グランプリの華、モナコGPが2年ぶりに開催される。 昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となったが、今年は1日7500名の観客を動員して行なわれる。F1のシーズンで最も華やかなグランプリがカレンダーに帰ってきたのだ。伝統のモナコを…

 グランプリの華、モナコGPが2年ぶりに開催される。

 昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となったが、今年は1日7500名の観客を動員して行なわれる。F1のシーズンで最も華やかなグランプリがカレンダーに帰ってきたのだ。



伝統のモナコを初めて走る角田裕毅

 しかし、その華やかさに酔いしれていられるのは我々観ている側の人間だけで、レースを戦うドライバーやチームは過酷な現実と対峙しなければならない。

 ガードレールに囲まれたサーキットは、狭く、うねり、曲がりくねっている。もちろん、1ミリでも白線を越えれば、クラッシュが待っている。

 レッドブル・ホンダはバルセロナのセクター3で速さを見せた。それはつまり、同じく低速セクションの連続するモナコでも、メルセデスAMGに対して優位に立つということだ。今年のレッドブル・ホンダには、モナコGPを制するチャンスが大いにある。

 ただしマックス・フェルスタッペンは、実はまだこのモナコで表彰台の経験すらない。2年前は2位でフィニッシュしたものの、ピットアウト時の危険走行でペナルティを科されて降格となっている。それ以前には手痛いクラッシュを何度も経験している。

「僕自身のミスもあったし、不運もあった。ここまでのところ、僕にとって最高のサーキットとは言えないけど、今年はそれをひっくり返せることを願っているよ。僕はまだモナコで表彰台に立ったことがないから、今年はそれに挑戦したいね。そのためには、とにかくクリーンな週末が必要だ」

 オーバーテイクは実質的に不可能。タイヤはほとんど性能低下せず、ピットストップは1回のみ。だからこそモナコでは、予選がなによりも重要になる。

 それはつまり、マシンも決勝のタイヤマネジメントより、予選のアタックにより大きな比重を置いたセットアップを進めることを意味する。

「これだけ狭いコースだから、オーバーテイクの余地はほとんどない。予選がものすごく重要なことはよくわかっている。だからレース週末全体のアプローチとして、かなり予選にフォーカスした戦い方になる。僕らのクルマがコンペティティブだということはわかっているけど、まずは自分たちのことに集中し、自分たちのクルマが臨んだとおりに機能するように仕上げなければならない」(フェルスタッペン)

 通常のグランプリサーキットとは大きく異なり、モナコでは最も長いストレートでも全開時間は約7秒しかなく、最高速は290km/h程度にしか達しない。

 コーナーはほぼすべてが中速・低速コーナーで、イモラではひとつもなかった通過速度が100km/hを下回るコーナーが7つもある。逆に150km/h以上のコーナーは、マスネとタバコの2つのみだ。

 この低速コーナーの連続が、マシンのみならずパワーユニットにも通常とは異なる要求を突きつける。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「非常にタイトなコーナーが多いので、パワーユニットとしてはドライバビリティが大きなカギを握る要素になると思います。なによりドライバーの要求にきちんとついてくるパワーユニットが必要です。

 過去のサーキットでもそれなりに低速コーナーはありますが、モナコはさらに下がります。ということで過去のデータを参考にしつつ、さらに低い回転数のところも視野に入れ、必要に応じてキャリブレーションをチューニングしたものを準備してフリー走行に臨んでいます」

 長らくメルセデスAMG製パワーユニットをドライブしてきたセルジオ・ペレスからの情報や他ドライバーたちからのリクエストを受け、ホンダは2021年型RA621Hの低回転域からのトルクデリバリーを改良してきたという。

「ペレス選手からのインプット(メルセデスAMG製パワーユニットとの比較)で、まだ我々のパワーユニットにも改善する余地があることはわかっています。それは車体との組み合わせで出てくるところでもあるのですが、それに関して向上できるよう努力しています。

 今年のパワーユニットの低速コーナーからのトルクデリバリー、ドライバビリティに関して、ほかのドライバーから『もう少しこうしたほうがいいよ』という話も出ています。それらの対策案を持って、木曜の走行から臨みます」

 ペレスはザウバー時代からモナコを得意としており、2016年にはフォースインディアで表彰台にも立っている。レッドブルのマシン習熟はまだ進みきっていないが、得意のモナコできっかけを掴んでRB16Bを手なずけることができれば、今後に大いにつながる。

「勝てるマシンで臨む初めてのモナコGP。ここで表彰台に立てば、レッドブルでの初表彰台になる」

 ベレスは自信を見せている。

 一方、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は20人のF1ドライバーの中で唯一、初めてモナコを走る。

 前回のスペインGPではQ1敗退を喫してしまったが、その結果よりも言動で波紋を呼んでしまった。だからモナコGPまでの間はメディア対応もほとんど行なわず、自分と向き合って気持ちをリセットすることに徹してきた。

「バルセロナでは厳しいレース週末になりましたし、あんなレースはもうやりたくありません。とくに予選での無線に関してはすごく後悔していますし、あのようなことを口にすべきではなかったと思っています。

 予選でミスを犯してしまったし、自分のドライビングにも満足していません。でも、それを認めて、学び、次に進むしかないと思っています」

 レッドブルのファクトリーにあるシミュレーターで走り込み、経験不足を補い、連続するコーナーに対応すべく心肺機能を高めてきた。やれるだけのことはやってきた。

 アンダーステア傾向で低速コーナーが苦手なアルファタウリAT02は、モナコで苦労することが予想されている。しかし角田にとって重要なのは、冷静さを保ってドライビングに集中し、サーキットを少しでも深く理解することだ。

「アルファタウリのクルマは低速コーナーでそれほど最高とは言えない状態だと思いますけど、一番重要なのは、僕自身がどれだけこのサーキットに適応できるかだと思います。そのためにも、フリー走行でエンジニアにできるだけ多くのフィードバックをして、マシンをセットアップするために必要な情報を可能な限り伝え、僕自身は自分のドライビングだけに集中できるようにしたいと思っています」

 そのためにも、走行時間を失うことは避けたい。

 今年からフリー走行は1セッション60分と短くなっただけに、1周でも多く走り込まなければならない。一度でもタイヤをロックさせたり、集中力を欠いたドライビングで白線を越えたりすれば、クラッシュが待っている。となればドライバーはたちまち自信を失い、さらには走行時間も大きく失ってしまう。

 角田はここまで何度か、無意識のうちにそんなミスを犯してきた。それだけに、このモナコでは絶対に同じ轍は踏まないと言い聞かせている。

「プッシュしすぎると、その瞬間に壁に突っ込むことになる。少しずつビルドアップしていくことが最も重要です。そのためにはFP1からFP2、FP3と、クリーンなセッションを過ごしていくことが重要で、そうやって予選に向けて仕上げていきたいと思っています」

 角田が予選で何番手に行けるかは、中団グループにおけるアルファタウリの相対的な競争力に大きく左右される。大接戦の中団だけに、0.1秒で順位はいくつも変わってきてしまう。

 まず気にするべきは順位ではなく、初のモナコで堅実な走りができるかどうか。そしてスペインGPでの反省を生かせるかどうかだ。今の角田に求められるのは目の前の結果ではなく、自分が犯したミスから学び、成長することだろう。

 同じミスはもう許されない。そのことは角田自身が一番よくわかっているはずだ。

 いかにモナコがグランプリの華と称されようとも、ドライバーたちにとってそこは「ガードレールに囲まれた戦場」でしかない。そこを勝ち抜いたものだけが、ほかのどのグランプリも大きな賞賛を与えられる。それが、モナコという場所なのだ。