角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)がF1の壁に直面している。 ポルトガルGPで下位に低迷した角田が突きつけられたのは、単なるコース習熟不足でもなければ、タイヤの熱入れの問題でもなかった。悩みを抱えながらバルセロナ入りした角田裕毅 開幕戦バ…

 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)がF1の壁に直面している。

 ポルトガルGPで下位に低迷した角田が突きつけられたのは、単なるコース習熟不足でもなければ、タイヤの熱入れの問題でもなかった。



悩みを抱えながらバルセロナ入りした角田裕毅

 開幕戦バーレーンでも、第2戦イモラでも、結果にこそ表われなくとも実質的なスピードを見れば、いつ僚友のピエール・ガスリーの上を行ってもおかしくないほど、角田のF1デビューは順風満帆な滑り出しのように見えた。しかし第3戦ポルトガルGPで、それが幻想だったことに気づかされたのだ。

「ポルトガルGPを迎えるまでは、F1マシンに慣れて使いこなせていると思っていたんです。だけど今になって思えば、バーレーンやイモラは何度も走っていて、クルマに慣れるというよりもサーキットに慣れていきますから、すんなりと走れたんです。

 それを、クルマをコントロールできていると勘違いしていた。走れていると思ってしまっていた部分があった。初めて走るポルトガルで、あらためて『まだまだクルマに慣れ切っていないんだな』と気づかされたんです」

 その事実を突きつけられた角田は、ポルトガルからバルセロナへとイベリア半島を東に移動する間、悩みに悩み抜いた。

 うぬぼれていたことに気づき、もう一度、イチからさらに繊細にF1マシンを学び直そうとしている。

「ポルトガルGPのあとはテンションが下がるというか、落ち込むというほどではないにしても、かなり考えたり悩んでいるところはあります。でも、それはいいことだと思うし、バルセロナではFP1からそういうところを意識し、もっとクルマの動きを繊細に捉えてマシンに慣れていきたいなと思っています」

 現状のアルファタウリAT02はダウンフォース量がやや乏しく、ステアリングを切っても曲がりにくいアンダーステア傾向のマシンになっている。

 リアが安定していてフラつかないマシンを、ガスリーは難なく走りこなす。しかし、角田はAT02の細かな部分まで手足のように操れていないからこそ、曲がらないマシンを強引に曲げていくようなドライビングがまだできない。

 徹底的に走り込んだバーレーンやイモラではそれができたが、初走行のポルティマオではできなかった。それがポルトガルGPの低迷につながったのだ。

「F2の時にもそうでしたけど、マシンを自由自在に操れるようになれば、アンダーステアのマシンでも曲げられるようになります。そのあたりがまだ(アルファタウリでは)使い切れていない。だから(マシンを変える前に)自分のドライビングからまず見詰め直したいと思っています。

 クルマ自体の調子が悪いわけではないですし、ポルトガルがちょっと悪かっただけで、今回はまたバーレーンやイモラのようなペースに戻れるとチームも期待しています。クルマのパフォーマンスを維持しながら、まずは自分のドライビングをF1に慣らしていきたい」

 バーレーンやイモラとはワンステップ違った、より繊細な挙動の把握とコントロール。FIA F3とFIA F2でかなり走り込んでいるバルセロナは、それを学び直すのに打ってつけの場所となる。

 直面したF1での最初の壁を、角田はいかに乗り越えて行くのか。苦戦を強いられるのか、それとも容易く乗り越えるのか、ある意味で彼の今後を占うレース週末になるのかもしれない。



今季からFIA F3に参戦する19歳の岩佐歩夢

 その週末のバルセロナでは、F1のサポートレースとしてFIA F3が開幕する。注目は、今季からこのカテゴリーに参戦する岩佐歩夢(いわさ・あゆむ)だ。

 昨年フランスF4でチャンピオンを獲得し、レッドブルジュニア入りを果たしての昇格。すでに2回の開幕前テストをこなし、最終日には2位のタイムを記録した。角田と同等かそれ以上に落ち着き払った様子で、自分を冷静に判断しているのが印象的な19歳だ。

「バルセロナテストの結果は、正直言って2日目はそこそこだったものの、それまではまったく上位に食い込めませんでした。でも、その結果に対する焦りは大きくなくて、内容的にはいいデータや得るものがすごくあったので、それを開幕戦に向けて徐々に詰めていった結果がバルセロナ2日目の2位だったかなと思います」

 課題となるのはやはり、ピレリタイヤを労わりながらいかに攻めるか、という点だ。これについて、まだ明確な答えは見えていないものの、バルセロナの週末でしっかりと把握するためにピレリタイヤをいじめ抜くつもりだと岩佐は語る。

「バルセロナのテストでは、一発ではいいレベルに行けたものの、ロングランが少し課題でした。アグレッシブさとタイヤマネジメントのバランスの取り方を探りながらやっていて、まだいいポイントがわかっているわけではないんです。開幕戦は攻めすぎなくらいで行ったほうが今後のレースにつなげていけると思っているので、タイヤマネジメントに関しても攻めの姿勢で行きたいなと思っています」

 岩佐は今季のFIA F3王者をターゲットに掲げ、角田と同じように1年でFIA F3を卒業してF2へとステップアップする青写真を描いている。もちろん、レッドブルジュニアの一員としてF1を目指す激しい競争にも勝ち抜いていくつもりだ。

 話をF1に戻そう。レッドブル・ホンダは前戦ポルトガルGPで低グリップ路面に泣き、2位・4位という結果に終わった。

 しかし、あらゆる要素が詰め込まれたハイグリップで標準的な路面のバルセロナでは、マシンパッケージとしての総合力が問われる。過去のデータも豊富にあるため、自分たちの何が強みで弱点がどこにあるのかも、はっきりと突きつけられるだろう。

 特徴的かつ過去データの乏しいサーキットで行なわれた開幕3戦では見えてこなかったものが、このバルセロナでは克明に見えてくる。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「バルセロナは毎年開幕前テストとレースで走っているので、自分たちの定規(様々な速度域のコーナーでの比較基準)を持っていますから、徐々に改良を加えてきたマシンのいろんな要素の強み・弱みが見えてくる。ここでいきなり状況が大きく変わるとは思っていませんし、ビックリするような結果にもならないと思いますが、エンジニアとしては(自分たちのマシンパッケージ性能の判断基準として)ここできちんとした結果を加えられるかな、という気持ちです」

 バルセロナでレッドブル・ホンダと角田裕毅がどのような走りを見せるのか。それは彼らのシーズンの今後を大きく占う結果になるはずだ。