5月1日、2日の2日間、東京五輪のバレーボール会場となる有明アリーナでの"テストマッチ"として国際親善試合が開催された。無観客試合となった中国代表との試合はテレビで中継されたが、男子の試合を見た多くの人が、彗星のごとく…

 5月1日、2日の2日間、東京五輪のバレーボール会場となる有明アリーナでの"テストマッチ"として国際親善試合が開催された。無観客試合となった中国代表との試合はテレビで中継されたが、男子の試合を見た多くの人が、彗星のごとく現れたアウトサイドヒッター、19歳の髙橋藍(らん/日本体育大学2年)に目を引かれたことだろう。



中国との親善試合、紅白戦で存在感を示した髙橋

 髙橋が初めて代表に登録されたのは、東山高校(京都)の3年時の2020年2月。同年1月にキャプテンとしてチームを牽引し、春高バレー優勝を果たして大会MVPを獲得したばかりだった。

 身長は188cmとアタッカーとしては決して高くはないが、攻守の"巧さ"には定評があった。春高での活躍を見ていたファンにとってはワクワクさせられる人選だったが、一方で、「この選出はパリ五輪に向けての"未来枠"で、登録のみに終わるのではないか」という見方もあった。

 昨年は東京五輪が1年延期となり、他の国際大会は軒並み中止になった。そこで日本代表は8月、その年のメンバーのお披露目の場としてリモートマッチ(無観客試合。ネットの配信で中継)で紅白戦を行なった。

 日本体育大学に入学した髙橋も、ひとつ年上で同じ京都出身の大塚達宣(早稲田大)らと共に出場。髙橋は好レシーブを披露し、中垣内祐一監督は「バルセロナ五輪のチームメイトだった青山繁(現・中京大学監督)のようなタイプだ」と髙橋を評価した。青山も髙橋と同じ188cmでレシーブ力とスパイクのテクニックに長け、法政大学在学中から1990年代の日本代表を支えた選手だ。

 中垣内監督はその紅白戦以降から、五輪開催が1年延びたことも相まって、パリに向けての未来枠ではなく、東京で髙橋を起用することを意識していたのかもしれない。



攻撃力だけでなく、守備力の高さも光る

 2021年3月に発表された日本代表登録メンバー24名にも名を連ね、前述の親善試合・中国戦のメンバー14名にも選出。新主将の石川祐希が不在だったこともあり、いきなり第1戦から、大塚と共にスターティングメンバーとして起用された。

 第1戦は格下の中国に対してフルセットでの辛勝。序盤は髙橋の攻撃がブロックされる場面も目立ったが、セットを追うごとに調子を上げていった。髙橋は試合後、「序盤は相手の高さに慣れず、様子見をしてブロックされてしまった。だけど徐々に慣れて、終盤は改善することができました」と話した。

 そして翌日の第2戦、髙橋は第1セット序盤から連続得点するなど大活躍。髙橋本人は修正した部分についてこう振り返った。

「前日に被ブロックが多かったので、高い位置から打つこと、ブロックアウト(相手ブロックを利用して得点)で決めることを意識しました。勝負所でスパイクを決められたことが自信につながりましたね」

 さらに、翌週の5月8日、9日に行なわれた紅白戦でも攻守で活躍し、彼が入ったチームは2日間とも勝利。髙橋は「中国戦後、高さのある相手に対してどう攻撃していくかを意識して練習に取り組みました。1週間でスキルを伸ばすことは難しいですが、意識を変えることはできる」と手応えを口にした。19歳とは思えない高いレベルでの試行錯誤、それを的確な言葉で表現する発信力の高さも感じられた。

 五輪代表に残れるのは12人で、そのうちアウトサイドヒッターは4人である。このポジションはリベロと一緒にサーブレシーブを担うため、レシーブ力が非常に重要だ。髙橋も「自分の役割は、まずレシーブ。次に攻撃」と語る。

 この若さで安心してレシーブを任せられるスキルの高さは、中学時代にリベロのポジションを経験したことも大きい。

 髙橋は小学校2年時に、2つ年上の兄・塁(日本大学4年/バレーボール部主将)がいた小学生チームに入り、バレーボールを始めた。兄の塁は、「僕が女子代表の栗原恵さんに憧れてバレーを始めたので、当時から藍も一緒にテレビでバレーを見ていました。バレーを始めた時はとても小柄だったのですが、最初から器用にプレーができて、コートの中をすばしっこく走り回っていました」と振り返った。

 京都市立蜂ヶ岡中学校に進学した当初、藍の身長は158cmだったという。1年生の時は兄の塁がエース、藍はリベロのポジションに入り、全国大会に出場した。塁は「僕が引退したあと、藍はスパイカーになりました。レシーブに磨きをかけて、高さがない分、攻撃でも小技を身につけていた印象があります」と語る。藍は兄の卒業後、スパイカーとしても全国大会に出場しているが、現在の彼の土台はこの時期に作られたようだ。

 高校も兄と同じ私立の男子校・東山を選んだ。髙橋とエース対角を組んだ兄の塁は、「中学で1年間一緒にやっていた時よりも遥かに成長していたので、間違いなく『自分よりすごい選手になるだろう』と思いました」と当時の印象を語る。

 京都の高校男子バレーはレベルが高く、大塚達宣がいた洛南の壁に阻まれ、塁は春高の舞台に立つことがなかった。しかし藍が3年の時、遂にその壁を破って出場を決めると、全国制覇まで果たした。大学生になっていた塁は、春高の全試合を会場で応援した。

「高校時代の自分と同じ1番のユニフォームを着ている藍を見て感動しました。自分が春高に出場できなかった分を背負って戦ってくれたので、本当に誇らしかったです」

 昨年は大学バレーで初の兄弟対決も実現。そこでも塁は藍の成長ぶりを実感したという。さらに今回、代表での活躍を見た塁は「体格がよくなって、さらにプレーが安定しましたね。サーブレシーブの安定感もすばらしい」と目を見張った。

 5月28日からは、イタリア・リミニでネーションズリーグが開幕。6月23日まで予選ラウンド15試合を戦い、上位4チームに残れば6月26、27日のファイナルラウンドに駒を進める。

 この大会には17人の選手が登録され、髙橋も名を連ねているが、東京五輪代表12人は大会に出場した選手の中から選出される。世界各国のチームと戦いつつ、チーム内でポジション争いのサバイバルが繰り広げられることになる。塁は「レセプション(サーブレシーブ)の軸として攻守で活躍してほしい」と願うと共に、「結果がどうであれ、ケガなく本人がバレーを楽しんでくれれば」と兄らしく弟を思いやった。

 バレーファンの中には、すでに「エース石川の対角に入って活躍してほしい」と期待を寄せている人も多いだろう。世界の強豪を相手にどこまで戦えるのかは未知数だが、吸収力、修正能力の高さを発揮して活躍できるのか。オリンピック代表12人の座を手中に収めるのか。BSでテレビ放送も予定されているネーションズリーグは、あらたな若き才能が飛躍を遂げる大会になるかもしれない。