この春、南国のキャンプ地で、ちょっとした驚きとともに話題となっていることがある。DeNAに若き才能が次々と芽吹いていることである。いずれも、メディアには「新星出現」などと取り上げられ、話題を呼んだ。DeNAファンにとっては未来のスター候補が…

この春、南国のキャンプ地で、ちょっとした驚きとともに話題となっていることがある。DeNAに若き才能が次々と芽吹いていることである。いずれも、メディアには「新星出現」などと取り上げられ、話題を呼んだ。DeNAファンにとっては未来のスター候補がこれだけ飛び出せば、否が応でも期待は膨らみ、若手が伸び悩んでいるような球団のファンにとっては、うらやましい出来事だろう。とはいえ、どの球団も同じように期待を込めてドラフト会議で指名。春季キャンプにも多くのルーキーが1軍に抜擢されている。にもかかわらず、なぜDeNAには若手の台頭が目立つのだろうか。

■10代大砲コンビ、“84番目の男”と下位指名台頭…「ナンデ?」を覆す采配

 この春、南国のキャンプ地で、ちょっとした驚きとともに話題となっていることがある。DeNAに若き才能が次々と芽吹いていることである。

 13日の阪神戦(宜野座)。育成2年目の19歳・網谷圭将捕手、ドラフト5位ルーキーの18歳・細川成也外野手の10代コンビが揃ってアーチを描くと、17日のヤクルト戦(浦添)ではドラフト9位ルーキー・佐野恵太内野手がプロ1号。見てわかる通り、驚くべきは3人ともに下位指名であること。佐野にいたっては昨季のDeNA最下位指名で、全体87人では後ろから4番目、“84番目の男”だ。

 いずれも、メディアには「新星出現」などと取り上げられ、話題を呼んだ。DeNAファンにとっては未来のスター候補がこれだけ飛び出せば、否が応でも期待は膨らみ、若手が伸び悩んでいるような球団のファンにとっては、うらやましい出来事だろう。とはいえ、どの球団も同じように期待を込めてドラフト会議で指名。春季キャンプにも多くのルーキーが1軍に抜擢されている。にもかかわらず、なぜDeNAには若手の台頭が目立つのだろうか。

 要因の一つは、指揮官の「信念」にある。就任1年目の昨季、ラミレス監督は選手の起用法について、こう明かしていた。

「私は自分が信じた者には、すべての信頼を与える。それが、彼らにとって自信につながると信じているから」

 振り返ってみても、就任1年目の新米監督の采配には「信頼」というキーワードが、礎となっていた。

 精神的な弱さを指摘されていた山口を開幕投手に、それも新年早々という早いタイミングで抜擢し、自己最多の11勝をマーク。シーズン中、30打数連続無安打に陥ったロペスを使い続け、不調にもかかわらず5番から3番に打順を上げるという独自の采配で復調。激しい競争の末に結果を出した若手には「今日からお前がレギュラーだ。これからも使い続けていく」と言った。

 本人は「私の考えは周りから『エ~、ナンデ?』と、よく言われる。それは理解している」と分析するが、まさに「自分が信じた者」に対する信頼は厚く、それによって自信を植え付け、好結果を生み出した。球団史上初のクライマックスシリーズ進出という形で「ナンデ?」を一掃させた。

 今回の「芽吹き」に関しても無関係ではないだろう。高卒ルーキーだろうと下位指名だろうと、さらに支配下選手でなくとも関係ない。網谷は育成ながら1軍キャンプに抜擢、細川は2軍スタートながら実戦で1軍招集。与えたチャンスがあったから、芽が出たのである。

■“眼”で2000本安打達成した指揮官、能力発掘で生かされる眼力

 とはいえ、いくら信頼を与えたところで、信じた選手が結果を出さなければ元も子もない。特筆すべきは、抜擢した選手が期待に応えていることだ。

 もともと、“眼”で成り上がった男である。

 01年にヤクルトに入団した当初。メジャーからやってきたベネズエラ人がこだわったことが一つだけあった。

「相手のデータをとにかく分析すること。それは、とても得意だったからね」

 投手のクセ、捕手の配球……。ビデオを見ながら自らの助けとなる、あらゆる情報を徹底的に洗い出した。見たことも聞いたこともない投手と対戦し、結果を求められる助っ人。何の情報もない島国でプレーし、生き残るため――。「ゲッツ!」「アイーン!」とパフォーマンスをする時に見せる優しい眼は、その裏で、鋭く他球団の隙を見抜いていた。

 それから13年後、史上初の外国人選手によるNPB通算2000本安打という偉業で結実する。「何よりも一番の宝物だ」という名球会のジャケットを手にし、名だたる歴代助っ人との差を決定づけたのは、眼力によるものが大きい。

 そして、長い現役生活で培われた眼は今、選手の才能を見抜く上で力を発揮している。例えば、網谷と細川がホームラン競演で脚光を浴びる、ほんの数日前のこと。「期待する選手は?」と問われた指揮官は、未来を予感していたかのように言い切っていた。以下が、そのコメントである。

「2人いる。1人は網谷です。彼はまだ19歳ですけど、すごくベストな打撃の技術を持っていますし、19歳であれだけできるのは信じられないくらい、素晴らしい打撃をしている。もう一人は、ドラフト5位の細川です。まだ18歳なのに、その年でのパワーは考えられないくらい桁違い。本当に、この2人は見ていて楽しみです」

■“切なき宿命”背負い、奮闘する「監督・ラミレス」…球団幹部「意外な姿ではない」

 大前提として、“切なき宿命”の球団でもある。

 歴史をひも解くと、現役選手では内川聖一(ソフトバンク)、村田修一(巨人)、最近でいえば山口俊(巨人)と主力に育った選手がFAで球団を去った。資金力のある球団に脂の乗った30歳前後の選手を奪われ、若手を使わざるを得ない。高田GMは「方向性として、日本ハムや広島のように、選手が抜けても若い選手が出てくるチームを作りたい」と掲げているが、ドラフト会議の指名は編成サイドに一任。球団が獲得してきた金の卵を、フラットな目で見て育てていく。

 そんな理由があるにせよ、若いチームにおいてラミレス監督が選手と取るコミュニケーションには、鉄則がある。

「私は選手の批判をメディアを通じて決してしない。思うことがあれば、自分の言葉で本人に伝えたい」

 実際、メディアが伝えるラミレス監督のコメントにネガティブなものはない。背景には、経験が少ない選手たちにとって間接的な発言で萎縮させず、能力の100%を発揮させる狙いがあるだろう。CS進出争いがかかった昨季終盤。「多少のミスをしてもとがめない。うちのレギュラーは半分が今年なったばかりの選手たち。これ以上、監督の立場の私が『頑張れ』と言ってもプレッシャーになるだけだから」との言葉は、指揮官の信条が伝わる象徴的なものだった。

「若手育成」の宿命を背負い、「眼力と信頼」によって奮闘する指揮官。かつて能天気なほどの明るいパフォーマンスで沸かせていた「ラミちゃん」からすると、「監督・ラミレス」は意外な姿かもしれない。しかし、ある球団幹部は、こう言っていた。

「皆さんは意外と思うかもしれないし、実際によく言われる。でも、球団としては選手時代から5年もの付き合いがあった。だから、今の姿は決して意外なものではない」

 そう考えると、昨季の躍進も若手の台頭も偶然ではないように思える。もちろん、網谷、細川は10代であり、佐野も経験は少ない。シーズンで戦力になるかというと未知数だが、日替わりのように出現する新星に明るい未来を想像し、一喜一憂できるのが春季キャンプの特権だ。

 19年ぶりのリーグ優勝へ、ラミレス監督が就任2年目を迎える今シーズン。「ひょっとしたら、ひょっとして……」。期待でファンの胸が膨らむのも、無理はない。