トップでチェッカードフラッグを受け、モナコ王室のロイヤルボックス前にマシンを停めたマックス・フェルスタッペンは、マシンに馬乗りになり、力強いガッツポーズでかつてないほど喜びを爆発させた。 伝統のモナコGPを初めて制覇した。これまでに5度の…

 トップでチェッカードフラッグを受け、モナコ王室のロイヤルボックス前にマシンを停めたマックス・フェルスタッペンは、マシンに馬乗りになり、力強いガッツポーズでかつてないほど喜びを爆発させた。

 伝統のモナコGPを初めて制覇した。これまでに5度の挑戦で一度も表彰台にすら立ったことのなかった難攻不落のモナコを、完璧なドライビングで制した。まさしく完勝だった。



伝統のモナコGPを制したフェルスタッペン(写真中央)

「ターン1をトップで通過したあとは、とてもうまくペースをマネジメントすることができたし、タイヤもいたわって走っていた。モナコGPはとにかくタイヤをできるだけ長く保たせるかが勝負のカギで、それによってスティントをできるだけ引っ張り、ピットストップのための空間を見つけるのが"定石"だからね。

 何台かのマシンが早めにピットインしてくれたことで、僕としては少し楽になった。おかげで、かなりレースをコントロールすることができたね」

 予選でポールポジションを獲得したシャルル・ルクレール(フェラーリ)が、ドライブシャフトのハブ側のトラブルでスタートできなかったことも味方した。

 しかし、その後のフェルスタッペンと2位カルロス・サインツJr.(フェラーリ)のペース差を見れば、フェルスタッペンが語るように、ソフトタイヤをフェラーリ勢よりも長く保たせてコース上にとどまり、ハードタイヤの熱入れに苦しむ彼らの前に出ていただろう。レース終盤にプレッシャーをかけようとプッシュしたサインツは、あっという間にタイヤが駄目になってしまった。

 フェラーリは低速かつバンピーなモナコの路面に合わせて、脚回りを柔らかくしなやかにセットアップし、低速コーナーや縁石の乗り越えでタイムを稼ぐことで驚くべき速さを見せた。一方、レッドブルは木曜フリー走行で苦戦を強いられ、結局は脚回りを固めてRB16Bの空力性能に頼る走りをすることでタイムアップを果たした。

 予選ではフェラーリが優勢だったものの、それは予選偏重のサスペンションセットアップあってのこと。タイヤの保ちやレースペースは、レッドブルのほうが何枚も上手だった。

 対して、メルセデスAMGはタイヤの温度管理に極めて苦労し、タイヤのグリップを引き出せなかった。ルイス・ハミルトンは予選7位に沈み、決勝でも全車に先駆けてピットインしたことで"モナコの定石"の戦略を採ったセルジオ・ペレス(レッドブル)やセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)に逆転されて、7位でレースを終えることになった。

 序盤に2位を走ったバルテリ・ボッタスも、タイヤのタレは早かった、早々にピットインするも作業ミスによりホイールナットの山をなめてしまい、タイヤ交換ができなくなってリタイアを余儀なくされた。

 ライバルたちが次々と脱落していくなか、フェルスタッペンだけが完璧なレースを続けて78周を走り切った。

「バルテリ(ボッタス)はある時点からタイヤに苦しみ始めて、先にピットインせざるを得なくなった。外から見ればスムーズなレースに見えたかもしれないけど、これだけの長丁場でコンセントレーションを保ち続けるのは大変だったので、こうして勝ててとてもうれしいよ」

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も、フェルスタッペンの完璧なレースコントロールを賞賛している。

「フェラーリやメルセデスAMGの不運もあったが、マックスはスタートからレースを非常にうまくコントロールしていたし、今日の午後はまさに文字どおり、すべてを支配下に置いていた。速く走る必要がある時には速く、そうでない時にはタイヤを非常にうまくいたわりながら走っていた。本当にすばらしいパフォーマンスだったよ」

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターも、すべてが想定どおりに機能し、チーム全体としても余裕を持った完璧なレースだったと振り返った。

「想定内でのマシンバランス、タイヤデグラデーション(性能低下)、エンジンのクーリング、すべてが正常な想定内でことが運んだレースでした。ライバルにとっては不運でしたが、逆に言えば我々にも何が起こっていてもおかしくなかったわけですから、裏では『こういうことが起きたらこうしよう』と話しながらレースを進めていました。(ライバルの不運が)なかったとしても、そんなに結果は変わらなかったかなという気もします」



初めてのモナコGPを完走で終えた角田裕毅

 ホンダにとっては、1992年以来のモナコGP優勝である。

 アイルトン・セナが6勝を挙げている特別なモナコで、F1参戦最後の年にどうしても勝利がほしかった。ポールポジションは赤旗に阻まれて逃したものの、決勝ではしっかりとその雪辱を果たした。さらにはトップ6に3台が入るという、これまでで最高の結果を手にした。

 フェルスタッペンは4点差でドライバーズ選手権をリードし、レッドブル・ホンダも1点差とはいえコンストラクターズ選手権でメルセデスAMGをリードすることとなった。

 これもホンダにとっては1991年以来のことだが、ホンダとしてもチームとしても、この結果に浮かれてはいない。重要なのは、アブダビでシーズンを終えた時に前にいることだからだ。

 ホーナー代表は言う。

「モナコGP終了時に両チャンピオンシップをリードしているなんて想像もしていなかった。これは、いかに状況があっという間に変わってしまうかという証でもある。シーズンはまだまだ先が長い。メルセデスAMGが不振のレースで我々が大量得点を獲得することは、非常に大きな意味を持つ。

 シーズンの最後まで、この差を維持し続けなければならない。だからこそ、プレッシャーがある。今は目の前のレースを戦い、信頼性を確実なものとし、安定して結果を残し大きな取りこぼしなく戦っていくことが大切だ」

 一方で角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)にとっては、初挑戦のモナコGPは厳しいものとなってしまった。

 フリー走行2回目でクラッシュを喫し、予選想定の走行ができなかった。そこから少しずつ自信と速さのビルドアップに遅れが生じ、予選でもチームメイトと0.637秒差でQ1敗退となってしまった。

「マシンセットアップがうまく進んでいなくて、キビキビ反応してくれるマシンに仕上がっていないんですが、今週は僕の責任によるところがあったのも事実。FP2の(クラッシュで)走行距離を少し......かなりの周回数を失ったのが最大の問題で、そこで少し自信を失ってしまいました。チームメイトと比べてその点は大きかったと思います」

 抜けないモナコで16番グリッドからのスタートとなっただけに、ハードタイヤを履いて長く引っ張り、前走車がいなくなったところで本来のペースで走る戦略を採った。そこでセーフティカーが出れば、チャンスにもなり得る。

「ポジションを上げるためには、周りとは違うことをやらなければいけないと思っていたので、この戦略には僕も賛成でした。でも、そのギャンブルはあまりうまくいかなくて、ハードタイヤだったので周りと比べて1周目のグリップ不足に苦しみ、いくつかポジションを落としてしまいました。ずっと誰かの後ろを走っているようなレースになってしまった」

 スタートでニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)に先行を許し、彼がピットインするまで抑え込まれてしまった。ようやく前が開けてペースを上げたところで、フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)がタイヤ交換を終えて前に立ちふさがった。ソフトタイヤを保たせるために抑えて走る彼のペースに付き合わされることになり、結局ラティフィを抜けずに終わってしまった。

 しかし1周遅れとはいえ、78周のレースを走り切った。角田としては、この3戦ほどで付きまとっていたモヤモヤした思いを晴らすことができたのではないだろうか。

 ドライビング面でも発言面でも自制を強いられながら、長い決勝を走り切った。もちろんFP2のクラッシュはその自制心が足りなかったとの批判は免れず、モナコで重要な自信とドライビングを組み立てる妨げになったことは否めない。依然として角田自身が不満を抱えるマシンのセットアップも、走行データと走行時間が減ったのだから、それだけ煮詰められなくなる。

 ただこれで、平常心で戦うことが難しかったこの3戦から一度、心を落ち着けられるだろう。よかったところとよくなかったところを見詰め直し、後者の中に自分の甘さや他者に責任を求める甘えが存在していないか、あらためて自分に問いかける。そうやって、次へとまた一歩成長してもらいたい。