マシンの総合力が問われる第4戦スペインGPバルセロナ・カタルーニャ・サーキットで、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が突きつけられたのは、厳しい現実だった。 角田は前戦ポルトガルGPでの不振から、マシンに対する違和感を抱いていた。Q1敗退…

 マシンの総合力が問われる第4戦スペインGPバルセロナ・カタルーニャ・サーキットで、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が突きつけられたのは、厳しい現実だった。

 角田は前戦ポルトガルGPでの不振から、マシンに対する違和感を抱いていた。



Q1敗退で予選16位に沈んだ角田裕毅

 自分はフロントのグリップが足りずにクルマの向きを変えていけず、一発も遅ければ、フロントタイヤの保ちも悪い。その同じマシンを、僚友ピエール・ガスリーは最適なバランスと評価することもあれば、弱アンダーステアながらもスムーズに乗りこなし、予選ではQ3まで運び、決勝でもタイヤを保たせる。

 それは、不慣れなポルティマオのサーキットと、刻々と変わる風向きのせいであったのか? それとも、自分がドライブするクルマ自体に問題があるのか?

 ポルトガルGPの後に悩み抜いたという角田は、その点を走り慣れたバルセロナで確認したいと考えていた。

 その結果が、予選16位、Q1敗退という極めて厳しい現実だった。

「とてもガッカリしています。僕らの本来のパフォーマンスとしては、楽にQ1を突破できるレベルにあったし、Q3進出を争うくらいの力があったと思います。でも、今週はずっとマシンバランスに苦しんで速さを発揮できず、予選でもグリップを引き出すことができませんでした」

 Q1でのガスリーとのタイム差は0.366秒と、決して大きかったわけではない。しかし、Q1敗退という予想外の結果に角田は怒りを爆発させてしまった。

 怒りにまかせた無線での発言はチームに対する怒りではなく、批判したり責任を押しつけるような意図ではなかったと謝罪した。

 角田の無線交信の激しさ自体は今に始まったことではなく、放送禁止用語を交えた言葉遣いは褒められたものではない。だが、フランツ・トスト代表をはじめ担当レースエンジニアらスタッフは、昨年10月のテストから角田の言葉遣いに慣れており、「別にそのままでも構わない」としている。

 予選後の取材に対して、角田はマシンに対する違和感がいよいよ強くなったことを吐露した。

「同じセットアップで走っていても(ガスリーとのフィードバックは)ほとんど真逆と言ってもいいくらいに違います。その点には常に大きなクエスチョンマークがあって。もちろん同じ(AT02という)クルマなんですけど、本当にこの2台が同じなのかと疑ってしまうくらい、キャラクターがあまりに違うんです。

 ドライビングスタイルの違いのせいで、そういうフィードバックになっているのかもしれません。でも、現時点ではハッキリとしたことはわかっていませんし、なぜこんなにマシン挙動に苦しんでいるのか、何が起きているのかが理解できていません」

 マシンを100パーセント疑っているというわけではない。ドライビングスタイルが違うからこそマシンに求めるものも違い、それゆえにマシンに対するフィードバックが異なっているのかもしれないという可能性もきちんと伝えた。しかし、そのニュアンスが正確に伝わったとは言いがたく、ガスリーと同じマシンなのかという疑いの声として報じられてしまった。

 とはいえ、角田のなかでマシンに対する違和感がつのっていることは確かだ。

「マシンバランスはかなりいいです。セットアップ面ではスイートスポットに入っていると思います。あとはタイヤ温度などすべての要素をうまくまとめ上げれば、いいタイムが出せると思います」

 金曜フリー走行では、こう話していた。にもかかわらず土曜午前のFP3では、アンダーステアが強くコーナリング中にフロントが逃げていくようなマシン挙動に苛立ちをつのらせ、無線で声を荒げてレースエンジニアのマティア・スピニに「裕毅、落ち着け」とたしなめられる場面もあった。

 予選Q1でも、ガスリーが1回目のアタックで上位タイムを記録したのに対し、角田は2セット目のタイヤを投入せざるを得なかった。ターン5までは同等のタイムで、セクター2のターン12までは0.1〜0.2秒落ちで来ていたにもかかわらず、ターン12の出口でグラベルにタイヤを落とし、その先のターン13出口から最終シケインで0.2秒を失ってしまった。

 思いどおりにドライブできないマシンに対する苛立ちから、最終セクションのドライビングはプッシュしたというより、ただ粗くなってしまっただけのようにも見えた。中団グループは僅差とはいえ、アルファロメオ、ウイリアムズ、ハースの計6台と比べれば余裕はあったのだから、無理にプッシュしなくてもQ2には進出できる場面だった。

 その結果、0.007秒届かずのQ1敗退。そして決勝はウイリアムズやハースと戦った直後、わずか7周で燃圧低下によってコース上にマシンが止まり、初のリタイアとなる。



角田裕毅はバルセロナGPで初のリタイアを喫す

 そもそもAT02のマシン特性として、自分好みのオーバーステア傾向のマシンに仕上げることはできない。ただその事実は、開幕前テストの段階から指摘しながらもうまく対処してきたはずだった。

 しかし、アルファタウリの相対的ポジションが下がることで、ポルトガルGP、スペインGPは厳しい結果となり、マシン特性に対して抱えてきた角田のフラストレーションや違和感が爆発してしまった。

「今週はフリー走行からすごくフラストレーションが溜まりました。昨日の予選は僕のミスでしたけど、今日は完全に自分にはどうすることもできないトラブルだったので、ここから立ち直るには自分がやるべき仕事に集中するしかないと思います」

 いずれにせよ、マシンに対する違和感や不信感を持ったままでは、角田も本来のポテンシャルを出し切れない。

 疑いの気持ちがあるのなら、イモラの予選でクラッシュしたあとも使い続けている6号車モノコックを交換してみてもいいだろう。そして角田も、うまくいかない理由を他者に求めるのではなく、まずは自身の中に足りない部分がなかったのか向き合う必要がある。

「うまくいったことはチームのおかげ、うまくいかないことは自分に改善すべき点があるから。僕はずっとそういうメンタリティでやってきた。そうでなければ、ドライバーとして成長し続けることはできない」

 圧倒的な速さと強さでFIA F2を制してF1に昇格し、2年目でフェラーリに加入したシャルル・ルクレールは当時、そう語っていた。

 技術は常に進歩していき、自分たちのマシンもライバルたちのマシンも常に進化していく。レースの戦い方も変化していく。そのなかで戦い抜くには、どんなに偉大な結果を残そうとも常に改善し、成長しようとするひたむきな努力が必要だろう。それは7度の王者ルイス・ハミルトンをはじめ、トップドライバーたちが皆一様に口を揃えることだ。

 苛立ちやネガティブな感情は、何もプラスを生み出さない。ネガティブな感情をバネに、前へと進むポジティブな力へと変えて、今一度フレッシュな気持ちですべてを見詰め直してもらいたい。