様々な種類のコーナーが存在し、さらにはオーバーテイクが難しいレイアウト。バルセロナ・カタルーニャ・サーキットでは、マシンとドライバーとチームの総合力が問われる。「バルセロナの勝者がその年のチャンピオンになることが極めて多い」のは偶然でも迷…
様々な種類のコーナーが存在し、さらにはオーバーテイクが難しいレイアウト。バルセロナ・カタルーニャ・サーキットでは、マシンとドライバーとチームの総合力が問われる。「バルセロナの勝者がその年のチャンピオンになることが極めて多い」のは偶然でも迷信でもなく、総合力の優れた者がこのサーキットで勝ち、シーズン全体を制することが多いからだ。
フェルスタッペンはハミルトンに負けて2位フィニッシュ
だからこそ、今年チャンピオン獲得を目指すレッドブル・ホンダとしては、ここでメルセデスAMGに対してどんな走りができるのかが極めて重要だった。
マシンパッケージの善し悪し、それも低速・中速・高速コーナー、ストレート、それぞれのブレーキング、ターンイン、立ち上がりなど、様々なシチュエーションでの比較ができる。そして勝つためには、レース戦略もドライバーの腕も重要になる。
そんなバルセロナ(第4戦スペインGP)の予選で、レッドブル・ホンダとマックス・フェルスタッペンはわずか0.036秒差で敗れた。いや、昨年は0.708秒もの差をつけられたバルセロナで、ここまで肉薄したと言うべきか。
向かい風になるターン1やターン5では速く、追い風のターン4やターン7〜8では大きく負けた。セクター2までで0.1秒の後れを取り、セクター3の低速セクションで0.2秒を稼ぐ。しかしシケインからの立ち上がりで0.1秒を失い、1ラップを終えたところで0.036秒のプラスだった。
メルセデスAMGとは明らかに違うマシン特性、自分たちの長所・短所がハッキリと見えた。
「このサーキットでメルセデスAMGを打ち負かすのは、かなり難しいということはわかっていた。これだけ僅差に迫って2位になれたのは、とてもいい結果だと思うよ。ラップ自体にはすごく満足しているし、予選全体の流れにも満足している」
バルセロナの予選でメルセデスAMGとほぼ同等の速さを見せたことに、フェルスタッペンはまずまずの手応えを感じている様子だった。
「ここはほとんどのコーナーが高速で、タイヤがオーバーヒートしやすい。だからタイヤマネジメントがすごく重要になるし、決勝ではそれをきちんとこなすことが大切だ」
フェルスタッペンがそう危惧したように、決勝は決して楽な展開にならなかった。
スタートダッシュを決めてターン1でインに飛び込み、やや強引にルイス・ハミルトンの前に出て首位に立った。過去3戦と同じように、フェルスタッペンが攻めの姿勢を見せ、ノーポイントは避けたい王者ハミルトンが引くという展開だった。
しかし、そこからはハミルトンのペースのほうが上回り、ギャップを広げることができない。フェルスタッペンは24周目にチームとの無線コミュニケーションミスでピットインしてしまい、タイヤが準備できておらず4.2秒もの静止時間を要したうえに、戦略面でも苦しくなってしまった。
フェルスタッペンはなんとか首位をキープしたものの、ミディアムタイヤの性能低下は予想以上に速く、ピットストップを遅らせたハミルトンは4周新しいミディアムタイヤで追いかけてくる。そのペースに押されて必要以上にプッシュしてしまったことで、フェルスタッペンのタイヤの性能低下はより一層進んでしまった。
そして42周目、ハミルトンはもう一度ピットイン。さらにフレッシュなミディアムタイヤに履き替え、22秒後方から毎周1秒以上速いペースで猛追を見せる。
メルセデスAMGが2回目のピットストップを決めた時点で、フィニッシュまで残り1周で追い着く計算。ハミルトンのペースが遅ければ追いつけないし、タイヤを温存できていなければコース上で抜くこともできない。ピットインのタイミングが早すぎれば、追い着いた時にフェルスタッペンのタイヤはまだグリップがあって抜けない。タイミングが遅すぎれば、22秒のギャップを取り返せずに終わる。
そんなギリギリの戦略を、ハミルトンは完璧にこなしてフェルスタッペンを一発で抜き去り、勝利をもぎ取った。ハミルトンに全幅の信頼を置くからこそ、メルセデスAMGはそんなギリギリの戦略を与え、ハミルトンもその期待以上の走りを見せた。
「ある意味、こういう結果になることはわかっていたんだ。ソフトタイヤの第1スティントの最後には、もう彼のほうが速いことはわかっていたし、ミディアムタイヤを履いてからも彼のほうがかなり速かった。彼は僕の1秒以内にずっといたし、僕らとしてはこれ以上どうすることもできなかったと思う。彼が2回目のピットストップをした時点で勝負はついたと思ったよ」(フェルスタッペン)
レッドブル・ホンダが初めてポールポジションを獲得し、決勝で逆転されて勝利を逃した2019年ハンガリーGPと、まったく同じ展開だった。
バルセロナGPはメルセデスAMGの完勝に終わった
レッドブルは意思疎通不足によりフェルスタッペンを早めにピットストップさせてしまったことで自らの首を絞め、さらにはセルジオ・ペレスがピットインのタイミングを逃したことでダニエル・リカルド(マクラーレン)を抜けず、結果としてハミルトンに2ストップ作戦を可能にする余裕を与えてしまった。
メルセデスAMGが2回ストップ作戦で攻めてくることはわかっていたが、もうミディアムタイヤを持っていなかったレッドブルには対抗しようがなかった。もちろん、メルセデスAMGはそれを知ったうえでこの戦略を仕掛けたのだろう。
さらに言えば、そこに向けたメルセデスAMGの盤石の準備は、フリー走行でのタイヤの使い方と決勝に向けたミディアムタイヤの残し方の段階から始まっていた。レース週末全体を通しての戦略という点でも、差を見せつけられた。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は語る。
「ここまで開幕4戦すべてのレースで、彼らのレースペースのほうが優れている。タイヤのデグラデーション(性能低下)が我々よりも優れているんだ。ポルティマオ(第3戦ポルトガルGP)とバルセロナ(第4戦スペインGP)では、とくにその強みが生きたと思う。
我々が2ストップ作戦を採って翌周にピットインしていたとしても、ルイスの後方に戻ることになっただろう。最初の40周で見たとおり、彼らのクルマのほうが速くてコース上で抜くことはできないと考えていたから、我々はステイアウトして最後まで粘るだけだった。とにかく、ルイスのペースが速すぎた」
メルセデスAMGは開幕前テストでリアのオーバーヒートと突然グリップが抜ける症状に苦しんだこともあって、ブレーキディスクからの高熱を積極的にタイヤのウォームアップに活用する手法を採っていない。それが、レースでのタイヤ性能低下の少なさにつながっている。
今年のレッドブル・ホンダは確実に、メルセデスAMGと同等の速さを身に着けた。しかし、トータルパッケージとしての総合力の差は、まだ端々に表われる。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは語る。
「バルセロナは、メルセデスAMGとハミルトン選手の速さと戦略が我々を上回った結果だと思います。チームとしての総合力を上げるためには、速さも作戦も改善しなければいけないということですね。そうしないと彼らには勝てない」
どこを生かし、どこを改善すべきか。それを正確に把握するうえでも、バルセロナでの走行データは役に立つはずだ。
「強みも弱みも、これからもう一度データを見直します。単純なラップタイムだけでなく、セクター別、コーナー別、ストレートスピードの観点やタイヤのデグラデーションや磨耗、そのあたりを全部。自分たちの物差しがあるバルセロナですから、貴重なデータが得られたと思っています」
長いシーズンはまだ始まったばかりだ。ここから先をいかに戦うかで勝負は決まる。レッドブルもフェルスタッペンもホンダも、まだタイトルへの挑戦をあきらめてはいない。