フロリダ州で行なわれる予定だった開幕戦が1カ月半延期されて第2戦となり、南部アラバマ州の常設ロードコースサーキット、バーバー・モータースポーツ・パーク(全長2.3マイル)で2021年のNTTインディカーシリーズが開幕した。 感染予防対策で…

 フロリダ州で行なわれる予定だった開幕戦が1カ月半延期されて第2戦となり、南部アラバマ州の常設ロードコースサーキット、バーバー・モータースポーツ・パーク(全長2.3マイル)で2021年のNTTインディカーシリーズが開幕した。

 感染予防対策で観客の上限は2万人とされたが、チケットは完売。レースは好天のもとで行なわれ、強豪チップ・ガナッシ・レーシングに抜擢されたスペイン出身の24歳、アレックス・パロウがキャリア初優勝を飾った。日本のスーパーフォーミュラで走った後、昨年インディカーシリーズにデビューしたパロウは天性のスピードと冷静さを併せ持つことをアピール。2シーズン目をトップチームで走るチャンスを掴み、最初のレースでいきなり優勝してみせた。2位は2014年チャンピオンのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、3位はパロウのチームメイトで昨年6回目のチャンピオンとなったスコット・ディクソンだった。



インディカーシリーズに初挑戦から12シーズン目を迎えた佐藤琢磨

 インディカー12シーズン目を迎える佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング=RLL)は、バーバーでの緒戦で好成績を挙げることができなかった。昨年はパンデミックにより、このコースでのレースはなし。2019年以来の開催だったわけだが、2019年にここで勝ったのが琢磨だった。しかも、ポールポジションから他を寄せ付けない圧勝だった。

 ところが今回、舗装が新しくされたツィスティでアップ&ダウンの多いコースは、RLLのマシンセッティングに合わなくなっていた。ラップタイムが一挙に2秒以上も速くなり、まるで違うサーキットになってしまったのだ。

 昨シーズンのRLLは、ロードコースでパフォーマンスが良くなかった。開幕前のテストが少なく、パンデミックによってシーズン中のテストは禁止に。さらに各レースウィークエンドに走れるプラクティスの時間も短くされたために、マシンのセッティングを向上させることができなかったのだ。

 2018年に琢磨が加入して以来、RLLはオーバル用セッティングの戦闘力を高めることには成功した。次なるテーマはロードコース、ストリートコースで速くなることだ。

 彼らは昨シーズン最終戦のストリートレース(セントピーターズバーグ)でようやく明るい兆しを示した。だが、そこで得た改善のヒントを、まだ常設ロードコースのセッティングに反映するところまでは到達していなかった。

 ただ、バーバーでの開幕戦では様々なトライを行ない、少しずつだが着実にマシンを改善していった。予選は琢磨が19位、レイホールが18位と芳しくない結果に終わったものの、レースにはそこからもう一段ひねりを加えたセッティングで臨み、トップグループに迫るペースで90周のレースを戦い抜いた。マシンにトラブルが出ていた琢磨はウィナーたちが選んだ2ストップ作戦を採用できなかったこともあって13位でのゴールとなったが、レイホールは7位フィニッシュを達成した。

 今シーズンのインディカーシリーズは、9月下旬までに17戦がスケジュールされており、そのうちの13戦がロードコース、ストリートコースでの開催となる。オーバルコースは全長1.5マイルで急なバンクを持つテキサス(ダブルヘッダー)、全長2.5マイルの超高速コースで行なわれる第105回インディ500、そしてセントルイス近郊のショートオーバル(全長1.25マイル)だけ。琢磨はテキサスではポールポジション獲得経験があり、インディは昨年を含め2勝、セントルイスでも一昨年に勝っている。オーバル4戦すべてで、琢磨は優勝候補に数えられることとなる。

 そして琢磨には「インディ500連覇で通算3勝目を達成するのではないか」と、アメリカでも注目が集まっている。

 昨年の冷静沈着な戦いぶり、そして終盤一気にトップを奪って逃げ切った勝ちっぷりからして、いまインディアナポリスモータースピードウェイでの勝ち方を最も深く理解しているのが琢磨であることは間違いない。レース序盤からリードを続け、勝利を確信していたディクソンを、琢磨はセンセーショナルに打ち負かした。シリーズ最強と呼んでいいチームのガナッシがベストの力を発揮したレースで、琢磨とRLLがウィナーとなったのだった。

「今年の目標は、まずはインディ500を連覇することです」と琢磨も言い切っている。

「チャンピオンはシリーズにフル参戦する限り、いつも目指しているものですが、その前に年間ランキングでトップ3に入る安定した戦いができるようにならないと。今年はシーズン開幕からトップ5でコンスタントにフィニッシュする戦いを目指します」とも語っている。

 今年の琢磨はタッグを組むエンジニアが新しくなった。3シーズンをともに戦っていたエンジニアが引退。新しいエンジニアのマット・グリースリーとのコミュニケーションを深めることも仕事となる。はっきり言って負担はかなり大きく、何年もコンビを組んでいるライバルに対して不利であるのは確かだ。

 しかし、新コンビがそれまで以上のパフォーマンスを発揮することもよくある。マットが吹き込む新しい風により、チーム全体のレベルアップがなされることも起こり得る。琢磨とマットがいい化学反応を起こすことを期待したい。