5月23日、東京・秩父宮ラグビー場にて「最後のトップリーグ」の決勝戦が行なわれた。2003年に創設された現行トップリーグは18シーズン目で幕を閉じ、来年から新リーグに移行する。 決勝に駒を進めた2チームは、「堅守速攻」を武器とするパナソニ…

 5月23日、東京・秩父宮ラグビー場にて「最後のトップリーグ」の決勝戦が行なわれた。2003年に創設された現行トップリーグは18シーズン目で幕を閉じ、来年から新リーグに移行する。

 決勝に駒を進めた2チームは、「堅守速攻」を武器とするパナソニックと、「攻撃ラグビー」が信条のサントリー。今季無敗同士の激突は、パナソニックがサントリーの猛攻をしのいで31−26で勝利し、最多タイとなる5度目の優勝を飾った。



来日1年目でいきなり得点王に輝いたボーデン・バレット

 大成功に終わった2019年ワールドカップの影響もあって、日本人選手やトップリーグのレベルが確実に上がったのは間違いない。また、世界的なスター選手が数多く来日したことで、「今季のトップリーグは過去、最もレベルが高かった」とも評価されている。

 その来日したトップ選手たちのなかで最も耳目を集めたビッグネームは、現役「オールブラックス」ニュージーランド(NZ)代表で、2016年と2017年に2年連続で世界最優秀選手賞を受賞しているSO(スタンドオフ)ボーデン・バレット(サントリー)だろう。

 バレットは2023年のワールドカップまでNZラグビー協会と契約を結んでいる。しかし、協会への長年の貢献が認められて、海外で1年間プレーできる「サバティカル(長期休暇)制度」の利用を許され、日本へとやってきた。

 コロナ禍の影響で1カ月ほど開幕が遅れたものの、バレットは2月下旬に10番(SO)のイエロージャージー姿でトップリーグの舞台に立った。

「10番はゲームをコントロールする役割があり、一番好きで得意なことでもあります。ラン、パス、キックのスキルの高さ、チームでハードワークしているところを見てほしい」

 そう語るとおり、バレットはSOのポジションでNZ代表88キャップの実力を遺憾なく発揮した。

 試合をコントロールするだけでなく、隙があればランで相手のギャップを突いて6トライを奪取。さらには右足で37ゴール・8ペナルティゴールも決めてリーグ戦7試合通算128得点を記録し、2位に52点差の大差をつけて得点王に輝いた。

 プレーオフ準決勝のクボタ戦では、ハイパントキックやロングキックだけでなくドロップゴールを決めるなど、バリエーション豊かな技を披露して勝利に貢献。迎えた決勝のバナソニック戦でも、積極的に仕掛けて3トライに寄与した。しかし、プレースキックのミスも重なり、優勝に一歩届かなかった。

「(サントリーでのプレーは)本当に楽しかったです。最後に仕事を成し遂げられなかった。それがただただ、悔しく、残念です」

 ノーサイド直後、バレットは人目をはばからず、涙を流した。

「非常に有意義な日々を過ごすことができた。優勝はできませんでしたが、すばらしいシーズンでした。トップリーグはスピード、スキルレベルが高くて(プレーしていて)好きでした。ここで学んだことをNZに持ち帰って生かしたい」

 今後、バレットは2023年ワールドカップまでNZでプレーする予定だが、「また、すぐに再会しましょう」という言葉で締めくくった。

 もうひとり、今季のトップリーグを盛り上げてくれたオールブラックスの選手がいる。チーム初のベスト8進出を果たし、まさに「台風の目」となったNTTドコモのSH(スクラムハーフ)TJ・ペレナラだ。

「トップリーグは今、世界のなかで最も成長率が高い。2019年ワールドカップを含めた何度かの来日で、ずっと日本での経験が忘れられなくて......。僕は日本のラグビーのスタイルと文化に興味があり、(NZの先住民族の)マオリと日本の生活はとても似通ったものであるとわかった」

 ペレナラはオールブラックスが試合前に踊る「ハカ」の先導役としても知られている。その役目を託されていることでもわかるように、ペナレラは常にハードワークを怠らないだけでなく、味方選手とコミュニケーションを取り続けてチームを鼓舞した。

 南アフリカ出身の世界的名将ヨハン・アッカーマンHC(ヘッドコーチ)がNTTドコモを強化したことも大きかっただろう。勝負どころでの活躍ぶりは「ペレナラ劇場」と呼ばれるほど、そのインパクトはバレットと並ぶものだった。

 ペレナラに引っ張られたNTTドコモは、昨年1勝5敗と下位に沈んだチームとは思えないほど目覚ましい飛躍を遂げた。シーズンを通して精度の高いプレーを見せて、初のベスト8進出も果たしている。

 ラグビーのプレー環境も気に入っていたため、ペレナラは来季も日本に残ってプレーすることを真剣に考えていたという。しかし、NTTドコモの本拠地・大阪のコロナ感染状況が悪化し、1月末には妻と生後半年の娘が帰国したこともあって、最終的にはNZに戻ることを決意した。

 ただ、NTTドコモでの半年間の経験は、ペナレラにとってかけがえのないものになったようだ。

「このチームと過ごす時間が大好きで、一員になれたことを光栄に思います。ここで育んだ友情は一生ものです。みんなと一緒にプレーできたことを誇りに思います。いつかまた、ここに戻れることを願って。マタネ。アリガトウゴザイマス」

 オールブラックス以外では、オーストラリア代表キャップ105を誇る現役ワラビーズのキャプテンFL(フランカー)マイケル・フーパーも、今季のトップリーグで存在感を示していた。

 フーパーはバレットと同じく、オーストラリア協会と契約を結んでいる。しかし、コロナ禍で協会が財政難となってサラリーを払うことができなくなり、フーパーの「サバティカル」を認めて来日となった。

 金髪ロングヘアーがトレードマークの人気イケメン選手は、欧州のクラブチームではなくトヨタ自動車を選んだ。その理由は「トップリーグはプレーが速く、フィジカル面よりセットプレーにフォーカスしたプレーが楽しみだから」と話す。

 フーパーは身長182cmと、決して大きいほうではない。しかし、7番(FL)のポジションについて、フーパーは強いこだわりを持っていた。

「7番はディフェンス、アタックの両方でインパクトを与えられて、特定のサイズ、身長に特化した部分にとらわれない。自由に解釈できるポジションです」

 外国人選手枠の問題もあって、トップリーグでのプレー時間は多くなかった。それでも、得意とするタックルやジャッカル、さらにはアタックで鋭いランを見せて会場を沸かせてくれた。今後はオーストラリアに戻ってプレーする予定だという。

 最後に、上記3人以外にも今季チームに欠かせなかった外国人選手たちを列挙しておきたい。

 初のベスト4に入ったクボタでは、2019年ワールドカップで南アフリカ代表の優勝に貢献したHO(フッカー)マルコム・マークス。5度目の優勝を成し遂げたパナソニックでは、イングランド代表LO(ロック)ジョージ・クルーズとウェールズ代表CTB(センター)ハドリー・パークスが活躍した。

 この3人をはじめ、トヨタ自動車の南アフリカ代表FB(フルバック)ウィリー・ルルーや、キヤノンのCTBジェシー・クリエル(キヤノン)は、来年1月から始まる新リーグでもプレーが見られそうだ。

 限られた時間のなかで精度の高いプレー、そしてリーダーシップを発揮し、最後のトップリーグを盛り上げてくれた助外国人選手たち。彼らが今後、世界のラグビーシーンでどんな活躍を見せるのか楽しみにしつつ、帰国した選手たちがまた日本でプレーをしてくれることを願って待ちたい。