2021年のトップリーグ最終戦。韋駄天WTB(ウイング)福岡堅樹はトライを挙げてパナソニックの優勝に貢献し、「何ひとつ悔いはありません」とブーツを脱いで医学の道へ進んだ。 今夏1年半ぶりに活動を再開したラグビー日本代表において、その希代の…

 2021年のトップリーグ最終戦。韋駄天WTB(ウイング)福岡堅樹はトライを挙げてパナソニックの優勝に貢献し、「何ひとつ悔いはありません」とブーツを脱いで医学の道へ進んだ。

 今夏1年半ぶりに活動を再開したラグビー日本代表において、その希代のWTBを失った穴は大きい。2023年ワールドカップでベスト4以上を目指すチームにとって、「ポスト福岡」の発掘は急務だ。

 2年後、福岡に匹敵するランナーは誕生しているだろうか。期待を込めて注目の若手を紹介したい。



トップリーグでもトライを量産して成長著しい高橋汰地

 まずその筆頭は、今年のトップリーグで9トライを挙げたWTB高橋汰地(たいち/24歳/トヨタ自動車)だろう。今回、追加招集ながら初めて日本代表入りを果たし、6月12日の試合ではサンウルブズの一員として出場する。

 日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、「福岡とは違うタイプですが、『Xファクター』になりうる選手」と評価する。それに対して高橋は、「期待されていることは素直にうれしい。こぼれてきたチャンスをいかにつなげていくか。コーチ陣に何かひとつでもいい選手だと思ってもらえるようなプレーを見せられたらと思います」と意気込んだ。

 兵庫県出身の高橋は、伏見工業高→神戸製鋼で活躍した名WTB高橋晃仁を父に持つサラブレッド。常翔学園高時代、高橋の体格はまだ細かったが、明治大の田中澄憲監督(当時)は「どうして全国区の選手になっていないのか」との印象を持ったという。その光る才能は、明治大で開花する。

 大学ではベンチプレスで165kgを上げるなど、フィジカルトレーニングに熱心に取り組んだ。当たり負けしない体を手に入れると、いつしか紫紺のジャージーのエース的存在となり、22年ぶりの大学選手権優勝に貢献した。

 トヨタ自動車でも1年目から試合に出場し、2年目の今年はチームメイトの南アフリカ代表FB(フルバック)ウィリー・ルルーの指導も仰ぎ、ハイボールキャッチのスキルを磨いた。その結果、トップリーグ開幕戦から2試合連続でMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に輝き、プレーオフ準決勝のパナソニック戦では連続トライを挙げて「ポスト福岡」を印象づけた。

 今回サンウルブズに選ばれた日本代表候補のなかには、高橋以外にも「ポスト福岡」として期待されるランナーがいる。まずひとりは、東海大学時代にジョセフHCに見いだされたWTB/FB野口竜司(25歳/パナソニック)だ。

 中学1年からラグビーを始めた野口は、ユース時代から将来を嘱望されたランナーだ。東海大仰星高時代は1年からレギュラーに抜擢され、3年時には全国制覇を経験。東海大でも1年から試合に出続け、大学3年時にはついに初キャップを獲得し、2017年のアイルランド代表戦で15番を背負った。

 2019年ワールドカップには惜しくも出場できなかったが、元陸上選手とトレーニングを重ねてスピードアップを強化。今年のトップリーグではプレーオフを含む全11試合にFBとして先発出場し、鋭いランと安定感あるプレーを見せてパナソニックの優勝に大きく貢献した。

 今回はWTB/FB松島幸太朗やFB山中亮平などの兼ね合いもあってサンウルブズでの選出となったが、このまま順調に成長していけば2023年W杯のメンバー争いに食い込む可能性は大きい。

 そしてもうひとりは、WTB/FB尾﨑晟也(せいや/25歳/サントリー)。伏見工業高、帝京大、サントリーと、常に強豪チームで活躍してきたランナーだ。

 2019年W杯前の日本代表候補選手で編成された「ウルフパック」でも最多5トライと気を吐き、今年のトップリーグでも6トライと力強いランで決定力の高さを見せた。「2019年W杯は観客席から見て悔しかったので、2023年は絶対に日本代表に入ってW杯に出場する」という確固たる決意を胸に、サンウルブズで日本代表相手に大きくアピールしたいところだ。

 そして、東京五輪を目指す7人制ラグビーのなかにも「ポスト福岡」候補はいる。まずは、セブンズ日本代表のキャプテンを務めるWTB松井千士(ちひと/26歳/キヤノン)だ。

 福岡が「僕より速い!」と断言する選手で、そのスピードはお墨付き。福岡がオリンピックを経てW杯で活躍したように、松井も「(15人制でも)日本代表に入りたい」と同じ道を目指す。

 常翔学園高時代、坂道ダッシュを繰り返したことで一気に足が速くなったという。当時の15人制代表の指揮官だったエディー・ジョーンズHCからもスピードを高く評価されて、同志社大3年の時には初キャップを獲得している。

 高校時代70kgほどだった体重を88kgまで増やしつつも、武器であるスピードは落とすことなくフィジカルの強化も成功。183cmの身長を生かし、ハイボールにも強さを発揮する。セブンズに求められる能力を兼ね備えている逸材だ。

 東京五輪が終わるまで、松井はセブンズに専念している。五輪メダル獲得を置き土産に、来季から始まる新リーグで活躍すれば、2023年W杯には十分に間に合うはずだ。

 そしてセブンズにもうひとり、「ポスト福岡」候補として可能性を秘めた選手がいる。大学生で唯一、東京五輪の7人制日本代表候補に選ばれている明治大4年のWTB石田吉平(21歳)だ。

 常翔学園時代の石田は、身長167cmと小柄ながらFWのNo.8(ナンバーエイト)として活躍していた。同時に高速ステップを武器にトライも量産し、ユース五輪でも銅メダル獲得に貢献した逸材である。

 スピード、ステップ、そしてジャッカルも得意で、接点での激しいプレーもできる。石田は「自分の強みはランとステップで、世界でも通用する。東京五輪はラグビー選手のキャリアの中で1度しかない。夢の舞台に立ちたい!」と、今はセブンズに集中している。

 身長171cmながら圧倒的なスピードで南アフリカ代表の2019年W杯優勝に貢献したWTBチェスリン・コルビを彷彿とさせるプレーが石田の持ち味。ファンからも「和製コルビ」とも呼ばれている。もしかしたら福岡のプレースタイルに一番近いのは石田かもしれない。15人制ラグビーの日本代表でもはやく見てみたい選手だ。

 もちろん、日本代表でWTBの定位置を確保することは簡単な道のりではない。だが、今回紹介した5人が己の武器を磨いていけば、桜のジャージーを着て2023年フランスW杯でトライを挙げる可能性は十分にある。