオフロードパスの呼吸を確認する。

 先頭に立つボール保持者が、まず2人並んだ防御網を突破する。その直後、後ろのサポート役が「ノーラック!」と連呼する。「ラック」という、ランナーが倒れる密集戦を作るなという意味だ。するとボール保持者は、第2陣にあたるタックラーにぶつかりながらオフロードパスを繰り出す。

 ちなみに昨秋のジャパンでも、ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチのもとでオフロードパスの練習が続いた。「オフロードパスは、常に狙っていきます」とは、田邉淳アシスタントコーチだ。

 いまのサンウルブズは強化方針を日本代表とリンクさせているだけに、両方のチームを掛け持ちする田邉はオフロードパスを浸透させたいのだ。手足の長いフィジー代表の上から投げ下すようなオフロードパスではなく、低い前傾姿勢から相手の脇の下や背後を通すようなオフロードパスを。

「我々のようにフィジカルではないチームは、ラックを作るほど不利になる。コンタクトを避けるようなラグビーをしていきたいな、と思っています」

 38歳。三洋電機から名称変更したパナソニックで正FB、コーチとして存在感を示してきた。15歳の時から9年間、ニュージーランドへ留学している。初年度から指導に関わるサンウルブズでは、バイリンガルという資質を活かして多国籍のスタッフ陣のパイプ役も務める。いまでは練習計画の立案も引っ張る。

「自分の仕事はこれだという役割が、明確になっている。日々のセッションプランは僕が作って、皆で確認してやっています」

始動したのは他クラブより1か月は遅い2月1日と、準備期間の短さは以前と変わらず。何よりいまは、怪我人に苦しんでいる。

 51人いるスコッドのうち9名の日本代表経験者は、2月中旬に怪我などで離脱した。18日の福岡・ミクニワールドスタジアム北九州での壮行試合においても、主戦級と期待されたSOのヘイデン・クリップス、CTBのウィリアム・トゥポウが途中退場。21日のセッションは見学した。

 それでも田邉は、「全然、ポジティブですよ」と言う。

「怪我はラグビーにつきものだし、コーチ陣としてはそれ(後ろ向きな気持ち)をボディーランゲージに出さないことが大事です。残された選手にとってはチャンスでもある」

 多くのスタッフや選手は前年度にスーパーラグビーでの経験を積み上げていて、田邉自身も1勝1分13敗だったシーズンのトライアンドエラーを肥やしにしている。何よりジョセフ体制の日本代表と連携しているだけに、迷いなく指導できるだろう。

 トップリーグオールスターズを24-12で下した壮行試合を受け、「ハリケーンズさんには、その試合を研究してもらった方が助かるかな」ともほほ笑む。

 具体的なことは明かさなかったが、何らかのプレー選択の配分に手を加えるのは間違いなさそうだ。

「先週と今週では相手も違う。全く違うプランを立てています。罠にはめようかな、と。『ここでこんなことするか?』という、印象に残るシーンを作れれば…」

 今回も、逆風に立ち向かうというクラブ文化を体現する。(文:向 風見也)